第67話【調停者】
「レッドゲートが全部破壊できた周回はなかったんですね……」
都心だけでも相当な数のレッドゲートがある。
それが、全世界にあるのであれば、48時間で全て破壊しきるということ自体が難しい。
そういえば、レッドゲートが潰しきれなかった際の病院等の運用の話も原国さんはしていた。
それを思い出すと同時に、ふと思う。
緊急臨時内閣、そしてダンジョン発生による超法規的措置、国家緊急権、ダンジョン災害特別法……それらの全てがとんとん拍子に進んでいること自体が本来なら考えられないことだ。
ダンジョンゲートが以前からあったとは言え、それは見えない人が大半だったと原国さんは言った。
警察内に、ダンジョンを捜査する課が設立されたこと自体、元々はありえないことだったのではないか。
原国さんがどんな方法をとったのかは、わからない。
僕が見てきた外の景色は、見た目はそれほど昨日と変わらなかった。
もし、原国さんが多数の対策を講じていなければ、元々の流れだと、もっと酷い混乱と殺戮が起きていたのではないだろうか。
原国さんは今日この日のために必要なことを繰り返し積み上げてきたのではないか。
そんな推察をすると背筋が凍った。
何度も何度も死に、昔の自分に戻り、この日のための備えを何度も繰り返す。
とても常人には耐えられないそれを、この人は粛々と行ってきたのだ。
「全破壊ではありませんが、モンスターがゲートから地上に出てこないことは、5度ほどはありました。今回はその5度に必ずあった条件がクリアされていません」
「その条件ってのは?」
「君たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死亡、蘇生が不可能な状態になっていたことです。その場合、レッドゲート自体が出現しなくなる」
「……なるほど、つまりレッドゲートが出た場合は、地上にモンスターが溢れ出ることが避けようがないってことか」
僕たちのうちの誰かが夢現ダンジョンで死ぬことで、モンスターの発生元凶が消えるのは何故だろう……?
ダンジョンに対しての何かを、僕らの魂の何かがする、ということだろうか。
僕や武藤さんはトラック事故の関係者だけど、有坂さんは違う。運命固有スキルによるもの?
だとしたら夢現ダンジョンで運命固有スキルを持った者は、誰も死んでいない、ということになる。
僕たちの誰か。その条件付けがわからない。
「僕たちの運命固有スキルで、現状何ができますか?」
通り過ぎた条件について考えるより、今できることは何かを考えた方がいいかもしれない。
モンスターが溢れるまで、もう36時間もなく、時間もやれることも限られている。
何をすべきか、何を知るべきか、何を考えるべきか。
超人的なスキルがあるとは言え、僕らの体は1つしかないのだからできることは限られている。
「まずは、真瀬くんの職業共有者をレベル最大にし、職業のクラスアップを行ってください。そして、有坂さんには反魂のスキルを取得してもらいます」
原国さんはいうと、大量のスキルポイントコインをワゴンに載せ、テーブルに運んでくる。
原国さんの言う5回。レッドゲートが無くとも、モンスターが地上に現れずとも、人類は全て死に絶える結末を迎える。
それはスキルによるものなのではないだろうか。法外の力を得た人類が、人類を滅ぼした自滅の道だったのではないだろうか。
そんな力を、僕たちは手にしていて良いものなのだろうか。
「今回初めて、血の蘇生術を有坂さんが得たことでかなりの人の運命が変わり、世界の運命も変わった。もしかしたらレッドゲートを潰しきることが、初めてできるかもしれないのです」
原国さんが言う。確かに固有スキルの名の通り、この人は不撓不屈なのだ。希望を何度死んでも、諦めない。
僕たちはスキルポイントコインを手に取る。
これだけの量のコインは、きっと誰かが懸命にレッドゲートダンジョンの中で得たもので、そして託されたもの。
人々の、命そのもの。
迷いがないわけじゃない。
だけど
有坂さんと顔をあわせ、頷き合うと、僕らは目の前の命を使って、スキルの獲得と、職業クラスアップをした。
僕のクラスアップ職業は、運命固有スキルにあったのと同じ、調停者。
共有者の職業スキルはそのままに、『暴力行為の一切が不能』となる効果を持つ。範囲は職業レベルに依存し、『調停の天秤』という能力が発動する。
調停の天秤の能力は対話による紛争の解決。
天秤が水平、等値になれば解決とし、紛争が終結する。
調停不成立になった場合、天秤が傾いた陣営の、主な要因となった人物が全て死亡する。
調停、とはいうが、これは裁きなのではないだろうか。
ルールによる封じ込め。会話による解決。紛争が解決するとはどういうことだろうか。
遺恨は、残らないのだろうか?
僕のスキルという形をとった、書き変わってしまった世界でのルールによる裁判そして死刑執行、そんな連想をした。
範囲も、見ればレベルが最大に近づくほどに広大になり、人数も数千数万と跳ね上がっていく。
これは、抑止力に使うべきだ。
実際に使用することなく、紛争を起こさないための抑止として。
「真瀬くんには、もうひとつお願いがあります」
スキルを確認する僕に原国さんが言う。
その顔に我欲はなく、少しの悲哀が浮かび、
そして
「君には、不老不死のスキルを、君自身に使用して欲しいのです」
その言葉は、どこか祈りに似ていた。
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