第42話【ダンジョン特務捜査】

《ガチャスキルがレベルアップしました。個人ストレージ容量が+50になり、排出率が変わりました。星4~星8排出率アップ》


 説明を聞きながらガチャを無心で引いていたら、レベルが上がった。

 これで高レアリティカードが手に入りやすくなった。


 特に防具。防具による強化があれば、人が死ににくく、怪我人も減る。


 そしてスキルだ。

 スキル封印のような、無力化が出来るスキルが増えれば敵対者にも味方側にも、死傷者が減る。


 あらかたのコインを全てガチャでカード化し終わり、分類整理をしていく。

 確かに高レアカードの率が増えている。スキルも強力なものや、一見何にどう使うのかわからないものまでたくさん引けた。

 そして、ストレージが増えたので探索中に出るモンスターコインによるガチャも引きやすくなった。


「と、まぁこんなもんかね」


 トン、と整理したカードを武藤さんが揃えて最後の一山を置いた。机の上には整頓されたカードが並んでいる。壮観というか、なんというかものすごい量になった。

 これだけの量のカードで、当然殺傷能力の高いものもある。わかっていたことだけど扱いが難しそうだ。


「振り分けは全て原国さんの方でして貰えるんですよね」

「ああ、非常にに助かったよ。これで死傷者を減らせる。それとショップだね。星3までのスキルの中で有用な気配察知は全員が取得した方がいいでしょう」


 覚醒者はスマホでショップも使えるようになっている。

 星3のスキルの一部が魔石で購入可能になっているので、この場の全員分のが気配察知を手に入れられる。

 葉山さんのパーティーも覚醒者組なので問題はない。


 宗次郎くんたちは夢現ダンジョンでクリア直前に、蘇生した大人パーティーメンバーとは既にパーティーを解消していて、現在は宗次郎くんと雛実ちゃん2人パーティー。

 彼らもまた、覚醒者としてショップ使用が出来る。


 宗次郎くんは職業が盗賊なので、職業ツリーにも気配察知が存在している。

 ざっとスキルのカードやショップのスキルスクロールを見て思う。

 職業ツリーにあるスキルを単一で職業関係なくとれるのが、ガチャのスキルカードや宝箱やショップで購入できるスキルスクロールなのかもしれない。


 原国さんがカードを確認している間、僕らはショップを見て必要そうな装備やスキルを得ていく。


 星3までのスキルスクロールは一般職初級でとれるスキルなのかもしれない。そうあたりをつける。それでも威力はステータスと装備依存なので、初級系スキルといっても侮れない。

 魔術にしても、武術にしても高ステータスと強い装備を持つ人間が使えば一撃のダメージは大きいものとなる。


 ふと気になって、スキルスクロールやスキルカードで所持しているスキルに重ねた場合、どうなるのか原国さんに訊いて見た。


「スキルのレベル上昇に必要枚数あれば、レベルが上がります。必要枚数は現在レベルと同等の枚数です。つぎ込んだスキルポイントは次レベルに繰り越されることも確認済みですよ」


 とのことだった。気配遮断や気配察知のレベルを上げて置くのもいいかもしれない。便利系スキルも数多ある。魔石はそこそこの数があるが、それでも限りはある。


「今回私はダンジョン攻略に向かえません。こちらで全体指揮をとりつつ、状況と情報の整理を行う必要があるためです」

 原国さんはカードを確認し終えて、言う。全体を見て指揮をする人間は絶対に必要だ。

 それが原国さんなら、安心できる。


「3名一組を基本とした攻略をお願いしたい。とはいえ、他未覚醒の人員もいますので、彼らと共に行動して頂く事も多いでしょう。ダンジョンアプリの通話、通信はダンジョン内でも可能ですので、私は武藤くんたちとのパーティーから抜けることはしません。適時状況報告をお願いします。携帯等の電波も使用可能ではありますが、いつライフラインに異常が出るかわからないのでその心積もりをしておいてください」


 ライフラインを稼動させているのも、人だ。たくさんの人が働いて、成り立っている社会。

 それが出来る人が減れば、減るだけそれらの稼動も出来なくなっていく。

 今は夜勤帯の人が、非常事態ということで、そのまま働いているのかもしれない。


 外の危険を押しても出勤しようとしている人もいるだろう。公共交通機関はどうなっているのだろうか。道路の信号だって機械で作動させるものだろうけど、それを管理保守しているのは人間だ。


「了解了解。ダンジョンの侵入って人数欠けてもいけるんだな?」

 武藤さんが装備などの確認をしながら、訊ねる。


「はい。パーティーメンバーが欠けていても侵入は可能です。ゲートにはいくつか表示があり、ダンジョンレベル、クリア未/クリアの表示、モンスター排出までの残り時間、そして現在侵入中のプレイヤー人数、そしてダンジョン内の死亡者数です」


 ダンジョンゲートは地下駐車場で見かけたが、細かいところまでは気付かなかった。


「どのダンジョンも、廊下や壁に血痕があると報告が入っています。有坂さんにはクリア直前に血の蘇生術の使用を試して頂きたい」

「はい、そのつもりです」

 こくり、と有坂さんが頷く。


「外では戒厳令が敷かれていますが、拘束力はほぼないに等しい。ですので、多数の民間人がゲートに侵入しているようです。テレビなどの報道、SNS、動画サイトなどの規制も出来ていませんので、ゲートの表示は必ずチェックをして下さい。最も危険なのは、正体不明の民間人です。言われずとも、あなたたちは経験者なので理解しているでしょうが」


 原国さんの言うように、身に沁みて理解している。

 それは、僕たちが味わった恐怖でもある。


 だけど全てが敵じゃない。味方だって増えた。

 根岸くんたちや、自害した男のような、ダンジョンによる『力に酔って殺戮をしてしまう犠牲者』はもう、出来る限り出したくない。


 それでも。それでいるだろう。どうしても、暴力だけで生きていこうとする人が。

 何もかもを、許さない人が。暴力を手段にするだけでなく、目的にしてしまう人が。


「なあ、確認なんだけどよ。プレイヤーキラーへの処遇はどうするんだ?」


 武藤さんが切り込む。

 そこは大切なことだ。PKを行うものにどう対処するのか。


 もう今までの法と秩序が、機能しなくなっている。

 スキルやステータスは余りに強力で、世界はこの変化に対して対応できる段階にまだない。


 その中で、人を裁く義務を負うのは誰になるのか。

 問題は膨大。その山と詰まれた中で、今知っておかなければならないこともたくさんある。


 48時間。こうしている間も、時間は過ぎていく。


 今までの平和はもうすでにない。自分に言い聞かせ続けて、思考を止めないようにしなければ、後悔することになりそうで恐ろしくもある。


「PKを行った者、あるいは殺意を向けてくるもの。それらについては、ある報告があります。PKをした者には蘇生不可デメリットが存在しますが、PKK、プレイヤーキラーキラーには、蘇生不可のデメリットが存在しない。有坂さんが蘇生した人間の中にもPKKを行った者が若干数いました。彼らは蘇生出来ている」


 原国さんは一度言葉を切って、言う。


「故に、あなたたちの命を脅かす者はモンスターであれ、人であれ、殲滅しなさい。これは、あなたたちの意思ではなく、私の命令です。この国のためにも、あなた方を失うわけにはいかない。本当はあなたたちをゲートへ送り出すことはしたくなかったが、そうも言っていられなくなった」


 ああ、この人は、多数のために、少数を切り捨てることが出来る指揮官なんだ。

 命令とすることで、意志を奪うことにして、自分だけでその責を負おうとしている。



 だから僕は、余計に、そんなことはしたくないと思った。



 救えるのなら、救いたい。出来る限り、取りこぼさずに。間違えた今があっても、未来はそうとは限らない。

 何より僕は、この人に、責任を負わせたくない。



 人の、命なんて責任は、重すぎる。



「繰り返します。あなた方は今日これより、公的機関のダンジョン特務捜査員として私の指揮下に入ることになります。ダンジョン探索の有資格者であり、そしてダンジョン内外における殺意を持つ敵対者全てへの殲滅を、今、命じられたのです。いいですか、繰り返します。これは命令であって、その責は全て命じた私のものです。あなた方の自由意志で殺すのではなく、私の命令による任務遂行となります。現状、最早大人と子供を区別することが出来ない。大変申し訳ないが、治安の維持のため、君たちには大きな負担を強いることとなる」


 そう口にした、原国さんは僕たちに頭を下げた。


「どうか、皆を救うため、力を貸して欲しい」

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