第10話【地下2階の悲劇と救いの手】
1階ボス部屋の宝箱の中身は弓術のスキルスクロールだった。武力がない有坂さんに覚えて貰い、星3弓を装備して貰った。
これで全員が戦闘能力を得たことになる。
2階で何度か戦闘をして、出現モンスターを確認したら有坂さんにも弓スキルを使った戦闘方法に慣れて貰うことになった。
出来れば戦わずに済むのが一番だけど、そうも言っていられない時「何も出来なかった」と後悔したくない、と口にしたのは有坂さん自身だ。
やっぱり有坂さんは穏やかなだけじゃなくて、芯があって格好いいなと思って眺めていたら目があったから、それを伝えた。
有坂さんは少し照れて「真瀬くんほどじゃないよ」と笑ってくれた。
僕が有坂さんの提案のように、なにか格好いいことをしただろうか。
そんな覚えはないけれど、有坂さんがそう思ってくれるのは嬉しかったので素直に気持ちを受け取ることにした。
クエストは『1階のモンスター全討伐』、『1階の全ての宝箱の獲得』、『ボス討伐』の3つがクリア。
得られたのはHPポーション《中級》、MPポーション《中級》、モンスターコイン《銀》各1つずつを4人分。全て共有ストレージに入れる。
レベルアップ分と保留していたスキルポイントは有坂さんの回復師レベルを3上げて、後は武藤さん原国さんの職業レベルも1ずつ上げて僕は基礎ステータスのいくつかに振って残りを温存。
モンスターコインも温存して、地下2階へと下りる。
長い階段を下りきると、アナウンスが流れた。
『1階にて、新規プレイヤーが攻略を開始しました』
僕らは驚き、階段を見上げる。さっき降りきったばかりの階段は薄暗くて、上の方は暗さで良く見えない。
「走って助けに行こうや。入りたてならまだただの夢だと思ってる。危険だ」
武藤さんが口にすると、みんな頷き、階段を急いで上がる。
……が、階段の降り口だった場所が天井になっていて、1階へ続く階段の入り口が閉ざされていた。
武藤さんが壁を崩した時のように斬撃を当てるが、今度は崩れ落ちなかった。
「くそ、合流は出来ねえのか」
「どうしますか、ここで待ちますか?」
「いや、進もう。この階段も血だらけだ。進んだ先に誰か生存者がいるかもしれない」
戻れない以上、1階のパーティーが全員無事に地下2階に辿り着くことを祈るしかない。
2階の探索を終え、3階に下りる前、もしくは今のアナウンスがまた流れた際に、2階スタート地点の登り階段前に戻ってみる、ということにまとまった。
前進することに頭を切り替えて、階段を下りる。
「1つのパーティーが1階をクリア、あるいは全滅する毎に次のパーティーが送り込まれている……?」
ぽつりと原国さんが呟く。
「遺体がないのはモンスターのように消えている……? 蘇生に必要な携帯も落ちてないのは何故だ?」
疑念を皆で口にしてみるけど、正解はわからない。
それぞれがダンジョンについて確信したことがあっても、どれもクエストのクリアにはならなかった。
クエストの正解でないからなのか、それとも何か理由があるのか、僕たちにはわからない。
とにかく今出来るのは、パーティーを強化しながらダンジョンを攻略することだけだろうという結論に達する頃、階段の先の通路が広がる。
左右の壁に扉があり、通路の奥は相変わらず暗くて良く見えない。
「正面にモンスター2体……右手の扉の中に人だ!」
それを聞いた原国さんが通路の奥に向けて氷の矢を連撃で放つ。
ドス、ドス、と何かに矢が刺さり、倒れる、コインが落ちる音が続く。
「倒しました。扉の中へ」
「ナイス原国さん」
「気配察知、便利ですね」
扉を開けて全員で中へ入る。
薄暗い部屋の奥に誰かが倒れている。部屋の中は血塗れで、あちこちにモンスターコインが落ちている。
血に塗れた床は走ると水音がするほどだ。倒れているのは少年と少女だった。有坂さんがグループ回復の魔術を使う。少年の傷が癒えていく。
……だが、奥の少女の傷は塞がらない。
原国さんが少女の首に触れ、目を開かせる。スーツが血で汚れることも厭わず、体の怪我の状態を確認して位置を整えると、心臓マッサージを始める。
「ポーション飲ませてみます!」
僕もしゃがんで、少女の口にHPポーションを注いでみる。
「んん……あれ、生きて……る?」
回復魔術が効いたのか、少年が意識を取り戻す。
「あんたら……だれ……? …ッ!! ヒナッッ!!?」
気付いた少年が、体を起こし、頭を振る。はっと気がついて意識のない少女に飛びつくように近づいて、名を呼んだ。
「おい坊主、スマホ見せてみな。この嬢ちゃんとパーティーなんだろ、お前さん。状態が見てぇ」
「!」
武藤さんの言葉に慌てて少年がスマホを見る。フリックしてパーティーメンバーの表示を見て震えた。
「そんな、ヒナ……みんな……うそだろ……」
震える少年の言葉に、僕の手が止まる。少女の目に光は戻らない。
「原国さん、真瀬の坊主」
武藤さんが首を横に振る。少年の持つスマホに表示されたパーティーメンバーは少年以外は『死亡』の表示がされていると言う。僕も原国さんも手を止める。
「蘇生可能な残り時間はどのくらいですか」
有坂さんが静かに訊く。
「そこの嬢ちゃんは残り3分だ。なあ、みんな、使っていいよな?」
蘇生の珠のことだ。
制限時間が短すぎる。議論の余地はない。皆そう思ったのだろう。
僕も有坂さんも原国さんも迷わず頷く。
「そんな、ヒナ、ヒナ、嘘だろ……」
うわごとのように少女にすがり付いて、少年が涙をこぼす。
かがんだ武藤さんが、少年の肩に手を置き、向き直らせて言う。
「聞け、坊主。簡潔に説明するぞ。お前はそこで死に掛けてたのを、うちのパーティーのヒーラーが回復させた。そんで、そこの嬢ちゃんは回復魔術は間に合わなかった。だが、助ける術がある。助けて欲しいか?」
淡々と武藤さんが告げる。少年は食い入るようにそれを聞いて、叫んだ。
「本当に……本当か!? 頼む、頼む頼む!!! ヒナを助けてくれ、何でもする、から頼む!!! ヒナを……ッ!!」
少年は武藤さんに縋りつくと、涙を浮かべて悲痛な声で叫ぶように言う。
滂沱の涙が、ぼたりぼたりと血塗れの床に落ちる。
「わかった。スマホの画面を出しな。嬢ちゃんのところ表示してそのまま持っとけ」
武藤さんが共有ストレージから蘇生の珠を取り出して、震える少年のスマホに珠を触れさせる。
『綾川雛実を蘇生しますか?』
「蘇生する」
武藤さんがアナウンスに応えると、少女が息を吹き返した。うっすらと開けた目はには生気がある。
「HPポーションだよ。ゆっくり飲んで」
僕が飲ませかけていたHPポーションを再び飲ませると、痛々しい傷も全て消えた。
怪我が消えると、意識がはっきりしたようで「あれ……?」と周囲を見回して、涙でべしょべしょな少年を視界に入れると「宗次郎くん!! よかったあ……」と、少女も一緒に声を上げて、泣き出した。
抱き合って泣く、彼らの服は、血に染まり、割けて穴が開いていた。
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