第2話【パーティーとクエスト】
スマホが振動したのは、どうやら僕だけじゃないらしい。
「あの、ステータスなんですけども……」
有坂さんが声をあげる。手には彼女のスマホが握られていて、カバーにはかわいらしい兎のステッカーが貼られている。
「全員で確認共有した方がいいですか? それと、これ、パーティー登録も」
有坂さんの差し出したスマホ画面には、『パーティー登録』と表示されていた。そういえば、白い部屋の説明に、携帯端末は初期装備にある、と言われていた。
有坂さんはそれを思い出したのだろう。
「ん? 何だ俺たちってパーティーとしてここにいるんじゃなかったのか」
武藤さんがジャージのポケットからスマホを取り出す。
原国さんと僕もそれぞれ自分のスマホを取り出して電源を入れると、スマホの画面は普段と変わっていて自分のステータスが表示されている。
上部にはスキルツリー、パーティー、アイテム、クエストと別項目があったので、パーティーを押してみると、有坂さんの画面と同一のものが表示された。
有坂さんのスマホに自分のスマホを向けると、『パーティー登録可能人数残り5名。有坂琴音とパーティーを組みますか Yes/No』の表示が出る。
「あ、有坂さん、登録してみていいかな?」
「はい、お願いします」
Yesを押す。有坂さんも操作すると、僕のステータスの下部に有坂さんの名前があり、横にフリックが出来る表示が出た。
フリックすると有坂さんのステータスが表示される。
「坊主俺も、俺も」
武藤さんがスマホを向けて笑う。僕は慌ててスマホを操作して武藤さん、続いて原国さんもパーティー登録をした。
「なるほど、パーティー登録はこういう仕組みですか」
原国さんが呟く。
「パーティーメンバーがいる人が他の人を登録すると同一パーティーに組み込まれるんですね」
有坂さんが頷く。全員の画面にパーティー全員の名前がある。
パーティー登録可能人数は自分を含めて6人まで。パーティーを組むと経験値が自動分配され、アイテムの譲渡確認はなくなるという説明が表示される。
アイテム欄にはパーティー共有ストレージ枠も表示されるようになった。
『初級クエスト、4人パーティーを編成クリア。報酬のスキルポイントコインをアイテムストレージへ送りました』
説明を読んでいると、クエストクリアの文言が表示された。
タブにあるクエストをタップするといくつかの初級クエストがクリア表示になっていた。
『初めての防具装備』『初めてのスキル使用』『初めてのアイテム譲渡』『新しいスキルの獲得』『初めてのアイテムスロットの拡張』の5項目だ。
未クリアのクエストは『????』表示で、どういうものなのかはわからない。何度かスマホの通知があったようだけど、さっきまで全然気付かなかった。
クリアしたクエストをタップすると、それぞれクリア報酬がアイテムストレージへ送られたと表示があった。
スキルポイントコイン3枚、それからHPポーション、モンスターコインが1枚。
アイテムストレージを確認すると、書かれた通りの報酬と、さっきのガチャのアイテムストレージに送ったポーションが入っていた。
指に嵌めた指輪もストレージに入れることが出来て、装備してても見た目からは消せる。
装備品にはEマークがついている。まるでゲームみたいだ。
僕は手に持ったままだったガチャ箱をアイテムストレージへと入れる、を押してみた。ガチャ箱が手元から消えてアイテムストレージに格納される。
E表示のガチャボックスをタップするとスマホ操作でのガチャスキル使用可能と表示されている。
とても便利だ。荷物を持たずに済んで、複数付けられる防具アクセサリーがじゃらじゃらしなくて済む。
「いろいろ機能があるみたいですが、クエスト報酬について提案があります」
いいですか? と原国さんが言う。全員が原国さんに頷く。
「私達全員、真瀬くんのガチャスキルの恩恵を受けているので、何かしら真瀬くんにリターンをしたい、と思うのですが、お二人はどうですか?」
「それはもちろん!」
「当然だな」
有坂さんがほわりと花のように微笑み、武藤さんはうんうんと頷く。
「私のクエスト報酬はスキルポイントコイン2枚、モンスターコインが1枚でした」
「俺も同じだな」
「私はスキルポイントコイン2枚だけです」
クリアしたクエストをすりあわせると『防具装備』は全員で、武藤さん原国さんは『武具装備』をクリアしていた。
「私はコイン全てを真瀬くんに譲渡しようと思いますが……」
「待って下さい原国さん。モンスターコインは受け取りますが、スキルポイントコイントは使って下さい」
僕は慌てて口を挟む。
「物理戦力も魔法戦力も回復役も、パーティーには絶対必須です。僕がスキルポイントで強化しても、戦力にも回復役にも今の所なれないので、例え夢の中だとしても、危険かもしれない」
まだモンスターは出てきていないが、どんな何が出てくるかもわからない。誰かが怪我を負うかもしれないと思うと、夢でもちょっと怖いなと思う。
パーティーメンバーの表示にはそれぞれ武藤さんは戦士、原国さんは魔術師、有坂さんは回復師と職業が表示されている。僕の職業欄は空欄のままだ。
初期スキルに応じて職業が決まっていると白い部屋で言われたが、僕のガチャに対応する職業はないということになる。
基礎ステータスもざっと見たけど僕が一番低い。各種職業ボーナス値がないからだ。
それ以上に、
「僕のスキルツリーボードを見て下さい」
3人が僕のスキルツリーボードを見て、あ、と声を上げる。
「僕には職業がないので、基礎部分にしかポイントが割り振れないんですよ」
スキルボードは3項目に別れている。
1つは体力や魔力、敏捷など、素のステータス数値を上げる基礎値向上ツリー、もう1つは職業レベル専用ツリー、そして最後は所持スキルのツリー。
筋力バフはポイントコインでもレベルを上げられるけれど、僕のガチャスキルはツリーでレベルを上げるものではなく特殊条件でレベルが伸びる特殊スキルだった。
「いや、職業ボーナスないなら余計基礎ステ伸ばさないとダメだろ」
武藤さんがあきれたように言う。
「同感ですね」
原国さんも同調をして有坂さんもうんうんと強く頷いている。
3人に押し切られて、スキルポイントコインを全員から1ポイントずつ受け取り、武藤さんと原国さんからは「武器の分」と言われ、更にモンスターコインも受け取った。
受け取ったスキルポイントと自分の分で基礎ツリーを6つ解放する。1つ解放するとステータス値が+5されるようだったので、体力に+5、敏捷に+5、筋力に+5と運+15増加するように割り振った。
スキルがガチャなので運に多く振り分けて、後は体を動かすのにプラスになる所に1つずつ振った。
それから試しに受け取ったモンスターコインをスキル一覧からガチャに使用すると画面の中で箱が光る。
「ガチャスキル、スマホ操作で引くとソシャゲみたいだなあ……」
画面をタップすると、スキルが1つ、武器が1つ、アイテムが1つ表示される。
「戦士の武藤さんが斥候役でいいんですよね?」
「ん? ああ、いいぜ」
スマホから顔を上げて武藤さんがへらりと「任せとけ~」と笑う。
「じゃあ今、試しにスマホでガチャ引いたので、スキルを武藤さんにスマホから譲渡出来るかやってみますね」
僕のスマホ画面にはガチャで獲得した星3スキル『気配察知』のスキルカードが表示されている。
スキルの説明の横にパーティーの誰が取得するか選択する4択があるので武藤さんの名前をタップした。
気配察知はダンジョン内の敵を感知するパッシブスキルで、スキルレベルが上がれば感知範囲の拡大、敵以外の感知も可能になる。
戦闘スキルを持った斥候が持っているのが一番有用なスキルだ。
「気配察知スキルって、バカお前、何でこんな有用スキルを俺に寄越すんだよ、自分に使えって」
「有用なスキルだからこそ、一番有効に使ってくれる人が持っていた方がいいと思ったんですが……」
ダメでしたか? ときくと武藤さんは半目になって、有坂さんに「なあ、コイツ、いつもこんななのか?」ときく。
「真瀬くんはいつもこんな感じですね……」
と困ったように微笑んで有坂さんが答える。
「えっこんなって何……?」
「こんなは、こんなだよなあ、嬢ちゃん」
「ですね」
あきれたように言う武藤さんに有坂さんはかわいらしく微笑んで同調する。
仲良しだ。パーティーだし、仲がいいならそれはそれでいいのかな?
「もうひとつは短剣が引けました。一応僕も戦力にちょっとはなれるかもしれないです」
星3の短剣で攻撃力+20で、特に特殊な装備条件はないのでスマホ画面のアイテム一覧から装備を押す。
装備状態の武器はスマホの操作をせずとも、アイテムストレージから出し入れ可能みたいだ。
手に掴む感覚で出現させたり、消失させるようにアイテムストレージにしまえる。
武藤さんや原国さんも持っていた武器をアイテムストレージに入れ、手を開けている。
「さすが夢だな、便利便利」
武藤さんが笑って「おっと、第一モンスターの気配だ」と剣を手元へ出現させた。
原国さんも弓を構えると、ダンジョンの通路の奥から、何かの鳴き声が聞こえた。
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