第11話【少年と少女】
「俺は
僕たちに何度もお礼を言って、真っ赤な目をした少年は、ようやく名乗って少女との関係を説明した。
「助けてくれてありがとうございます。
少女も涙を拭いながら自己紹介をする。
彼らもやはり、自宅の布団で眠った途端、白い部屋で説明を受け、見知らぬ大人2人とパーティーを組んで1階を何とか協力して攻略したらしい。
亡くなった大人2人は
残り1体を宗次郎くんが雛実ちゃんを庇いながらなんとか最後の1体を倒したが、2人とも瀕死の重傷を負っていて、意識を失ったらしい。HPが宗次郎くんより少ない雛実ちゃんは回復魔術が間に合わなかったようだ。
それでもギリギリだった。雛実ちゃんだけでも、助けられてよかった。
「白木…さんと綾姉さんは……」
「残念だけど、私達が来た時にはもう手遅れだったんだ。すまない」
原国さんが詫びる。僕らがもっと早く着いていれば、と思うが、それは驕りかもしれない。
後からこうすればよかった、と思うことはあっていい。だけどそれは次のためのことであって、自分を責める材料にするな、というのが僕の母の教えだった。
全てを自分の思うままにすることなど出来ないし、それを出来たかもしれないと今と未来を潰すのは最悪の驕りだよ、と言っていたのを思い出す。
「じゃあ、もう2人とも目が覚めたのかな……?」
雛実ちゃんがぽつりと呟く。
彼らはこれがただの夢だと思っている。ここで死亡した人間が、現実でも死亡することを、知らない。
僕たちは、何も言わなかった。
今しがた死ぬような目にあって、パーティーメンバーを失った子供に、それを告げることは余りに残酷すぎる。
だから僕らは、その呟きに真実も、嘘も
――何も、言えなかった。
僕たちもそれぞれ、彼らに自己紹介をする。 どうやら2人とも僕らの高校が志望校らしい。2人が少し笑顔を見せてくれた。
原国さんは職業を明かし、武藤さんは職業を伏せた。
宗次郎くんはサッカー少年らしく、スキルは攻撃時にモンスターからアイテムを奪うスティール、職業は《盗賊レベル2》、個体レベルは3だった。
装備は初期装備の短刀で攻撃力+5で防具はなし。
雛実ちゃんはサッカー部のマネージャーで、スキルは任意の1人のスピードを上げるスピードバフ、職業は《補助師レベル3》職業スキルで敵1体のスピードを落とすスピードデバフを職業スキルで得ていて、個体レベルは同じく3だった。
こちらは初期装備はなかった。
どうやら攻撃系スキルがないと初期装備は得られないらしい。僕も有坂さんも初期装備はなにもなかった。
「坊主、嬢ちゃんだとちょっと誰かわかんねーよなあ……ンー……坊主、嬢ちゃん、宗次郎、雛実ちゃん、って呼ぶがいいか?」
僕、有坂さん、宗次郎くん、雛実ちゃんの順に指差しながら呼び名を確認する。
「じゃあ僕らも、宗次郎くん、雛実ちゃんて呼ぶね」
少し笑って言ってみる。武藤さんは、空気が重い時、率先して明るく振舞ってくれる。それに僕はほっとする。
こんな兄がいたなら、きっと毎日とても楽しいだろうと思う。
2人が頷いて、小さく照れたように笑う。
ほんの少し和やかな空気になった。原国さんはそれを眺めて、微笑む。
宗次郎君も雛実ちゃんも、ここで死んだ人間が現実で死ぬと思ってはいない。死んだら目が覚めるだけだと、ただの、リアルな夢なんだと思っている。
既にパーティーメンバーが死亡しているので、真実を今は伝えない。
ショックが大きすぎて、動けなくなる恐れがあるからだ。
もし伝えるのであれば、クリア直前だろうか。
原国さんが部屋に散らばったモンスターコインを拾い、2人に渡す。
僕と有坂さんは上着を2人に渡した。少し大きいが、2人の制服は血まみれで、破けたり穴が開いている。そのままでは辛いだろう。
志望校の制服の上着を着て、彼らが何だか少し嬉しそうで、ほっとする。
「まあ呼び方も決まったことだし、俺たちと一緒に行こうぜ」
武藤さんの声に2人が頷く。
皆に言って、僕らの防具をいくつか彼らに渡し、装備して貰った。
武器も僕が最初に装備した、星3のナイフを宗次郎くんに渡す。
「あの、こんな装備、1階にあったんですか?」
宗次郎君が防具や武器に驚いて言う。
「その辺は秘密だな。保護する代わりってことで。後、別に敬語とかはいいぞ。しゃべりやすい話し方でいいからな」
さらりと武藤さんがかわした。さすがだ。僕は隠し事が苦手なのでもごもごしてしまった。
それを見て有坂さんが笑う。
「宝箱の中身をとったら、進みましょう」
原国さんがまとめる声に頷いて、宗次郎くんが宝箱からアイテムをとる。
スキルスクロール気配察知。何と3つ目だ。案外出やすいスキルなのか、それともある種の必須スキルなのか。
宗次郎くんがスキルを覚え、僕たちは殺戮のあった小部屋を後にした。
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