第45話【先行者は配信者】
そっと近づくと、1人の少女がいた。白いワンピースを着た、背の小さい……見た感じ、小学生くらいの女の子だった。
僕は驚きながら、周囲にモンスターがいないことを確認して、彼女にスキル封印を使用した。
彼女は気付かず、喋りながら、進もうとする。
「待ちな、嬢ちゃん」
僕が頷いたのを見た武藤さんが声をかける。少女がびくりとして振り向いた。
武藤さんたちを見ると、ぱっと笑って言う
「あっ強そうな人たちキター!」
少女は警戒も見せずに武藤さんたちに近づいていく。僕は気配遮断をしているので彼女には認識されていない。
チャットで原国さんに少女について報告をする。
「あなた、何をしてるの? ここが危険なのはわかっているの?」
上平さんが言う。当然の問いだ。レベル5ダンジョン、敵は武器持ちのホブゴブリン。
レベルが低い状態でソロで倒せる敵じゃない。彼女が覚醒者か強力な特殊スキル持ちでなければ、死んでいてもおかしくはないのだ。
「わかってるわかってる。夢の続きでしょ? だって私歩けるし」
少女はニコニコと笑って言う。
「私すっごくつよいんだから! さすがは夢! ダンジョン配信の夢まで叶うなんて、私もう死んでるんじゃないかなって思うくらい幸せで無敵なの」
「悪いがな、嬢ちゃん。これは現実で、夢なんかじゃない」
どうやら彼女は覚醒者らしい。夢現ダンジョンをどうクリアしたのだろう。
すごくテンションが、高い。元気そのものだ。
夢現ダンジョンで酷い目に遭ったり、死者は出なかったのだろうか?
「なら尚更幸せね。だって私、余命宣告されてたのにこんなに元気に動き回れるし、見て、抜けた髪もこんなに綺麗に伸びたの」
さらさらの長い髪をつまんで、彼女はにっこりと笑う。
「あなたは、ここで治療を受けていたの?」
驚いて上平さんが訊く。どうやらここの入院患者らしい。
くるくると回って、ワンピースと長い髪がひらひらと舞う。体はほっそりして小さいけど、すごく元気、みたいだ。
とても余命を宣告された入院患者には見えないくらい、線は細いけれど健康的な女の子に見える。これもダンジョンによるものなのか。驚きが隠せない。
「そうよ。小さい頃からずっとずっとね」
回るのをやめて、彼女はウインクをする。
「……1つ訊いていいか?」
じんわりと毒気を抜かれつつある僕たちではあるが、彼女が危険人物ではないという保障はない。
原国さんとは通話を繋ぎ、状況を聞いてもらっている。僕は彼女に認識されないよう静かに距離をとった。
「何かしら素敵なお兄さん」
彼女は上機嫌で武藤さんに微笑む。
僕はチャットに送られてきた、原国さんが捕捉した彼女のチャンネルのライブ映像とコメントを目で追う。
小学生の配信だというのに、配信系ダンジョンもので見かけるような、ユニコーンたちの発狂コメントが爆速で流れていく。
ライブ画面には武藤さんの顔がばっちり映っている。それだけではなく、僕以外の全員が映っているので「チートハーレム野郎かよ」といったようなコメントも目につく。冤罪がすぎる。
どうすればいいか、チャットを打てば原国さんからの返事は「情報を引き出すまで待機」だった。配信に載っていることは問題ではないらしい。
「PKの経験はあるか?」
彼女のライブのコメント欄が大荒れな状態を知らない武藤さんが訊ねると、彼女はあっさりと言う。
「PKKならしたけど。私に危害を加えることは誰にも出来ないのにバカだなーって、命の無駄遣いすぎるよね。折角健康なのに、元気な体のありがたみを知らないなんて勿体無いね」
と。
どうやら自発的なPKはしていない、ようだけれど……。
僕はコメントを目で追う。とてつもなく速い流れに目が追いついている。ステータスが高いので、コメントがどれだけ早くても全部拾い読みが出来たことに驚く。
「どんな状況でそうなった?」
「1つ答えたからあなたも1つ答えて」
少女がにっこりと微笑む。
「彼女はいるの?」
思わぬ質問に、武藤さんが「は?」と目を丸くして言った。
「彼女! 付き合ってる人! もしかして結婚してるとか!?」
「ないないねーよ。何の質問だよ」
彼女の食いつきが激しい。コメントも激化している。
「じゃあ私! 私と付き合って! かっこいい彼氏も夢だったの!」
「子供は守備範囲外だ、悪いな」
半分げんなりとしてお断りとばかりに手を振る武藤さんの受け答えに少女はムッとして言った。
「私こうみえても16歳よ!」
「16歳は未成年。つまり子供だろーが」
小学生に見えたのは、彼女がずっと闘病をしていて成長に栄養がまわせなかったからなのだろうか。
原国さんからチャットが飛ぶ。彼女の氏名、年齢、経歴、家族構成。
個人情報が出揃った。
「じゃあ予約、予約するわ。私が成人したら付き合って」
粘る彼女。
「断る。別の男見つけな。悪いが年下は趣味じゃないんでね」
「年上になればいいってこと!?」
無茶苦茶を言い始める。けれど、今のこの世界であれば、スキルやアイテムで年齢操作が出来ないとは限らない。
「俺にも選ぶ権利があるっつう話、わかる?」
よっぽど言い寄られるのがイヤなのか、武藤さんが微笑みながら半分キレている。
有坂さんと上平さんは何とも言えない表情で手出しが出来ずにいるようだ。
さっきまでの緊迫感は霧散して、
僕たちが最初に想像していたのとは全く違う、激しい謎の攻防が、繰り広げられていた。
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