決して無かったものにできない黒歴史

逢坂 純(おうさかあつし)

決して無かったことにはできない黒歴史。

僕の黒歴史は、僕の出会った人に対しての懺悔のつもりで書き始めたつもりが、それは他人に向けた刃になってしまったのではないかとも思います。あてにならない自分の記憶を頼りに、ただの歪曲された自分可愛さばかりの記憶を綴っただけなのではなかったでしょうか。言葉を生業にしようと作家という職業を志し、毎日、執筆活動に励んでいる僕は、周りの友人とは全く違う人生を選び、歩いてきたように思います。けれども、子供の頃は、アニメ好きでバスケットが好きな少年だったはずでした。僕は自分を振り返ると、公立の小学校、中学校へ通い、バラエティー豊かな子供の集まりの中のひょうきんな子供だったようだったと自分では記憶しています。その中では、未だにしこりを残すような子供故の残酷さや、思春期故の恥ずかしい体験も多数あったように思います。僕は今回、この黒歴史大放出祭を友人から教えて貰いました。毎日、書き続ける中で、この企画の趣旨である「お清め」ができていたように思います。

自分と他人の記憶の差というものは、大きいものと思います。僕のあの時の鮮烈な記憶は、誰かにとっては、些細なものだったり、またその逆然りです。だから僕が今回書いてきた黒歴史は、他人にとっては忘れていたような取るに足らないような記憶なだけかも知れません。

中学生特有の性への好奇心と悪戯、高校生になって自分の駄目さを隠し守るためだけに吐いた嘘、大学生だった自分が薄っぺらいアイデンティティを守ろうとした強情さ、社会人になっての世の中を舐めていたとしか思えない浅はかさ、どれも僕の中では消し去りたい黒歴史であったように思います。だけれども、それを書き記すだけの度量が僕にはまだ無いことにも気づきました。僕はそれほど小さな人間なのだと感じました。自分の過去は後悔ばかりの記憶ほど鮮烈に残っているようにも思いました。それらの記憶が全部嘘ならいいのにとも思いました。しかし、その記憶を全部嘘にして全て無かったものとしたら、僕の人生は本当に何も無くなってしまうような気もするのです。僕の生きてきた人生は、そんな黒歴史で一杯だったものだとも今回このような機会を与えて貰って実感しました。けれども僕の書く文章が非凡の域に達しないことを考えると、僕の人生は、友人知人誰もが歩む、ありふれた人生だったのかも知れません。僕だけが自分の中で大げさに自分の記憶を特別なものとしているだけなのかも知れません。今回、この黒歴史を自分で書いてみて、そして他人の黒歴史を覗き見することによって、人が営む道に、正解というものはないのだと感じました。まさに十人十色なのだと思いました。そのたくさんの黒歴史の中では、僕の黒歴史の記憶など、どんどんと埋もれていってあまりにも些細、他人にとってあまりにも無関心な記憶だったのではないかと思います。

けれども僕には、それでもその記憶をさっぱりともう過去のこと、と思い切ることができません。他人にとってはちっぽけで無関心な、けれども僕には大き過ぎる黒歴史を、未だにひた隠しに隠し持つ自分は、誰よりも人間らしいと言えば人間らしいのかも知れません。小さなもしくはくだらない僕の黒歴史は僕にとっては愛おしく人間らしい記憶なのかも知れません。それは既に敢えて人に言う必要もなく、自分の胸の中で、悩んだり悶えたり七転八倒していればいいだけなのかも知れません。ここに書き切れなかった黒歴史こそが、自分の大切な宝物で、この先も忘れてはいけない大切な記憶なのかも知れません。無かったことにできないそんな黒歴史を、この先も抱えて僕は生きていきたいと思います。そんな1ヶ月を与えてくださったカクヨムさんに感謝ですし、黒歴史を書き続けるモチベーションになった審査員のお二人にも感謝したいです。多分、今回この黒歴史大放出祭に投稿した文章の中で、あとで読み返した時一番恥ずかしく思うのは、たいしてカッコ良くもないのにカッコつけて書いているこの文章なんだろうなと思いつつ、それでも書かずにはいられない衝動に駆られて書いた文章なんだろうなと思いながら、僕の今回の黒歴史大放出祭の幕を下ろしたいと思います。ありがとうございました。

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決して無かったものにできない黒歴史 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808

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