第3話 ポーション作成

 森の中を歩き始めてすぐのこと。

 私は薬草を発見した。

 マキシソウと呼ばれる、三等級の体力回復ポーションを作るのに必要な素材だ。

 ゲームを始めたての頃にはよくお世話になった。


 懐かしさを覚えつつ、私はアイテムボックスから小瓶を取り出すと、上位職業のアイテム・クラフターより得たスキルを発動させる。


「【ポーション上位作成・三等級体力回復】」


 スキルの発動に合わせて、マキシソウが私の掌の上から僅かに浮き上がる。それからパラパラとほどけて液体化すると、小瓶の中に吸い込まれた。


 三等級体力回復ポーションの完成だ。琥珀色をしている。


「素晴らしい……」


 私は感動した。疲れた体に鞭を打ち、寝不足を押し、それでも夢中でプレイしたあの世界が現実になっている。

 先ほど早着替えで武装を整えた時とはまた違った感覚だ。

 ラグナロクで獲得した能力が自分の力として操れるという、ある種の全能感。


「ゲームの時とは演出が違う……。現実だからこそということか」


 いわゆるフレーバーテキストなどの設定まで忠実に再現されているわけだ。

 下手をすれば、効果まで変化しているスキルやアイテムなどもあるかもしれない。

 のちほど十分な時間を取ってすべて検証しよう。


 余談だが、最初期の職業であるアルケミストでも三等級ポーションは作れる。ただし今回はそれよりも上位のスキルを使用しての作成なので、品質は保証されている。

 ゲームの時は最高品質のものならHPを75回復してくれた。最低品質なら20だ。


 私は自分の指先を噛み切って、そこにポーションを振りかける。出血が止まり、傷はたちまち塞がっていった。


「よしよし。このポーションの効能は問題ないようだ」


 街に定住するにしても、自由に世界を旅するにしても、とりあえずはこれを売って生活しよう。

 自分の手持ちの物はなるべく使いたくはないから。


 方針を定めた私は、それからポーションを作りまくった。

 そして数十分後。


 私は正気に戻る。どうやら夢中になっていたようだ。

 ここはマキシソウの群生地だったみたいだが、ほとんど採取し尽くしてしまった。

 少しだけ残しておこう。そうすればまた生えてくる筈だ。


 100レベルのプレイヤーが三等級のアイテムを使うことは絶対と言っていいほどない。

 貧乏性な私でさえ、アイテムボックスに一つも入っていなかった。だからこそ、つい癖で集めてしまった。私はストックがないとソワソワする性格なのだ。


 私は立ち上がると、ポーションをアイテムボックスに放り込んでから先に進む。


 それからほどなくして、森から抜け出れた。


 前方を見れば、二百メートルほど先に村があった。この体は100レベルに相応しく、目がいい。


 私は村を観察する。

 嫌な予感がしたのだ。


 見れば、暗殺者風の装束を纏った者が、村人の首を切りつけていた。

 戦力差は歴然で、一方的な暴虐だ。


 また別の場所では、火の手が上がった家屋から飛び出してきた騎士らしき女性が、暗殺者のような集団に襲われている。

 どうやらまともに戦えるのは彼女だけらしい。

 他にも騎士はいるが、既に地に伏せている。


 私は迷った。

 自分を犠牲にする生き方に疲れて、今世では自分のために生きたいと願ったのに、また人助けをするのか。

 いや、私でなくてもいい筈だ。誰か他に戦える者は──。

 そう思って周囲を見回すが、村は孤立している上、隠密系のスキルを使っているのだろう暗殺者たちが村を包囲までしていた。とても援軍は望めないだろう。


 いるのは私だけ。

 そして今の私には……力がある。


 前世のように、ただ身を呈して庇うのではなく、戦うことができる。

 私はゆっくりと左手を持ち上げて、星級宝器、ラーの指輪を見つめる。


 リング部分には、無数の星々が熱で焼き尽くされるような意匠が凝らされていた。

 中心にはオレンジ色の宝石が填められており、燦然と輝いている。おそらくは太陽を模しているのだろう。

 つまり、この指輪が示唆するところは、中心の太陽がリング上の星々をことごとく滅ぼすということ。


「……こんな細かいところまで拘らなくてもいいだろうに」


 小さく呟いたとき、太陽の光が反射して、オレンジの宝石に私の顔が映った。


 転生を繰り返してきた私は無数の顔を持った。転生する度に、時代や環境、果ては世界まで変わった。

 しかし、そんな中でもこの悪癖だけは変わらなかった。

 9999回やって変わらなかった人間が、もう一度同じことをやって変わることができるだろうか? ある日突然、器用に生きられるだろうか?


 ふっと、軽い息が漏れる。それから私は諦めたように笑う。


「やはり、私は私でしかないということか。──サモン」


 規定の流れにしたがって、私は最強の存在を世界に降臨させる。


「【星喰らいラー・ホルアクティ】」


 新たな太陽が、地上に顕現したようだった。

 それは直径100メートルを越える巨大な光球であり、超高熱の塊。

 まばゆすぎてハッキリとはその姿を視認できないが、放たれる威光は間違いなく、私が何十回と討伐に挑んだ裏ボスモンスターのそれだった。


「卵形態で待機。天空にて指示を待て」


 戦闘時の形態でなければ、消費経験値は格段に抑えられる。

 切り札は取っておくものだ。もし暗殺者集団が全員レベル100であれば、その時は躊躇わず投入する。


「さあ、行こうか」


 私はこの世界の太陽と並ぶように待機した太陽神から視線を切ると、村へと突入した。

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疲れたおっさん、錬金術師を極めたVRMMOのデータを引き継いで転生する ~人助けには疲れたけど、見捨てることもできないので正体を隠して色んな奴を始末します~ むね肉 @mwtp

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