第3話【戦闘とレベルアップ】

 何かがいる。


 ダンジョンに放り込まれ、一時僕の失態で緊迫したけど、それでもなごやかだった僕らの間に今までない緊張の糸がピンと張った。


 足音と鳴き声。薄暗い石造りのダンジョンの奥から、何かよくないものが僕らに迫って来ている。


「真瀬くん、バフを!」

「武藤さんに身体能力強化バフ展開!」


 原国さんの声に反応して、僕は即座に武藤さんに筋力強化バフをかける。


「おお、何か剣と体が軽い! いいねぇ! 2匹来るぜ。手前を俺がやる。原国さん、奥の1匹頼む!」


 武藤さんが鞘から剣を抜き放つと、暗がりの奥からモンスターの姿が現れる。


 それは、猪ほどの大きさの、鼠だった。野太く鳴いて、剣を構える武藤さんに迫る。有坂さんが小さく悲鳴をあげ、原国さんは息を呑む。


 武藤さんは眼前に迫る1匹に走りより、切りかかる。速い!


 原国さんは弓に氷魔法の矢を発現させて番えた。流れるような所作と、綺麗な姿勢で一瞬見とれる。と同時に、奥の猪鼠に一呼吸で照準を合わせて打ち放った。


 武藤さんが猪鼠を一刀両断して切り伏せるの同時に、氷の矢も奥の猪鼠の頭部に命中して、動かなくなる。


 武藤さんが原国さんに口笛を吹く。

「すげえ! 脳天一発!」

 自分も一撃でモンスターを切り倒した武藤さんはすごく楽しそうだ。


「学生時代は弓道部だったんですが……こんなに上手く倒せるとは」

 原国さんは自分でもびっくりって顔をして自分の手のひらを見る。


「武藤さんだってすごいですよ。一撃必殺って感じでかっこよかったです」


 有坂さんに褒められて武藤さんはデレっとした表情になる。

「マジかーかっこいいかー! へへへありがとな!」


 純粋に照れているのか、武藤さんに妙ないやらしさはない。和気藹々とした空気の中、倒したモンスターが光って消えた。


 モンスターの消えたところにモンスターコインがチャリンと音を発てて落ちる。


「おっ出た出た、ガチャコイン」


 武藤さんが手前のコインを拾う。原国さんが倒したモンスターのコインは奥の方で光っている。


「1って書いてあるな。早速ガチャ引くか?」

 武藤さんに差し出されたコインを思わず受け取る。


「えっでもこれ、武藤さんの戦利品じゃないんですか」


 僕は受け取ったコインを見つめる。赤い血がついている。モンスターの血かなと思ったけど、さっきの戦闘で吹き出たモンスターの血は紫色で、赤ではなかった気がする。


「ガチャはロマンだから」

 武藤さんがキッパリと言い放つ。


 代理として引いて、出たアイテムをわたせばいいかな? と思って提案する。

「ええと、10枚で11連になるので、貯めた方が良いかもしれないですが……最初の方は戦力強化がつど出来る方でいきますか?」


 10枚集めれば11回分、1回ずつだと10連特典の+1回がなくなる。だけど初手の今だと即引いて戦力強化をした方が良いかもしれない。


「そうだなあ、みんなはどうだ?」

「というかモンスターコインはガチャ以外にも使い道があるのでは……?」


 白い部屋での説明にモンスターコインの使用用途はいくつもあると言われていた。


 1つはスキルツリー。

 レベルアップ時等で得られるスキルポイントコイン同様にモンスターコインもスキルツリーに使用出来る。


 ガチャスキルがあるため霞んでしまっているが多分一番主な使い道だと思う。他にも使用用途はあるらしいが、ショップがあること以外は説明されていない。


「んんーそうだな……。っと、どうやらこの辺りはあんまりモンスターがいないみたいだ。ゆっくり歩いて進みながら相談といこうや」



 武藤さんを先頭に、僕らはゆっくりとダンジョンを歩く。


 もう1枚のコインを拾った原国さんからの提案で、パーティー共有アイテムストレージにモンスターコインを入れておく形に、とりあえずはしておこうということになった。


 経験点が分配されるなら、戦利品も戦った人が占有せずに分配した方がいいだろう、という話だ。


 モンスターコインを共有化するのであれば、僕がガチャで引いたアイテムも共有ストレージに入れて適時使用にしよう、と提案すると、困った微笑みの有坂さんとあきれ顔の武藤さんは、また顔を見合わせてから僕を見た。仲良し。


 そして、今のところは、気配察知があって戦力が物理魔術でいる。モンスターも一撃で倒せたわけだしいろいろ保留でいいんじゃないか? というところに着地した。



 その間、原国さんは真剣な顔つきで、何かを深く考えているようだった。




「……もしこの後、誰か別の人間にあっても、真瀬くんのガチャスキルのことは隠した方がいいと私は思うのですが」

 ぽつり、と原国さんが呟くようにいう。


 それは独り言、思いつきを口にしたという軽いものではなく、深く重い声音だった。


「それは俺も賛成だな。俺ら以外がいるかはわからんが、いたらどうするっていうのは考えて話し合って決めておいた方がいい。わかりやすい敵対モンスターとはいえ生き物を殺すだけの力がある相手なら、俺も人間の方が怖いと思うしな」


 大人のふたりが危惧していることは確かに、その通りだと思う。


 さっき原国さんが教えてくれたように、もし他に人と出会っても、すぐに判断するのではなく、善人だとわかってから、パーティー全員で相談して開示した方がいいかもしれない。


「わかりました。ガチャスキルはスマホ操作で引けますし、隠せるかと。僕のスキルは筋力バフ、だけということにしておけば……」


「シッ」


 武藤さんが遮るように手を上げる。

 警戒の色をした表情でダンジョンの分かれ道の手前で立ち止まる。


「右にモンスターがいる。左にはいなさそうだ。どっちへ行く? 俺は右でモンスターコインを稼ぎたいが」


「僕もコイン稼ぎは大事だと思います」

 有坂さんもこくりと頷く。


「では右へ行きましょう。コインもですがレベルも上げないとですし」


 このダンジョンではレベルシステムもある。

 個体レベルが上がると、スキルツリー解放に使えるポイントコインが得られる。それを使い、職業レベルを上げる。


 レベル概念は個体、職業、スキルにそれぞれある。

 先ほどの戦闘ではレベルは上がらなかったので、早めに上げておきたいところだ。


 しばらく進むと、武藤さんが「3匹いる」と囁いた。


「初手は私が」

 原国さんが弓をに氷の矢を番え、構える。


 ダンジョンの石壁の上部、等間隔に設置された明かりが揺れて奥の方で蠢くものが見えた瞬間、氷の矢が飛んだ。

 肉にそれが突き立つ音と、短い野太い悲鳴。残った蠢くものが一歩前にいる武藤さんへ向かって走り出す。


 武藤さんにかけたバフはまだ効果が続いているのが感覚でわかる。


 さっきと同じ猪鼠が赤い目を光らせて武藤さんに飛び掛る。それを武藤さんが切り伏せ、紫の血が舞う。最後の猪鼠を原国さんが弓で狩った。



『レベルが上がりました』

 天の声が響く。



「いいね来た来たレベルアップ。よしよしこの周囲にはモンスターの気配はないぞ」


 モンスターを倒した先には部屋があるようだ、とモンスターコインを拾いながら先行して行く武藤さんが言う。


「いやーしかし、坊主のバフとくれた武器、すげーわ」

「魔法弓もすごいですね。全部一撃で決まるとは」


 武藤さんと原国さんが口々に言う。

 いい武器が引けて良かった。


 武藤さんの気配察知によると、この先の部屋の中には5体モンスターがいて、ドアを開ければ気付かれるだろうと。


 なのでレベルが上がったこともあり、ドアの手前で一度立ち止まり、一旦軽めの作戦会議となった。

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