第2話 容量おーばー!!!!!!

 あれから3ヶ月ほど経ったが、朝、目を開ける前に耳を澄ませて脅威が無い事を癖は未だに抜けない。向こうの世界では化け物の他にも俺のようにこっちの世界から迷い込み、耐えきれずに気の触れた人間にも注意する必要があったのだ。


 2階の寝室のドアノブを開け、木の階段をゆっくりと降りるとリビングに通じている。リビングの奥側の椅子には娘が座り、ゲームをプレイしていた。


「パパ〜、一緒にやろ!」

 

 このゲームは島に迷い込んだ主人公が、集めた資材で家を作ったりボスを倒したりする世界的に有名なゲームだそうで、最近の娘のお気に入りらしい。俺もよく娘に誘われて遊んでいて、一緒に大きな街を作っている。今は警察署を作っているところで、街の中心にあるためどこで犯罪が起きても駆けつけやすくなっている。しかし、このゲームに存在している人間は自分達のキャラだけだというのが困りどころだ。


「あれ?おかしいな、ブロックが置けない…。」

警察署の受付は前回で完成したため、署長室を作ろうと思ったのだが配置ボタンを押してもブロックが置けない。よく見ると、[容量オーバーのため、これ以上のブロックは配置できません]という文が表示されている。警察署の受付スペースから見て正面、署長室が置かれるはずの所は通りすがりの怪獣なんかが壁をぶち抜いたようになっている。


「容量オーバーか…これじゃ欠陥住宅じゃないか…。まるで向こうの世界の《切れ目》みたいだ」


自分で言っていてハッとした。ただの思いつきだが、もしかしたらこれが向こうの世界にできた出口の理由なのかも知れない。


何者かが、このゲームで家を作るように、たちの悪い世界をいくつも作りそれらを俺達は"容量オーバーでもう世界が作れない"という所まで進むことで脱出が出来たのかもしれなかった。


「え!なんかブロックおけないじゃん!えええええ〜!」


 リビングには娘の絶望と驚きのこもった可愛らしい声が響いた。


むすーっとした顔の娘を冷凍庫のアイスでなだめ、俺は日課にしている向こうの世界の情報調査を始めた。調べるのはSNSの『異世界』という単語のある投稿から動画投稿サイトに上げられている異世界にまつわる怖い話なんてものまで様々で、大体は信憑性に欠ける物だ。しかし、極めて稀に俺が行ったことのある向こうの世界の場所の体験談なんかも見つけられるのだ。


そういう物から情報を得て、その世界の情報をメモ帳にまとめている。他の人がこのメモ帳を見たら俺を『大人になっても幻想を捨てられない人』だと思うだろう。


そんな情報を調べていると、異世界モノの創作物にも詳しくなる。その中でもひときわ目を引いたのは『リミナルスペース』なる物だった。


リミナルスペースというのは本来、廊下や階段といった通路を示す言葉だそうだが、異世界モノでは簡素で無機質などこまでも続く空間を示す言葉として使われるそうだ。そう考えると俺の行っていた世界もリミナルスペースなのかもしれない。

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