第15話 この世界のルート。

「――留学先で、王太子殿下が、エヴァンス侯爵家のご子息を見初めました。ご子息も王太子殿下に応え、二人は相思相愛になりました」


 それを耳にし、俺は目を閉じたままで考える。

 そうか、アレクは王太子ルートに進んだのか。


 あのBLゲームには、どれがメインルートという記載は無かった。ただ、王太子ルートは非常に人気だとは聞いた事があった。俺の前世の妹も、王太子を推していたのは覚えている。


「ただアレク様は、お兄様を待っていると話していました。そこで俺は、今のままでは嫁げないというアレク様の立場を整えるためもあり、失踪したご長男の捜索をすべく、帝国に戻り、準備をしていました」


 なるほど、王太子ルートに限らず、もしかすると俺の捜索のために、ジャックはシナリオ上、秘密裏に姿を消したのかも知れない。なんとなく、俺はそんな風に考えた。どのルートでも、王太子はアレクを可愛がっている設定だったからだ。命じてもおかしくは無い。


「幸い、すぐに居場所は分かった。理由は、エヴァンス侯爵家の者しか使用できないような高度な魔術を使える者の内、年齢が合致する者が、まず問い合わせた冒険者ギルドが知る限り一人しかいなかったからです」


 俺は若干自分が迂闊だったなと、目を瞑る瞼に力を込めてしまった。思えば先程使った複合魔術だってそうだ。


「失踪して生活するなら冒険者だろうという判断で、まず真っ先に冒険者ギルドを当たりました。丁度、青闇迷宮を攻略したタイミングでもあり、貴方の事はすぐに特定できた」


 もう……ジャックは、俺がエヴァンス侯爵家の長子だと断定している様子だ。最初から、分かっていたと言うことなのだろう。


「なので帰還するよう説得する理由を考えていたところ、レニー殿下が失踪し、貴方に白羽の矢が立った次第です」


 そういう経緯だったのかと、沈黙したまま、内心で俺は頷いた。


「――ガイ様の事も、最初は戻らせるために、その条件として提示する手はずでした。もっとも、貴方の答えはどうあれ、俺は助けられる命は助けたいので、悪夢を解く事を優先するよう働きかけましたが、利用しようとしたのは事実です」


 納得しつつ、ジャックは優しいなと考える。同時に思った。

 確かにこの流れならば、自分とジャックに接点が生まれても不思議は無い。

 そう思考し、同時に動揺した。


 ――まさか現状はゲーム通りに進んでいるのか?


 狼狽えない方が無理である。


「なので最初から俺は、幾度か遠くから観察した事もあり、貴方の事を知っていました。ガイ様と酒場で食事をしながら明るく笑う姿を見かけた事もあります」


 ジャックが隣でどこか切なそうに息を吐いた。


「その時はなんとも思いませんでした。でも今は、時折寂しそうな顔をする貴方の事が気になってたまらない」


 続いて響いた声に、俺は瞠目した。思わず目を開ける。


「ガイ様の代わりになれるとは思えません。でも今は、背中を任せてもらえない事が不甲斐なく、ガイ様が羨ましい」

「ガイとお前は違う」


 咄嗟に俺は口を開いていた。


「……分かっています」

「そうじゃなく。全然分かってないよ。ジャックはジャックだ。ガイとジャックは違う人間で、その……今、俺にとって……」


 だが俺は、自分が何を言おうとしているのか、上手くまとめられない。


「……ジャックのおかげで俺は、人と一緒にいるというのがどういう事が思い出せて、それで……」


 ダメだ、本当にまとまらない。


「ジャックをその、大切な――」


 そこまで続けて、俺は一度言葉を切った。


「――相棒だと思ってるよ」


 必死に俺は言葉を紡いだ。だがそれを口に出すと、とてもすんなりときた。そうか、俺はジャックを相棒だと思っていたのか。それは間違いない。すぐにそう確信した。


「っ、エドガー」

「ね、寝るぞ! 明日も早いし。おやすみ!」


 だが気恥ずかしさが襲ってきたため、慌てて俺はそう告げた。


「――おやすみ」


 すると優しい声音が返ってきた。嬉しさが滲んでいる。

 それに安堵しながら、俺は瞼を伏せ、今度こそ眠りについた。



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