第14話 想定外。

 帰宅してから、俺は戦闘でついた汚れを落とすためシャワーを浴びた。

 入れ違いにジャックもシャワーを浴びにいった。

 リビングのソファに座し、俺はあれやこれやと思案しながら、ジャックを待っていた。そしてジャックが戻ってきて、水を飲むのを見た。喉仏が動いている。そしてジャックが席についたのを見計らい、声をかけた。


「五階建てなのは間違いなさそうだけど、俺は火焔魔竜がボスだったと思う。本来のボスは四階にいたんじゃないのか?」


 これまで考えていたことをまとめて口に出す。だが、ジャックは沈黙したままだった。ありえないと思っているのだろうか?


「ジャック?」

「――なりませんか?」

「ん?」

「俺では頼りになりませんか?」


 だがようやく口を開いたジャックは、俺の予想外のことを言った。虚を突かれた俺は、何を言われたのか純粋に分からなかった。だから問いかける。


「なんの話だ?」

「庇われてばかりだ。俺では、前衛として不足でしょうか?」

「そ、そういうわけじゃ」

「俺では代わりになれませんか? ガイ様の」


 それを聞いて俺は目を見開いた。

 ……。

 俺はよかれと思ってやってきた。言葉に窮した俺は、驚愕したままでジャックを見る。するとジャックがふいっと顔を背けた。


「……つまらないことを言いました。忘れて下さい」


 それからジャックは頭を振った後、改めて俺を見た。


「アッシュだとすると、レニー殿下を攫った魔族が偽りを述べたのでしょうか?」


 その声に、それまでおろおろしていた俺は、慌てて困惑を振り払い、必死で最初に考えていたことを答える。


「一階の壁画が魔族の王だとすると、火焔魔竜も従える、さらに上位の存在、ボスを束ねるボス、即ち魔王がその魔族だったという事じゃないのか?」

「可能性はあります」

「魔王という真のボスがいる、新しい造りなのかもしれない」


 そこからは、俺達はダンジョンについて話し合った。

 そしてこの日、ほぼ同じ時間にベッドに入ったのだが、俺は眠れなかった。理由は、勿論ダンジョンの件ではない。ジャックが言ったことが気に掛かっていたせいだ。


 ジャックがあんな風に思っていたとは、微塵も考えていなかった。

 第一、俺は前衛という意味合いで、ガイと比較した事なんて一度も無い。

 本当に単純に、俺は俺にできる事を優先して行ってきただけのつもりだった。


 横になったままで、ただ時間だけが過ぎていく。

 すると、その時だった。


「まだ起きてますか?」

「……」


 完璧に起きていたが、俺はジャックに何を言っていいのか分からないままだったから、答えに詰まった。結果……寝ているふりをしてしまった。


「……これは独り言です」


 気づいているのかいないのか、不意にジャックが話し始める。


「俺は以前お伝えしましたが、王国に留学していました」


 耳を傾けながら俺は、久方ぶりにその台詞にゲームの事を思い出す。

 ジャックがそうして語り始めた。




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