第4話【協力と懸念】

「クエスト報酬もありますね」


 スマホを見るとクエストもいくつかクリアしていて『初めてのモンスター討伐』『初めてのレベルアップ』『初めてのバフスキル使用』がクリア表示になっていて、僕のアイテムストレージにはポイントコインが9枚と表示されている。


 全員ステータスなどの確認が終わり、この先の攻略を話し合う。


「次の部屋にモンスターが5匹もいるなら、何かしらの範囲攻撃をツリーで取った方がいいかもしれないです。魔法か剣術のスキルでそういうのってありますか?」

 有坂さんが小さく挙手して言う。


「俺のツリーだと範囲攻撃はだいぶ遠いな。全員から集めてもちょい足りねえ」

「私の方の範囲魔法ですが、ある程度皆さんから譲渡いただければ届きますが、私のポイントコインだけでは届きませんね」


 原国さんが端末をみんなに見せる。原さんの氷魔術のスキルツリーの範囲攻撃までのポイントは25ポイントで原さんの所持スキルポイントは12ポイントだ。


 共有に入れているモンスターコインをスキルポイントにしてもいいが、さっきのようにパーティー内でのポイント譲渡も出来る。


「坊主のガチャスキルってスキルポイントコインでも引けるのか?」


 武藤さんに訊かれて僕は首を横に振る。


「モンスターコインでガチャを引くスキルなので、スキルポイントコインでは引けないと思います」


 僕はガチャ画面を表示させて、みんなに見せる。


 モンスターコインでガチャを引く→1回or5回の表示しかない。スキルポイントコインで引けるなら、その表示があるはず、と説明すると「了解了解」と武藤さんが言って「んじゃ不足分は俺が出す」と続けた。


「俺はバフもスキルも武器も貰ってる。十二分過ぎるだろ?」


 そう言うと武藤さんはささっとスマホを操作して、原国さんにスキルポイントを譲渡した。

 レベルアップ分の殆ど全てを。


分割して渡そうと思っていたので少し慌てていると


「俺たちはパーティーで、ガチャなんてチートスキル持ちがいる。独りで最強になれるってのに、それをパーティーをひとつの戦力として有効だからと初めて会った他人にもほいほいスキルだの武器だの防具だのアイテムだのを渡しちまうお人好しがな」


 武藤さんが僕を見て笑う。


「だから俺も、パーティーをひとつの戦力として有効にするのにポイントを使った。問題ないだろ?」


「お人好しですかね……? 剣も弓も僕には扱えない物なので、余り気にしないで欲しいんですが……」


「お前無自覚系か」

「えっなにがですか」


 僕としてはステータス上持てない武器を持てる人に使って貰った方がいいし、スキルも1人であれもこれもと持つよりは役割に応じて必要な物があった方がいいと思っただけなのに、武藤さんは僕をお人好しだ、と言う。


「真瀬くんはいつもこうなので」

 有坂さんまで……! 


 確かに客観的に見たらそういうふうに見えるかもしれないけれど……そんなにいいものでもないと思うんだけど……人に役目を渡している分、自分のやることが減ってるわけだし……。


 そもそもガチャスキル自体、ガチャなだけに1人で使えば当たり外れになるけど、パーティー全体で見れば当たりの割合は増える。


 それに剣や弓や防具を渡さないことで出る不利益の方が大きい、という説明をするが、有坂さんも武藤さんもうんうんと頷きながらも生ぬるい微笑みを浮かべている。


「武藤くんありがとう。範囲魔法が取得出来ました。次にスキルポイントコインが手に入ったら、今頂いた分は返却します」


 原国さんまでもが、僕らを見て微笑ましげに笑んで言う。


「武藤くん、部屋の中のモンスターはどの程度散らばっていますか? 取得出来た範囲魔術の効果範囲は10Mでクールタイムはなし、連撃は出来ます。ですが、MP的に2発が限界ですね。威力は矢の1.5倍です」


「それなら見た感じ範囲魔術で何とかなりそうではあるな」

 ふむ、と武藤さんが一呼吸置いて言う。


「ドアあけてまず原国さんが範囲魔術をぶっ放す、さっきのでっかい鼠だったらそれで終わりだろ。別ので倒せてなかったらもう一発やって貰って、それでもダメなら、俺が前に出てドアの外の通路で各個撃破、でいきますかね」


「ではそのようにしましょう。ドアもありますから、作戦会議の続きはモンスターを倒した後に中でやりましょうか」


「はい!」

 作戦は決まった。


 僕と有坂さんは下がり、ドアの前へ武藤さんと原さんが向かう。武藤さんが「んじゃあいくぜ、3、2、1」と秒読みをしてゼロ、でドアを開け放つ。


 原国さんが手を突き出して、魔術を放った。


 高速で舞う氷の塊が部屋のモンスターを襲う。渦を巻くような、竜巻のようなそれに巻き込まれた猪鼠たちは、その一撃で紫の血霧を舞わせながらずたずたになって動かなくなった。


「すげえな氷の範囲魔術。詠唱とか呪文名とかも言わなくていいんだな」


 武藤さんが関心しながら部屋に踏み込むと、猪鼠たちはコインへ変わっていく。紫色の血も消えた。

 僕たちも後に続いて部屋に入る。氷の魔術を範囲で使った後だからか、部屋がほんのりと寒い。


「詠唱や呪文名は言わなくても大丈夫ですね」

 原国さんが答える。


「ただ、同士討ちを避けるために確認の意味で使うスキルの名前はいった方がいいかもしれないですが……まあでもちょっと恥ずかしいですねさすがに。子供の頃なら喜んで叫んでたと思いますが」


 原国さんにもそんな時期があったんだ、というのは驚きだった。冷静な大人にしか見えない原国さん。どんな少年だったんだろう。



「おおーっあったあった。初宝箱だ!」

 部屋の奥の目立たない場所に、ぽつんと宝箱が置かれている。


「どうしますかこれ。罠とかあるかもしれないですよ」

「罠かー罠は怖いな。モノによっちゃ即死もあるだろうしな……夢とはいえ罠にひっかかって死にたくはねえな」


「モンスターコインはこれで10枚になりましたけど、真瀬くんのガチャスキルで罠に対応する物が出るかもしれませんね」


 原国さんがドアを閉めてからコインを拾うと僕に差し出す。


「んじゃまあ宜しくな坊主」

「頑張ってね真瀬くん」

 どうやらパーティー全員、モンスターコインでガチャを回すことにしたみたいだ。原国さんからコインを受け取ると、2人からも声援が飛ぶ。


「じゃあ引いてみますね」

 僕は少しドキドキしながらガチャ画面をタップする。11回画面の宝箱が光る。


「出た物は共有アイテムストレージに入れますね」

「わかってたけどさあ、お前なあ……」

「真瀬くんは本当に欲がないんですね……」


 みんなで意見を出し合うのに共有アイテムストレージに入っていた方が画面がそれぞれで見られていいと思うんだけど、何故か大人2人に呆れられた。


 有坂さんはニコニコしているからいいかな?


 共有アイテムストレージに送ったガチャアイテムは星3武器の槍、星4武器の杖、星4防具の耐毒のイヤリング、星2防具の物理防御+10が2つ。


 星4スキル風魔術と星3スキル気配遮断。


 MPポーション2つと星5アイテムの身代わりの護符、最後のひとつが魔術のスクロールで星3の炎魔法だった。


「スキルは2つとも坊主が取れよ」


「えっ風魔術は魔術師の原さんが取った方がいいと思いますけど……? 気配遮断も斥候役の武藤さんが持っていた方が良いんじゃないですか?」


「MP管理的には魔法は1人に特化しない方がいいし、お前さんに職業がついた方がいいだろ。いくつかスキル得たら職業も生えるかもしれんだろうからな」

 武藤さんが呆れたように言う。


「それに杖も出てますからね。攻撃魔法用の装備が弓と杖で2つあるなら、攻撃魔法の使い手は2人いた方がパーティーとしてはありがたい」


「ですね。その上気配をある程度消していられるのなら前衛から敵が抜けても警戒されずに攻撃を当てられるかも」


 原国さんと有坂さんが続ける。確かにその方がパーティーに死角が出来にくい。

「わかりました。スキル2つと杖を僕が取得しますね」


 共有アイテムストレージからスキル2つと杖を取得する。


 が、職業は生えない。

 それでも風魔法をスキルで覚えたので杖は装備可能になった。


「職業は生えませんでした」


「うーん何でだろうな……職業は初期スキルで設定されるっつってたけど、派生したり条件発生したりもするっつってたよなあ……?」

 武藤さんが疑問を口にする。


 白い部屋でされた説明を僕も思い返すけれど、特殊スキル持ちはある種のチートに近いのかもしれない。

 ガチャスキルを使ってみてわかったが、かなり強力なスキルだ。職業補正が得られないくらいでトントンなのかもしれない。



「少し、懸念を話してもいいですか」



 原国さんが重く口を開く。考え込むように原国さんは目を伏せている。


 今のところ攻略は順調だし、他に誰か人がいても、僕が最初にしたようにするつもりはないし、ガチャスキルについても言わずとも風魔術と杖を手にしたので魔術師で通せば済む。どんな懸念があるんだろう?


 全員が了解すると、原国さんは真剣な目をして、こういった。




「これは、本当にただの夢だと思うかい?」、と。


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