第四話 新しい塒
【
自分で魔物の討伐が出来ない子供達は、冒険者が倒した魔物の解体の残りを漁る。
もちろん、蔑称だ。
だいたい、あまり金にはならないしダンジョンには危険もある。
でも、ポーターも出来ない体力の無い子供達は、そうでもしないと生きていけない。
「あたしも付いていって良い?」
ミルカがおずおずと言う。
彼女は七歳で、まだポーターが出来る体力が無い。
それを引け目に感じているようだ。
「もちろんだよ。ミルカの魔法は当てにしてるからね」
ターニャの言葉に、ミルカが花のように笑顔をほころばせる。
「それについちゃ、僕に考えがある。ちょっと面白い物を見つけたんだ。だから皆で行こう。ただし、他には一切秘密だよ?」
僕は唇に指を当ててニヤリと笑う。
「うん、絶対秘密にする」カティ、即答。
この娘、ちょっと危ないな。危ない所を助けて仲間にしたのが僕だから、懐くのは仕方ないけど、程度が半端じゃない。吊り橋効果かな?
「アッシュが何か悪巧みしてるようだな。まあ、悪いようにはしないだろうが」
ターニャが目を眇める。
「うん。悪いようにはしない。ただし、僕が良いと言うまで質問無し。良いかな」
「アッシュを信じるさ。今まで期待を裏切った事無いしね」
オルトが気弱そうな笑顔を浮かべる。
「美味しいものあるの?」ダイン!食い気しか無いのか。
翌日、僕たちは全員でダンジョン入り口に立った。空のバックパックを背負って。
見張り番のおじさんがちょっと意外そうな顔をする。
「ターニャのパーティーって訳無いな」
「ああ、あたいはこの子達の護衛だよ」
「もしかして、【
「ああ、そうさ。この子達はあたいの家族だからね」
見張り番のおじさんがため息をついた。
「折角冒険者になったのに……まあ、俺にとやかく言う権利は無いな」
「心配してくれてありがとね、おじさん」
ターニャが笑顔でひらひら手を振る。おじさんも笑顔になる。
こういうのがターニャの凄い所だな。人誑し。
「うん、これであたいらが【
「付いてきてくれ」
入り口から入ってしばらく、壁面にえぐられた小部屋に入る。
さすがにちょっと緊張する。多分、僕たちの運命が掛かってる。
岩の壁面に手の平を当てる。
頼む、出てくれ、前のように。心臓の鼓動が激しい。
出た。
二から十までの表示とG。足元に青白い光が浮かび上がる。
もちろん、僕はGをタッチする。
「へ?」
「これ、何?」
皆が焦る暇も無く、僕たちはゲートの小部屋に立った。
「なんじゃこりゃ~~~!」
ターニャの叫びがこだまする。
でも、僕は達成感で安堵する。もし、駄目だったらこの子たちにどう詫びようか、想像もつかなかったんだから。
他の子達は固まったまま、あんぐり大口を開けてる。
小部屋の片面の壁の向こうに見える、コンソール、壁面のディスプレー、天井に燦然と輝く結晶体。
「大丈夫、これが僕の見つけた物なんだよ。皆付いておいで」
僕は子供達を居住区に連れて行った。
ターニャは油断無く周りを警戒しながら、子供達を背中に庇うように歩いて行く。
カティは僕にしがみついたままだ。
ダインは……きょろきょろしてるけど、食べ物を探してるんだろう。
オルトは目を見張って周りを見渡している。前見ないと躓くよ、って躓いた。
「ふわああああ……」
ミルカが変な声を上げた。
「どうした?」
「なんか、ふわふわモワモワしたのが一杯!あたし、おかしくなっちゃう」
おい、おい、何だそれ。くねくねして。チビのくせにエロいぞ。
「それ、多分、魔素だ。僕にも見える」
オルトが声を潜める。
「魔素って、魔法の元?オルト、見えたの?」
ターニャが訝しげに目を眇める。
「うん。ミルカが魔法使ってる時、何だろなって思ってたんだけど。ここのは凄い」
ここはダンジョンのマスタールームだから魔素が充満してても不思議じゃ無い。
まずは居住区に皆を連れて行く。
入ってすぐは居間。ローテーブルを囲んでソファ。
ドアを開けると寝室がふたつ。ちゃんと男女で分けてある。前もって人数分のベッドを用意しておいた。
いきなりベッドにダイブしようとしたのを襟首掴んで引き止める。
「待て待て!まずは風呂に入ってから」
脱衣場から風呂場を覗いた皆は歓声を上げる。湯船は全員余裕で入れる大きさだからだ。
皆がいきなり服を脱ぎ散らかす。まあ、今度脱衣篭の使い方を教えるか。
「待て待て待て!入るのは体洗ってから!」
一斉に湯船に飛び込もうとするのをかろうじて押しとどめる。
さすがにターニャとオルトは年長組。年少組を洗ってやってる。シャワーには途惑ってたけど、すぐに使い方を覚えた。シャンプーは……まあ、次で良いか。
僕は脱ぎ散らかした服をまとめ、洗濯乾燥機にかける。
それから湯船を見ると――
大騒ぎだ。お湯のかけっこ、足の引っ張り合い、潜ってるのも居る。
ターニャまではしゃいで暴れてる。きゃっきゃきゃっきゃ。いやはや。
混浴状態だけど、
いや、さすがにオルトは意識するか。ターニャは結構胸が発達してる。
二人とも二次性徴期だもんね。まあ、僕も。勃っちゃったのは内緒。
散々遊んだ後は、洗濯乾燥済みの衣服に着替え、食事にする。
厨房は前世の流しやコンロ、冷蔵庫なんかが再現されてて、ダインはすぐ使い方を飲み込んだ。
食事の間、何があったのか皆に説明した。前世の記憶についてはややこしくなるので端折る。
「ダンジョンマスター、ねえ。おとぎ話かと思ってた」ターニャがため息をついた。
「それ、悪い奴じゃなかったの?ダンジョンを操って人や街を襲う」
「話ではね。でも違うっぽいよ。ダンジョンを管理してスタンピード起きないようにしたり、消滅しないように色々調整する役目みたいだ」
「ダンジョンマスターって見つかった事がないんでしょ?」
「そうだね。多分、僕たちが初めてお目に掛かるんじゃないかな」
それから皆が僕の事をじっと見つめる。やめてくれ。
「何になったとしても、僕は僕だよ。皆の仲間だ」
四年間苦楽を共にした仲間だ。何があってもそれは変わらない。
「見たところ代わり映えしないし」
「アッシュだしねえ」
「モンスターには見えないよな」
「洗ったら結構綺麗だよね」
空気が緩んだ。
幼いせいか、過酷な生活を生き延びてきたせいか、皆の切り替えが早い。
「あたいらはついてる。ここがあれば、あたいたちは大人になるまで生き延びられる。ここの事もアッシュの事も内緒だよ」ターニャが言い切った。
皆が一斉に頷く。
その後は全滅パーティーの荷物をそれっぽく、皆のバックパックに分けて詰める。
【
さすがに入り口側から戻ると怪しまれるから、二階層まで転移する。
それから一階層まで登るんだけど、途中の魔物は僕が露払いする。
駆け出しったって、僕はダンジョンマスターだからさ!
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