第66話【原国左京の告白】

「あの赤髪の男について話す前に、君たちにはひとつの告白をしなければなりません」


 僕たちは応接室のようなところへと通された。テーブルとソファがあり、そして窓際には机。広すぎず狭すぎないその部屋は、警視庁の最上階に近かった。


 その部屋に案内をされると、いつもの微笑を浮かべた原国さんが待っていて、僕たちにそう告げた。


「単刀直入に言います。私の初期固有スキルは氷魔術だけではありません。正確に言えば、『運命固有スキル』というものを持つ者の1人であり、それは君たちも持っている」


 原国さんは僕たちをソファに座らせると、説明を始めた。


「運命、固有スキルですか? ステータスにはそんな表示……」

 そう口にすると、スマホが振動する。


 久々に見る、クエストクリアの文字。そして


『真実クエストクリア。運命固有スキルを表示します』


 真実クエスト。ダンジョンが現実化して初めてのクリア表示だった。

 ステータスには僕たち全員に原国さんの告げた、それが表示されている。


真瀬敬命 調停者/????


武藤晴信 直感EX/????


原国左京 死に戻り/不撓不屈


有坂琴音 聖女/????


「……これって」


「まずは私の運命固有スキル、死に戻りについて、お話します」

 絶句する僕らに原国さんが静かに話し始めた。


「私が最初に死んだのは15年前、トラックの横転による玉突き事故です。運転手、私、真瀬くんの父親、そして武藤くん一家、全員が死亡した悲劇的な事故でした」


 その言葉に、頭を何かで強く殴られたかのような衝撃を、感じた。

 それは痛みではない、それでも強い、衝撃。


「あの事故が、すべての始まりだった。いまだにわからないことが多数ありますが、そこが基点であったことは疑いようのない事実です」


「……一家全員死亡? 原国のおっさんは死に戻りスキル効果だとして、だったら何で俺と姉貴は生きている?」


「わかりません。私はその初回の死亡により、『死に戻り』スキルを獲得してしまった。死に戻るたびに、起こることが少しずつ変っていきました。武藤くんと武藤くんのお姉さんが生存するのは2回目から固定で変わらず、事故による死者はトラック運転手と武藤くんのご両親に固定された。真瀬くんの父親、真瀬零次ませはじめ氏については何故か事故後の処理の最中に肉体と共に事故の記録も消失しました。そして、一部を除く、すべての人から記憶すらも彼の記憶は失われ、彼のすべての存在証明書類もはじめからなかったかのように消え失せていた。彼が居たという記憶を持つのは私と、真瀬くんの母親。たった2人です」


 どう、受け止めていいのかわからない。


 僕の父の記憶を母さんと、原国さん以外は持たない?

 父さんは、どこへ行ってしまったのだろう。何が起きて、そんなことになってしまったのか。原国さんにもわからないと言う。


「幾度も死を繰り返し、理解したことがあります。それはあの赤髪の男、徳川多聞とくがわたもんと伏見宗旦の2人と、君たちを含む、運命固有スキルを持つ誰が欠けても人類は死に絶える。違わず7日以内に、絶滅するということです」


 その言葉に、鳥肌が立つ。たった7日。


 たった7日で、運命固有スキルを持つ誰かが欠けると人類が滅亡する?

 そんなばかな、と思うと同時にそれを、何故か正しいとも感じてしまう。


 運命とは、人間の意志を超越して人に幸、不幸を与える力をいう。意志を超えた力。それは誰が、何をどう選定して、与えたものなのか。


 それを持つ人が、何人いるのかはわからない。

 原国さんの知る運命固有スキルを持つ者以外がいて、すでにその人が死んでいたら? 原国さんの言う条件から外れて詰んでしまうこともある。


 それとも原国さんは全ての運命固有スキルを持つ人を把握しているのだろうか。


「死に戻る最中に、見えるのです。死後のその後の世界、人類の最後の1人が死に、全人類がこの世界から失われるシーンが。目覚めると、どこかの地点の自分に戻っている。現時点を含む過去37回は全て同じ。夢現ダンジョンで目覚めた。その初回で、私は驚いたのです」


 原国さんは、小さく微笑む。万感ともいえるような、笑み。


「絶対に欠けてはいけない……幾度も出会い、死に別れてきた、最も関係が深かった君たちが、目の前に居たのだから」


 原国さんの説明では、今までの繰り返しの人生で、37回以前は、僕たちと出会う順番やシチュエーションが全く異なっていたという。


 味方として、あるいは敵として、そして中立の立場として出会ってきたと。そしてあの夢現ダンジョンでの攻略を37回も繰り返した。


「そして今回が初めてなのです。夢現ダンジョンで私の出会ったすべての人が生還でき、そして血の蘇生術を有坂さんが得られたのは」


 何度もリトライを繰り返す中で、告げていい情報、そうではない情報。どんな隊列で、どう攻略するか。それの検証を積み重ねに積み重ねてきたと原国さんは言う。


「私は先ほど挙げた『運命固有スキルを持つ誰かが欠けた状態』、つまり詰みだと感じてもすべての人生を全うしてきました。こうであらねばならないと定められているであろう結末と違っていても、私は一度も自害はしなかった。何より怖かったのは情報が取得できないことです。死後見える映像は飛び飛びで、状況を条件を掴みきれない。私は、どの経験を得ると、人々がどう変質するか、それを全て知り、経験しなければならなかった」


 この人は、たったひとりで。

 たったひとりきりで、どれだけの時間を人類の存続に注いできたのだろう。


「君たち全員にこの話をするのはもう52回目です。そして、今回が、一番タイミングが早い。これが話せるのは真瀬くんがガチャスキルで『不老不死』スキルを引くこと、それが条件となります」


「別の未来の僕も不老不死のスキルを引いたんですか?」


 なら、何故誰も生き残れなかったのだろう。

 たったひとり、残されても余りに辛いだろうけれど、不老不死であるならば、死ぬことはない。


「そうです。そして君はこのスキルを、どの周回でも使わず、誰にも使わせず封印してきた。君たちに運命固有スキルについて、私の死に戻りについて話が出来る条件を理解するのにだいぶ時間がかかりました。秘匿されていることも多かったので」


 僕の疑問を見抜いて、原国さんが言う。

 きっと別の周回の僕が同じ疑問を口にしたのだろう。 


「これまで何度も死に戻ってきたってことは、つまりこの先起きることもわかる、ってことか?」

 武藤さんが訊くと、原国さんは首を横に振った。


「完全予測は不可能です。条件によって人類が辿る道が違いすぎる。それを全て説明するにはあまりにも時間が足りない。条件は私達で行うこと以外のスイッチが多すぎるんです。故に私は今回は君たちと同行せずに、けんに徹していた」


「なるほどな。なら、大まかでいいんだが、予測されることの中で言えることはあるか?」


 武藤さんの問いに、原国さんは一度目を閉じ額を押さえてから、目を開けて言う。



「全世界で、レッドゲートの破壊をしきることはできず、モンスターが顕現することになります。その阻止をできたことは、一度ありません」


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