第43話【レッドゲートへの侵入】

 命令が下された。

 僕たちには特務捜査員としての証となる徽章バッヂが配られる。それぞれ衣服の襟などにつける。


 そしてガチャから排出されたものの中から、夢現ダンジョンで最も有用だったスキルが1パーティーに1つ配布された。

 《スキル封印》と《防御結界/投擲攻撃》の2つだ。それぞれパーティーに1つずつ。


 武藤さん有坂さん僕、森脇さん宗次郎くん雛実ちゃん、水品さん夜桜さん田村さんの3人パーティーでそれぞれ1つずつ。

 それから、初めて出た星10最高レアは剣術系特級職専用武器だったので、それを武藤さんが装備する。


 神度剣かむどのつるぎという名の剣で、武藤さん曰く、「古事記に出てくるヤツだ」そうで、他の高レア武器もアレコレと元の伝説はこれで、と話してくれた。

 僕がラノベやゲームで見知ったものもいくつかあった。


「創作で集めた知識がこんなところで役に立つとはなあ」

 そうぼやくように言いながら、神度剣を装備する。

 攻撃力が今まで見たどの武器より高く、アンデッド特攻も乗っている。


 装備の更新も行われた。杖や弓、短剣などの武具、そして特殊効果つきの装備品など。


 僕たちは死ぬわけにはいかない。

 スキルが強力なので、PKされることだけは避けなければいけない。

 与えられた役割もある。


 攻略サイトで見たところレベル5ダンジョンは夢現ダンジョンの中層くらいのモンスターしか出てこない。戦力はダンジョン内より、対人戦を考慮されている。


 身代わりの護符も全員装備する。


 

 それから、PK、PKKについての情報としては『キル後5分の猶予の間の蘇生が効けばスキルやアイテムは奪われない。そして奪われるアイテムは個人ストレージの物に限られる』ということが告げられた。


 原国さんのところへはあらゆる情報が入ってくる。ノートPC、無線、人が直接耳打ちをしにきたりもする。


 原国さんは情報処理能力がズバ抜けて高く、判断力も高いのだろう。どれだけ情報が舞い込み、それが悪いニュースであることの方が多くても苛立ちひとつ見せない。

 表情に温厚さは消えているけれど、僕は原国さんを怖いと思わなくなっていた。

 最初に忠告をされたときは背筋が冷えたけれど、今はそれが頼もしい。


「ではマップを見てください」


 原国さんがプロジェクターに映し出されたマップのレッドゲートを1つずつ指差して、どの順番でどのパーティーが攻略をするのか説明をしていく。


 僕たちの担当する地域は東京タワー周辺。

 そして、最初のレッドゲートの位置は、武藤さんのお姉さんが入院している病院内だった。



 みんなと駐車場で別れて、車に乗り込む。

 多分僕らは、走ったほうが速い。だけど車両移動なのはスキルによる器物破壊が不可能だからだ。不意打ちを防げる。


 僕らを乗せた車が、駐車場を出る。


 既に外にあるゲート周辺には、あれだけいた警察官はすでにいない。

 いてもスキル持ちでない限り、警備にならない。死傷者が増えるのを防ぐにはスキルを獲得する必要があるため、レッドゲート内で警察関係者が攻略を開始している。


 僕たちの家族については、すでにレッドゲート攻略済みの覚醒した捜査員が必ず着いて希望者から、6名で攻略する準備をしているそうだ。


 母さんからもショートメールが来ていた。僕の状況を説明して、出来ればスキルの獲得をしておいて欲しいとも伝えた。


 本当は一緒に行って、母さんを守りたい。

 だけどそれをしたいのは、僕だけじゃない。宗次郎くんたちもそうしたいはずだ。だけど、それを飲み込んだ。レベル1ダンジョンで、経験者がついて攻略なら、よっぽどの事故がなければクリアはたやすいはず。


 事故なら、今までの平和の中でも起きていたし、巻き込まれたりしなかったのは運が良かったからだ。誰なら事故にあってもいい、なんてことはない。

 それに母さんは、強い人だ。僕よりずっと、強い人だから、大丈夫だと信じている。


 それに采配は原国さんが行っている。あの人がする采配なら、信頼できる。


 それに警視庁内のゲートは、外部侵入者がいないため、外部のPKを恐れる必要がない。

 レベル1ダンジョンから攻略にあて、安全考慮を充分にすると約束してくれたのだ。


 僕も、宗次郎くんたちもその言葉を信じた。心の底から信じられた。そうできる僕らは、きっと幸運だ。説明を受け、庇護を受けることも出来る。


 だからこそ、与えられた役目をしっかりと果たさなければならない。


 僕らを乗せた車が道路を走る。自動車事故は起きておらず、道はまだ空いていた。

 戒厳令をスピーカーが告げている。

 家や建物から出ないように呼びかけていて、それでも外で動いている人はいる。

 覚醒者なのか、それとも、そうではないのかは見ただけではわからない。


 どうしても家に帰りたい帰宅途中の人かもしれないし、こんな状況でも……だからこそ働きに出る人なのかもしれないし、ダンジョンに無謀な挑戦をしに行く人なのかもしれない。

 SNSはあらゆる憶測と情報が飛び交っていて、眩暈がしそうなくらいだった。

 動画配信サイトでは、ダンジョン内のライブ映像で溢れている。


「いつまでネット見れるんだろうな」

 ぽつりと武藤さんが言う。


「俺が描いてきた話に憧れて、何人死ぬんだ……?」

 空想だった。創作だったそれが、現実に存在する。

 武藤さんの作り出したお話のキャラクター。それに憧れて、無謀なダンジョンアタックをしている動画もある。


「武藤さん、大丈夫です。ダンジョン内なら、蘇生ができます」

 有坂さんが静かに言う。


「こちらでも蘇生出来る方法があるかもしれません。攻略をしていきましょう」

 有坂さんも普段より表情が硬かった。僕ら全員が緊張していた。


 夢現ダンジョンの時は、夢の中という自覚があった。

 夢の中だから、魔術やスキルをすんなり受け入れられた。


 だけど今は、ここは現実で、突然世界が変わってしまった。

 冷静に受け止めきれることじゃないのは、みんな一緒なんだ。

 なんとか飲み込もうと、必死なのだ。


「……そーだな、なんとかしていこう。らしくなかった、悪かったな」

 武藤さんが言葉を返す。


「こんな状況で陽気でいられる人なんてそうそういませんよ。私も緊張しています」

 小さく微笑んで有坂さんが言う。

 有坂さんは基本的にトラブルが起きても、パニックをおこさず、冷静でいられる女の子だ。

 そういう格好いいところも好きなので、そんな彼女を取り乱すほど泣かせたことが余計に胸に刺さる。


 二度と、大きな怪我はしない。

 誰も、傷つけさせない。


 そのために、出来ることを考え続けることを、諦めない。


「そろそろ着きます」

 運転をしてくれている警察官の上平うえひらさんが言う。


「現着後、パーティー登録をお願いします」

 原国さんからの指示で、彼女を覚醒者にするのも僕たちの任務の1つだ。


 未覚醒者の追加、パーティー編成は、ダンジョン内でしか出来ない。

 未覚醒者にはダンジョンアプリがない。

 ダンジョン入って初めて、アプリがインストールされる。

 夢現ダンジョンと違い、他のスマホアプリも使用が可能になっていると聞いてきた。


「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」

 車は、病院内へ入る。地下駐車場の車を止めると、レッドゲートが見える。


 レベル5ゲート。未クリア、侵入者、1名。


 その表示を見て、僕らは顔を見合わせて、覚悟を決める。


 中にいるのは、果たして、敵か味方か。それとも要救護者なのか。



 レベル5ダンジョンは、地下5階層まで。

 マップも入れてある。

 防御系バフの時間確認もした。


「行こう」


 武藤さんが言い、僕らは揃って、レッドゲートに潜った。


 


  

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