ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~【3部完結】
すちて
夢現ダンジョン編
第1話【ダンジョン1階】
今日も平和ないつも通りの一日を終えて、僕は布団に入った。
心地良いひんやりとした柔らかな布団が、ゆっくり僕の体温で温かくなってゆくのを感じながらうとうとと眠りに落ちて
――そして目が覚めたら真っ白な部屋にいた。
部屋の中には、僕以外にも人がいた。
1人はクラスメイトの有坂さん。
有坂さんはクラスでも人気者の美少女ですごく穏やかな人だ。さらさらストレートの髪を長く伸ばしていて、いつもニコニコしている女の子。
優しげな垂れ目をしていて、女子からも男子からも慕われている。
後は知らないキッチリしたスーツ姿のおじさん、上は白ジャージ、下は黒のジーンズを穿いたスリムで長身な若い男の人。
僕を入れると四人。
僕は寝る時に着ていた部屋着ではなく、有坂さんと同様に制服姿だったのでちょっとほっとしたのもつかの間、声も出せず、体も動かないことに気がついた。
僕だけでなく、誰も動かないし何も言わない。
誰1人として動けないし、声も出せない。
その白い空間で、僕たちは身動きひとつとれないまま、謎の存在から説明を受けた。
天から響く、謎の存在の第一声は、
『これから皆さんにはダンジョンを攻略して貰います』、だった。
――ダンジョン1階――
謎の声の説明が終わると、目の前が一瞬真っ暗になり、気付いたら石壁のダンジョンらしきところにいた。
背後は壁で、一直線に伸びた古い石造りの所々汚れた道と、等間隔に松明のような明かりが設置された壁。明かりはあるけど5メートル先は暗くて殆ど見えない。
白い部屋にいた僕を含めた4人が、困惑して顔を見合わせる。
「これは一体……どういうことだ……?」
ぽつりと知らないおじさんが呟くのはこの場の全員の心情でもあった。
「異世界転生ってやつ? いや、転移の方か……?」
若い男がいう。僕もそういうラノベやアニメや漫画は読んできたけど、まさか夢にまでみるとは思わなかった。
「ええと、どうしましょう……?」
有坂さんは困ったように言う。その声は困惑していても、とても優しく上品に響く。
僕は少しばかりドキドキする。
特にそんなつもりはなかったけど、夢に見るほど僕は有坂さんのこと好きなのかな……? と少し恥ずかしい。
「とりあえずお互いに自己紹介をしませんか。あと説明にあったスキルも全員で共有した方がいいかもしれません」
スーツ姿のおじさんが冷静に言う。最年長の人が理性的でちょっとほっとした。年齢はうちの母さんと同じくらいだろうか。
母さんから「父さんは僕が幼い頃に事故で死別した」と聞かされている。父さんが今も生きていたらこんな感じだったのかもしれない。
「まずは言い出しっぺの私から。……
おじさんは原国さんというらしい。
僕と有坂さんに向かってにこりと笑ってみせる。落ち着いた優しいおじさんみたいでほっとして僕は思わず微笑み返す。
「スキルは氷魔術でした」
僕たちにひとつ穏やかに頷くと、原国さんは自分のスキルを口にした。
白い部屋で僕らはいくつかの説明を受けた。
その1つがスキル。ダンジョン内で使える特殊技能、という話で1人1つずつ与えられた。
攻撃魔術は火や風などに属性が分類されるものだと天の声は言っていた。
原国さんはその中の氷属性の攻撃魔術を得たということだろう。
みんなが原国さんを見つめて、少しの沈黙の後、白ジャージの若い男が小さく挙手して「俺は
浅黒い肌に緩くウェーブのかかった長い黒髪をひとつに束ねた青年は、職業は言わなかった。
20代くらいだろうか。人の年齢はわかりにくいけど、体格からしてスポーツ関係の人かもしれない。背も高く、シュッとしている。
次に有坂さんが小さく挙手して「
有坂さんはおっとりした癒し系なのでぴったりのスキルだなと思う。
「ええと僕は
最後は僕なので、みんなの視線を受けて挙手はせずに続ける。
みんなのスキルはファンタジー定番の攻撃魔術、剣、回復魔術だったけど、僕のだけ何か特殊なスキルだった。ガチャと聞いた瞬間、みんなの表情が動く。
「ガチャのスキルは、モンスターコインを使うとアイテムや装備スキルが得られるみたいです」
他のスキルと違うので説明が必要だと思い口にすると、武藤さんがわくわくした表情で「すっげえチートスキルじゃんよそれ!」と興奮した声を出した。
「チートなのかはわからないというか……ダンジョン攻略の戦力になれるかどうか……とりあえず初回用にコインがあるので使ってみますね」
僕はポケットから小さな箱とコインを取り出す。皆がそれを固唾を呑んで見守る。
ファンタジー作品でよく見かける宝箱のフォルムをした箱の、丁度鍵穴にあたる場所にコインの投入口がある。
そこに10と書かれた銅色のコインを入れてみる。
『初回10連無料ガチャ! 10連とオマケ+1回を排出します』
というアナウンスと共に箱が光った。11回光って、箱が開く。白と青と紫、それから虹色に光っていた。どうやらレアリティは光の色で決まるみたいでドキドキワクワクする。
開いた箱の中をみんなで覗き込むと、カードが11枚入っていた。
取り出すと、箱が閉じる。
「どんなのが出たんだ?」
武藤さんが興奮気味に訊いてくる。ゲームで引くガチャは楽しいし、ワクワクするのですごくわかる。
「ええと、装備が6つとアイテムが3つ。スキルが2つですね」
装備は防具が4つと、武器が2つ。
防具のカードには指輪の絵が描かれている。
このダンジョンでの防具は鎧やファンタジー服ではなく、全て指輪やネックレス腕輪などのアクセサリーの形。複数身につけられると白い部屋で説明を受けた。
僕は防具のカードを手に取る。3つは星2。1つが星3。
物理防御力の指輪が星2で+10が2つ。
魔法防御力の指輪が2つ。星2が+10と星3は+30だった。
それから武器は丁度よく剣術スキル持ちの武藤さんが装備できる星3の剣【ブロードソード】が1つ手に入った。
もう1つは星5の魔法弓だった。
カードには魔法弓は魔法を所持していないと装備できないという注意書きがあった。弓スキルは必要ないみたいで、原国さんが装備できるのでほっとした。
「剣は剣術スキル持ちの武藤さん、魔法弓は攻撃魔法持ちの原国さんに使って貰いたいんですが、良いですか?」
僕が言うとふたりは、いいのか? と訊いてくる。
「白い部屋の説明通りだと、このダンジョンにはモンスターがいて戦わないとダメ、なんですよね? こういう武器も防具も自分で独り占めするより、スキルのある人に使って貰った方がいいな、と思って。それに弓は魔法使える人でないと装備できないみたいなので……」
「確かにそれはそうですが……」
原国さんは武藤さんを見て、険しい表情を浮かべる。
武藤さんも原国さんを見て、うーんと唸った後「わかった」と言って、僕からカードを受け取りながら「俺と原国さんで真瀬の坊主と有坂の嬢ちゃんを護ればいいんだな?」と笑った。
それを見て原国さんは少しほっとしたように表情を緩めて、「そういうことなら」と僕からカードを受け取る。
『武器カードの所有権を譲渡しますか?』
天の声に「はい」と応えると、カードが書かれていたアイテムに変化する。
「おわ……っ」
彼らの手の中でカードが物質化した。掴んだ剣に武藤さんが声を上げる。
武藤さんの剣も原国さんの弓もかなりしっかりした作りで、決して安っぽいものではなく、それは、本物の武器だった。
「すげえな、これ……ガチで剣だ」
鞘から剣をわずかに抜いて、その刀身を見た武藤さんが呟く。
現代日本で本物のロングソードを手にする機会は稀も稀だ。みんながほんの少し息を呑む。
原国さんの弓にセットの矢はなく、多分魔法を撃ち出して使うのだろう。優美なデザインの弓を、感触を確かめるように原国さんが握っている。
「後は防具ですが、これは1人ひとつで。回復役で女の子なので星3の魔法防御の指輪を有坂さんに。戦闘スキル持ちのおふたりには物理防御の防具をお渡ししますね。あとはスキルなんですが、戦闘補助スキルと、アイテムストレージ+10でした」
防具のカードを配りながら説明をする。こちらも所有権を譲渡すると、アイテム化した。防具は全て指輪型で、全員が思い思いの指にそれをはめる。
「戦闘補助スキルですか」
「筋力のステータスがアップするみたいです。近接戦闘を有利に出来るみたいで、持続時間は30分。星3のスキルです」
「真瀬くん」
少し真剣な声音で、原国さんが口を開く。温和な口調と表情がなくなると、目つきが鋭くて怖いくらい冷淡な人に見える。
何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうか、首筋が冷える。父親がいない僕は、壮年の男性から怒られることが殆どないので、少し怖い。
「君は見ず知らずの大人を信用しすぎているが、それは危険だと思わないかね? 白い部屋で君も聞いただろう。経験値になるのは、モンスターだけではない、と」
確かに白い部屋での説明にあった。モンスター等を倒すことで経験値を得て、レベルを上げられる。そして経験値を得るのには、他にも様々な方法がある、と。
そしてダンジョンは思うが儘に攻略をしろ、とも。
つまり原国さんは、
「もし私が問答無用で、全てそれを寄越せと言ったらどうするのかね。君を殺して奪おうとしたら、武器を全て渡してしまった君には、身を護るすべはない」
殺せるのは、モンスターだけではない、と言っている。
怜悧な言葉と視線にぞわりと背筋が冷える。
「待てよおっさん、俺はアンタと坊主と嬢ちゃんを護ると言った。アンタがその気なら、何故戦闘力のある俺から潰さない?」
凍りつく僕と有坂さんを庇うように、武藤さんがいつでも抜剣できるように構えて前に出る。
「無論、私にその気がないからだよ。今、とても怖かっただろう、真瀬くんも有坂さんも。武藤くんもね」
にこり、と温和な表情に戻った原国さんが、弓を置いて両手を挙げてみせる。
「私には敵意はないし、害意もない。君たちから何かを奪う気もない」
そう言って微笑んだ後、すっと目だけ笑みを消して「けどね、世の中の人間は、私や武藤くんのような人間だけではないんだよ」と悲しそうに言った。
「君たちのような子供から、尊厳や金品、命すら奪う人間もいる。嘆かわしいことにね。だから用心をして欲しい。言っただろう? 私も君たちくらいの息子がいるんだ。あまりに無用心で、心配でね」
そう口にした原国さんの表情は、子を心配する父の顔で、僕は一気に力が抜けた。
「すみません、本当に無用心でした」
確かに、原国さんの言う通りだ。第一印象で、大丈夫なような気がして僕は油断した。
幸いなことに、原国さんの言うような人間が僕の周囲にはいなかったから。
本当に原国さんが他人を殺して奪い取るような相手なら、それが出来る武力を僕が与えたことになる。
僕だけでなく、有坂さんだって酷い目に遭ったかもしれないと思うとゾッとする。
僕は大いに反省すると共に、有坂さんを見た。有坂さんには僕のせいで怖い思いをさせてしまった。
有坂さんは僕と目が合うと、小さく大丈夫、と頷いてくれた。
「こちらこそ折角信頼してくれたのに、脅かしてすまない。君の信頼に足る大人でいられるよう、務めるよ」
それでも僕の彼らは善人だろうという判断は、間違ってなかったことを証明もしてくれていた。
原国さんも武藤さんも、善人で、とても優しい人だ。
ふたりとも僕と有坂さんのために、体を張ってくれた。武藤さんは僕らを護ると言ってくれて、言った通りに動いてくれた。
そして、もし武藤さんが原国さんを問答無用で攻撃していたら、怪我をしていたのは原国さんだっただろう。
僕の判断が、誰かが傷を負い、命すら危ぶむ。
それだけ危険なものだったのを、身を張って教えてくれたのだ。
「おっさん、俺も試したな?」
と武藤さんが皮肉な笑みを浮かべて笑う。それに原国さんは「すまない」と応えた。
「俺が坊主たちの側に立たずにいたら、アンタ俺をどうする気だったんだ?」
半目で原国さんに視線を送り、武藤さんがからかうように言う。
「結託したように見せかけて、いくつか質問をして……君が本当に悪人なら――殺していたかもしれないね」
原国さんは困ったように微笑んで、そう口にした。
「夢の中とは言え、そんなことをしないですんで、ほっとしたよ」
そんなちょっと怖い一幕を挟んで、スキルについてはふたつとも僕が得ることで話は落ち着いた。
ガチャから出た、残りのアイテムは星1のMPポーション、星1のHPポーションだった。
カードにあるアイテムストレージへ、の表示を押すとカードが目の前から消えた。
と同時に、僕のスマホが、制服の外ポケットの中で振動した。
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