第102話【運命を操る神の手】

「俺と星格オルビス・テッラエが、さっきの会合で最初に話に参加しなかった理由は、いくつかの質問の紙を星格オルビス・テッラエに渡していたからだ」


 武藤さんは言い、その紙を1枚テーブルに出した。


『運命固有スキルはスキル封印によって、封じることは可能か』

『不可能。運命固有スキルは神の力の一部で単体魔法。魔法から派生する魔術で魔法に影響を与えることはできない』


 僕たちがそれを確認したのを見て、さらにもう1枚。


『運命固有スキルを停止、稼動させる運命固有スキルはあるか』

『存在する。運命を操る神の手。それもまた運命固有スキルとして、異星の神の最後の行使の後に離反したことはわかっているが、どの周回でも未覚醒に終わり、所有者は現在、生存していることしかわからない』


 少し間をあけて、星格オルビス・テッラエの追記。


『運命固有スキル所持者が死ねば輪廻システムに損傷を与える。器に対して、力が大きすぎるため綻び歪み、最後は崩壊する。今回僕はシステムからの離脱を行えたが、それによる影響も未知』


 そして、次の1枚。


『運命固有スキルは、人物固定か? それとも周回により変更された者はいるか』

『武藤楓、それと始まりの6人以外は、覚醒条件をクリアしたものが得るため変動する。一部の運命固有スキル覚醒者候補を原国左京が、説明会で選定した。直感EXで君がはじかなかった全員が候補者』


 僕は、てっきりすでに他の運命固有スキルを持つ人がいて、その人にも説明をしていたのだと思っていた。

 誰が何のスキルを持っているか、その情報の開示がされなかったのにも理由が何かあると思って、聞かなかった。


 節制テンペランティアとして現れた、星格オルビス・テッラエの説明。

 これから起きること、行ってはいけないこと、それらの情報説明。


 あの時にいたのは、僕たちと共に夢現ダンジョンを踏破した人たちと、何人かの僕の知らない人たち。


「覚醒条件というのは」

 僕の問いに、『運命固有スキルによって異なる』と更に紙に文字が追加された。


「それについては、後でかまいません。明日になれば彼らの中に覚醒者は出ます。問題は神の手。これを持つ人に心当たりがあります」

 原国さんが言う、心当たり。


「今回初めて、血の蘇生術と反魂が得られたことで、大きく今までと変わったことは多い。今までの周回で出現することのなかった、運命固有スキル所持者は、血の蘇生術、あるいは反魂による復活者の中に存在するのではないか、と私は思うのです」


 2000回を越えるループの中で、1度も現れなかったというのであれば、その可能性は高いというのは理解ができる。


 今まで1度も踏めなかった条件。

 復活できなかった人々の復活。意識不明者は死亡者としてカウントされない。目覚めない人々。


「でもそれって、膨大な人数、ですよね」

 有坂さんが言う。報道されているだけでも億単位の人が目覚めずにいる。


「始まりの6人、そして武藤楓を除く、運命固有スキルの覚醒条件を持つ者は、あの15年前の事故から範囲1キロメートルの中に、事故時点から今現在まで住んでおり、尚且つ夢現ダンジョンに召喚された者。というのがこれまでの周回で判明していることです」


 原国さんの言葉に星格オルビス・テッラエが頷く。


「というわけで、その検証を兼ねて、予定では午後から反魂を行う形でしたが、思わぬ邪魔が入った。しかしそれにより、星格オルビス・テッラエとの対話、協力。真の敵が判明し、徳川くんたちへ情報で縛りを作れた。それらは収穫として大きい。食後は、反魂をしに周り、宿泊についてはこちらへ」


 言うと、ルームキーが現れる。東京タワー側の、別のホテル名のルームキーだ。

 それと、周辺地図。


「いくつかの大きな病院に数百名単位で意識不明者を家族と共に収容しています。」

 地図にある病院を3つ、原国さんが指差す。


「アプリ内のマップにも印をつけてあります。移動は星格オルビス・テッラエの分体による転移を。私はここで本体と共に状況を作ります」


 僕と有坂さんは頷き、やるべきことに向けて食事を再開する。

 星格オルビス・テッラエも僕ら同様に食事をしていた。肉体があれば、食事もとれる。


 始めて肉体による食事に彼は満足そうだった。

 人の肉体持つ、新たなルールの敷設者。表情を見れば、ただの15才の少年にも見える。


 食事を終えて、小休止。

 母や根岸くんと連絡をとりあった。楓さんのことは、まだ話せない。

 特に母さんは楓さんと昨夜は一緒にいた。きっとショックを受ける。


 父さんの肉体の復活についても、まだ言えない。

 僕の表情を見た原国さんが、微笑んで言う。


「今日の出来事はお母さんには私から説明をします。ここに私と共に詰めてもらい、お父さんと過ごしてもらいます。君は、有坂さんを武藤くんと共に警護することや、自身が害されないよう、どうか気をつけて」


「ありがとうございます。気をつけます」

 原国さんの言葉に、胸が温かくなる。母さんが、意識はないけれど、父さんと過ごせるのだ。

 そして原国さんがふたりを守ってくれる。とても心強くて、ありがたい。


「有坂さんのご家族も、警視庁内で過ごしています。情報の開示は出来ませんが、警備をつけています。彼らもあなたへの世間の動きに対して警戒をしているし、心配をしています。今度は星格オルビス・テッラエがいる。いざとなれば転移で逃がすこともできます」


「ありがとうございます。家族を宜しくお願いします」

 有坂さんが原国さんへ頭を下げる。


「んじゃあ、行くか。星格オルビス・テッラエ、頼むぜ」

 武藤さんの言葉に、彼は頷いて別の形をした分体ではなく、髪色や目の色を黒にしたそっくりな少年を出現させた。


「役割で分割すると対応が出来ないこともあるので、複製体を君たちにつける。この僕と変わりはそれほどない。上手く運用して欲しい」


 説明不足を武藤さんから指摘されてから、彼は説明を省くことがなくなったのは、とても助かる。

 今回のアップデートで、アプリにも補足の説明が出るようになった。


「ありがとう。行って来ます」

 僕たちは頷いて、病院へと、転移する。


 運命を操る神の手を持つ人を探し出す。

 原国さんのループ、それがまた使えるようになれば、今回がダメでも、詰みはなくなるのだ。


 最優先で、探し出さなければいけない。

 

 僕らが1つ目の病院へ転移完了した瞬間、悲鳴が、耳に届いた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る