第11話 クイズの答え。


 翌日、俺達は準備を整えて、三階へと向かうことにした。

 扉の前に立ち、俺は本日も、事前に属性を探る魔術を用いた。今回は、すぐに特定属性だと判明した。闇属性だ。あまりない属性である。闇属性は、謎が多いと評判でもある。


「開けます」


 ジャックがそう宣言してから扉に手をかけた。開いた扉の先を、俺はひょいと覗きこむ。

 すると斜め上へと続く階段があった。しかしこれは、元々いた上階、一階に戻るわけでは無いのが、ダンジョンの性質だというのは、二階への下降時と同様だ。


「短いですね、突き当たりが見える」

「そうだな」


 階段はすぐに登り終わった。

 俺達が一番上に立つと、不意に足下にあった階段が消失し、俺達は黒い空間に建っている状態になった。暗いのではなく、黒い。


 黒い部屋のようで、全てが影のような作りだ。

 つかみ所の無い黒、とでも表現するとよいのだろうか。そして左右に、等間隔に窓がある。窓枠は影のように見えないのだが、窓ガラスがあるはずの場所に、外界の光景が映り込んでいるように見える。そこは眩い青空の広がる昼の外ではあるが、実際の塔の外ではない様子だ。本物ではないと分かるのは、色とりどりの花が咲き誇っているのが見えるからだ。空中には花など咲かない。まるでここは、色の無い教会の一室のような場所だった。庭が見えている、そんな印象だ。


「これは?」


 ジャックが不思議そうに首を傾げている。


「闇属性でよくある幻影空間だよ。空間自体には害はない」


 俺が答えると、ジャックが俺をチラリと素早く見た。俺は視線を合わせて小さく頷いてから、前へと進む。そうしながら続けた。


「幻影空間ではクイズが出題されることが多い」



 丁度、俺がそう告げた時だった。俺達の前に、巨大な二枚の、トランプのようなカードが出現した。トランプとの違いはと言えば、大きく【YES】と【NO】と書かれていることだろう。やはりクイズが出題される空間のようだ。


 その時、俺の耳に、老若男女のいずれのものとも判断できない声が響いてきた。


『貴方達の内、片方を犠牲にしても、レニー殿下を救いたい?』


 間違いなく、クイズの出題だった。しかし不思議な問いかけだ。答えなんて決まっている。


 俺は迷わず【YES】手を伸ばそうとした。

 ――すると、ギュッと手首を掴まれた。驚いて顔を向けると、険しい顔をしたジャックが【NO】に手を伸ばし、迷わず触れた。


 びっくりして俺は目を見開く。だがジャックはそんな俺に顔を向けると、軽く頭を振った。


「レニー殿下を助けるために誰かを犠牲にする選択は無い。無論、貴方を犠牲にする事は無い。それは俺自身であっても」

「お、お前それじゃ目的が達成できないだろ」

「俺にはそんな選択はできない。できないんだ」


 ジャックがそう断言した瞬間、空間にひびが入った。

 そのまま影で構築されていたような空間が砕け散る。

 そしてそこは白い部屋に変化した。壁際に、天井に続く梯子が出現している。


「……正答だったみたいだな」


 ぽつりと俺は呟いた。ジャックは当然だという顔で頷いているが、なんとなく俺は腑に落ちなかった。レニー殿下を助けるために、ジャックが自分自身を守るのは分かる。だが、俺まで守られるというのは……正直よく分からない。


 ただ本日の攻略は、梯子の前に魔導石を置いて終了となった。




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