第44話【レアドロップ確定スキル】
レッドゲートを潜った僕たちは、夢現ダンジョンとは装飾の違うダンジョンにいた。装飾は違っていても、迷宮であることに違いは無く、通路の広さは変わりなかった。床や壁に飛び散る血も。
僕たちが入ったゲートは消え去り、背後は壁になっている。
「坊主は気配遮断を常時使っておいてくれ」
武藤さんが言う。
「レベル5ダンジョンに生存者がいるって事は、スキルが強力か、ステルス系、あるいは覚醒者だろうからな」
「わかりました」
武藤さんの声は硬い。夢現ダンジョンの時の陽気さを、武藤さんも持てなくなっている。
当然だ。知人友人の訃報がスマホに舞い込む。僕にも有坂さんにも、そして武藤さんにも。
笑っていられない状況で、僕たちは生き残らなければいけない。
それからすぐに上平さんをパーティーに加える。
ここまで僕らを車を運転して連れてきてくれた、警視庁の刑事さんの名前は上平アリサさん。彼女のスキルは、《レアドロップ確定》だった。
「レアスキルですね。凄い」
こんな状況でも、にこりと微笑んで有坂さんが言う。
有坂さんのこういう強さが、僕は好きだなと思う。決して悪い空気に流されない、魂の強さ、物腰の柔らかさ。余裕が無くても、微笑むことが出来る優しさ。
上平さんは有坂さんに微笑み返して「職業はつかなかったけれど、スキルはパーティー全体効果なので、とにかく被弾しないよう気をつけるわ」と言った。
上平さんはパンツスーツを綺麗に着こなしている、スラリと姿勢のいい美人で年齢はわからない。髪はストレートのボブカットがさらりさらりと動けば揺れる。
多分街中ですれ違っても、警察官だとは気付けないだろうな、と思う。
武藤さんを先頭に、左手に有坂さん、武藤さんの後ろに上平さん、右手側に僕の順番で隊列を組む。
隊列とは言っても、廊下は広いのでA字に近い形で進み始める。
「モンスターは俺が視認したらさくさく片付けて行く。小部屋も見て回る。侵入者を見つけて必要なら、俺が殺」
「武藤さん。人を見つけたらスキル封印を使います。もしそれが敵でも、殺す必要はないです。位置がわかったら教えてください」
この人を人殺しになんてさせたくない。
絶対にいやだと思う。命じられはした。それは仕事だともいわれた。
それでも僕は、誰にもそんなことはして欲しくない。
「……わかった。頼むぜ、坊主」
いつもより低い声で武藤さんが囁くと、一閃、刀を振る。
武藤さんの気配察知はレベルが僕らより高く、索敵範囲が広い。
廊下の奥でモンスターが倒され、コインと何かが落ちる音がした。
上平さんの確定レアドロップによる、ドロップ品だ。星2の弓と短剣。
このダンジョンの1階モンスターは武器持ちのホブゴブリン。
先行者がどうやってソロで進んでいるのか、それとも既に死亡しているのかはわからない。
ダンジョン入り口の表示はアプリ画面には反映されない。リアルタイムで先行者の動向はわからないのだ。
最初の小部屋も扉を開けると同時にモンスターを屠る。上平さんのレベルが上がり、スキルポイントを振る間、レアドロップ、モンスターコイン、宝箱の中身を回収する。
共有者効果で、上平さんはレベル自体は低いものの、ステータス数値は高い。
先行者がいなければ、走って戦いながらダンジョンを抜けることも出来ただろう。
小部屋を出て、攻略を続ける。
モンスター自体は夢現ダンジョンに居たモンスターしかおらず、レアドロップと言ってもガチャアイテムに比べると数段落ちるものばかりなので、ある程度の数になったらショップでクレジットへ変換して置く。
ショップレベルを上げるには購入をする必要がある。魔石も出ればクレジット化する。
ショップは原国さんの方でも使用可能なので、必要なものがあれば購入してあちらの戦力増強をしてもらうことにしている。
1階層の半分程を進んだところで、武藤さんが立ち止まった。
「先行者だ」
小さく、低い囁きに僕は目を凝らす。
ライトを必要としなくていいよう、僕らは暗視、遠見のスキルも得た。まだレベルは低いけれど夢現ダンジョンの時よりは、よく見える。
ライトでは相手からも視認されてしまうが、このスキルなら、その心配は無い。
音を発てずに、ゆっくりと進む。
姿がみえるより先に、声がした。
「リスナーの皆、見えてる~?」
この場にそぐわない、あまりに陽気な少女の声だった。
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