あぁ、なんだか悲しい気持ちになる




「無理やりくっついてきたらしいよ?あの女、あの邸からも追い出されたのかもってみんな言ってたし!」


「えー?じゃぁ、やっぱり今も不仲って事?」


「そりゃそーでしょ?あの女よ?当たり前じゃない!旦那様が居ないからって好き勝手されるとこだったのよ?」


「そうなんだ、大人しくしてるのは演技ってこと?」


「あんた、マジでやばかったよ!優しくしたら付け上がって何させられるかわかったもんじゃないよ?」


「えー!」



はい。私は今、使用人達の陰口を庭の隅の倉庫で優雅に聞きながら過ごしています。


私に聞かせる為にそこで会話してるのかは定かじゃないが、使用人達に嫌われてる事は知っていたので『ふーん』としか思わないが。


なぜ私がこんな場所で話を聞いているのかと言いますと、それは一週間前まで遡ります。







「今日からこの邸て生活する事になるエリーとリリーだ。皆、俺がいない間よろしく頼む。」



旦那様は王都にある邸に引っ越してきた私とリリーの紹介を使用人達にしてくれたのだが、以前の私の噂の所為なのか使用人達からの視線は冷たいものだった。


まぁ、こうなるだろう事は薄々感じていたけども、数日経てば今の私を見てくれるようになるかもしれないと思い深く考えないようにした。




「エリー。本当に申し訳ないんだが…数日程忙しくなる。帰ってこれる日は帰ってくるが、帰れない日もあると思う…本当にすまない」




旦那様は馬車から私とリリーを降ろし皆に紹介をした後、急いで馬車へと乗り込み仕事場へと向かっていった。



(…ちょっとなんだか寂しい。)



遠ざかってゆく旦那様の馬車を眺めつつ、なんだか少し寂しくなったのは、きっと見慣れた人が一人もいなくなってしまったからだろうと思う事にした。



(旦那様がいなくなって寂しいとかじゃないもんね!)



なんだか自身の考えた事がすごく恥ずかしくて、誰に聞かれた訳でも言った訳でもないのに頬が赤くなっていくのが分かった。



自分の中に芽生えてきた小さな恋心に脳内で反発をした後、メイドに連れられて私の自室へと案内してもらう事に。



けれど自室と言っても、まだ夫婦の部屋の内装などを決めて業者に頼まないといけないから少しの間は客間に住む事になる。


夫婦の部屋は前公爵夫妻の部屋だった時から何も変えていなく、旦那様も寝るだけだからと子供の頃から住んでいた部屋にそのまま寝ていたらしい。



旦那様に内装などの事を

『俺がいない時に決めても良い』と、言って貰えたのだが、


『旦那様と二人で話し合いたいから仕事が落ち着くまで待ってる』と、私が言った事により旦那様が帰ってきてから決める事になったのだ。


その時の旦那様は嬉しそうに微笑んでいたので、私は少し落ち着かない気持ちになった事を覚えている。



(旦那様も落ち着く部屋にしたいなぁ…)



最近ふと気がつくと、最近旦那様のことを考えてる事が多くなった気がする。


そんなことを考えつつ、知らない邸に対し周りをキョロキョロと見て不思議そうにしているリリーを抱っこしながら歩いていると客間に到着した。



「ここがエリー様のお部屋となります。では、失礼します。」



そう言ってメイドは私と一度も目を合わす事なくどこかへいってしまった。



「うーん?」



私がリリーを抱いているのにも関わらず、扉を開けずにどこかへいってしまったメイドに違和感を感じた。



(なんか、感じ悪すぎじゃないかなぁ?しかも、エリー様って…奥様とは認めないってこと?)



到着早々から既に嫌な予感がしていた私は、メイドの対応で更に嫌な予感が大きくなった。




(これ…部屋の中大丈夫よね…?リリーも居るし、何かあったら本当に怖いんだけれど…)


もしかしたら部屋を開けると何か起こるんじゃ無いかと危惧したのだ。


...そう考えつつも、私は部屋の扉を開ける事にした。開けないと何も始まらないからだ。



(何かあったら怖いから、リリーは少し離れててもらおうかな。)



そう思いつつ、少し離れた壁にリリーを立たせた。


最近リリーは壁に手を付いて立つことが上手になったのだ。


壁に手を付いて立つリリーは、私と目が合うと『すごいでしょ!』という風に自慢気な顔をしてくるのだ。


だが、そのお尻は後ろに少し突き出ていて少し不格好なのだ。



(あぁ、その壁タッチの時のお尻が可愛すぎるわ…力を入れてる時のとんがった唇…可愛すぎる!)


けれど、親バカフィルターの掛かっている私はそれが可愛くて仕方がない。


旦那様もこの間このりりーの姿を見て目尻をだらしなく下げていた。親バカは遺伝するのかもしれない。



そんなことを考えつつ、ゆっくりと私は部屋の扉を開けると…思っていたよりも、なんというか…微妙な部屋だった。



(綺麗なわけじゃないけど、汚いわけでもない。でも、公爵夫人が使う部屋って考えると、汚いって事になるかもしれないけれど…うーん?)



使用人達の反応からして、もっと酷いことがあるかもしれないと思っていたのに、蓋を開けてみれば微妙な仕打ちで私は困惑してしまった。



(というか、旦那様って使用人達になんて言ったのかしら?…私達に会う事に夢中で何も話してないなんてことは…ありうるかも。)



ふと、私はこの邸にいる使用人達からの反応を見て、旦那様が何も言ってないのではと考えたのだ。


今までいた邸の使用人達も初めは私のことを訝しげに見ていたし、仲良くなるまでに時間がかかった人もいた。


今回も同じ感じかもしれない...でも、前回は強い味方が初めからいたのだ。状況が違う。


乳母や侍女長や執事は私が出産してから変わったことを感じてくれたのか、早くから味方になってくれたし、新人のメイド達は私のことをあまり知らなかった様だったので初めから上手く関係を築く事が出来た。



...あの時の私は本当に運が良かったのだろう。



その為、今回この邸にいる使用人達とどうやって仲良くしていったらいいのか悩む事になった。


まぁ、乳母や専属メイドが数日後にこの邸へと到着する様なので、それまでうまく波風立てないように生活したらいいと思うので、そうしようと思う。


ふたりが来てくれたら他の人たちも少しずつ様子を見てくれるようになるんじゃないかと思ったからだ。



(なんか、私が今何か言ったところで反発されそうだし、何かしていい方向に変わる様な気がしないのよね…)



人間は言い訳をされればされるほど相手を疑うし、優しくすればするほど何か企んでいると疑ってしまうらしいとかなんとか…。



(んー?誰かから聞いたのだけど誰だっけ?まぁ、とりあえず何しても疑われるって事よね。大人しくしておこう)



そう思った私はそれから数日の間、リリーと二人で微妙な嫌がらせを受けながらも普通に生活をしていた。


別にそこまでストレスが溜まる感じでもない、実に微妙な嫌がらせばかりだったのだ。



部屋のベッドのシーツが毎日変えてもらえなく、二日に一回。

(前世の記憶があるので毎日じゃなくても気にならない)


お風呂がぬるい。

(春だし、今は結構暖かいので別に気にならない)


朝昼晩とご飯が薄味。そして部屋食。

(この世界のご飯は味が濃いと思っていたから嬉しかったし、旦那様がいない時はいつも部屋でご飯食べていたのでこれは普通だった)


そんな実に微妙な嫌がらせ(一部嬉しい)を受けつつ過ごしていたが、ある日とうとう一人のメイドがやってくれた。



私とリリーを庭の隅にあるよくわからない倉庫へと閉じ込めたのだ。



まぁ、私は常々何かあった時のためにいつもドレスのスカートの中に食料が入った空間袋を隠してるので平気なのだが…、私の腕の中にいるリリーが問題だ。



私は何をされても平気だが、リリーにこういった害がこれからも及ぶのならば話は変わってくる。


使用人達も私が魔法を使ってこの倉庫から出てくるのは考えているのだろう、そして壊れた倉庫に漂う私の魔力を見せつつ旦那様に言うつもりなのだろう。



『奥様が癇癪を起こし倉庫を理由もなく壊しました!』と。



「はぁ…」



私はいけないと思いながらもつい、ため息を一つ吐いてしまった。




私は旦那様を困らせたくないと、今は思う様になったし…ここの使用人は旦那様のことをずっと支えてくれた人たちなのだ。



できれば穏便に済ませたかった。



私の話を聞いたらまた、あの尻すぼみになってゆく謝罪をしてくるだろうと思うと…なんだか少し悲しくなった。



そして、どうするか考えていたところに冒頭の会話が近くで始まったわけである。



「...はぁ。」



腕の中ですやすや眠るリリーを見ながら私は頭を悩ませることになったのだった。

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【連載】悪役令嬢を愛した転生者の母 猫崎ルナ @honohono07

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