第11話 記憶があってもなくても

「……うわっ!」

 ソファから飛び起きる。どうやら戻ってきたようだ。

「大丈夫!? まだ記憶ある?」

 先輩さんが聞いてくる。

「え、大丈夫です。それよりあの声イトナさんですよね? なんでわかりそうなときに起こしちゃうんですか!」

「あ……ごめん、でも危なかったから……」

 あ、喋り方が戻ってる。

「危なかったっていったいどういう……」

「あ、えと。あの手紙にすごい強い魔力を感じて……だからたぶんあの手紙に忘れるように書いてたんじゃないかなって」

「あ、そういう……言われてみれば俺が昨日目を覚ましたのもあの辺でした」

「じゃあイトナの考えはあってたわけだ! さっすが!」

 先輩はイトナさんにグータッチを差し出すと、イトナさんは申し訳なさそうに合わせる。

「……で、なにか思い出せた?その紋様をかけたやつについて」

「はい。と言っても彼女に直接通じるものはわかりませんでしたが。まず見た目は中学生くらいの女の子で銀髪の長い髪をしてました」

「ほうほう、他には?」

「あと三階の窓から帰ったぽかったので飛べるんだと思います」

「うん……やっぱりだ」

「やっぱり?」

 先輩は意味深に呟く。

「いやね、さっき徹君をソファに運んだ時にTシャツの隙間から見えちゃったんだけど……ちょっと上着脱いで」

「え、なんでですか嫌ですよ!」

「いいから! それでわかることがあるの!」

「わかりましたよ……はい、これでいいですか?」

 先輩に言われていやいやTシャツを脱ぐ。

「やっぱりそうだよね、どう思う? イトナ」

「うん……たぶんそうだよ」

「え、ちょっとなんすか教えてくださいよ」

「ちょっと自分の肩……自分じゃ見にくいかな。ちょっと待ってて」

 先輩はそういうと鏡を出して俺に渡す。

「自分の右肩を見てみて、何か跡があるでしょ?」

 そう言われてみてみると確かに四つの点のような跡があった。

「うわなんすかこれ」

「驚かないで聞いてね……たぶん吸血鬼だ」

「吸血鬼……つまり噛み痕ってことですか?」

「そうだね、吸血鬼なら空も飛べるし」

 この痕は四つじゃなくて二つが二個ってことか。

「それで俺の家に来たんですね……日光に当たるといけないから」

「たぶんそうだと思う。じゃあこっからは色々照らし合わせていこっか、順番に何があったか教えて?」

「わかりました。まず最初はバイト帰りで……」


「……そこでイトナさんの声が聞こえて終わりって感じです。どうですかね?」

「うん、とりあえずいいかな? ……どういう状況?」

「ですよね! 俺も意味わかんないっすよ!」

「僕も……何してんのって感じだった」

「まあいいや。でも話を聞く感じいい子そうじゃん。忘れさせたのも悪意があったわけじゃなさそうだし」

「うん……それに紋様もひっ、ひと月で消してくれるらしいしね……」

「はい、とりあえずそこは安心です。これと一生付き合うとか最悪すぎるんで……あ」

 そう言うとただでさえテンションの低いイトナさんのテンションがさらに下がっている。

「そうだよね……紋章を持って一生だなんて最悪だよね……それなのに僕は麗に……!」

「あ~私は大丈夫だから! ぜんぜん気にしてないって言ってるでしょ? 大丈夫だから元気出してよ!」

 完全に地雷を踏んでしまった。先輩が必死にイトナさんを励ましている。

「ホントすみません! そんなつもりで言ったわけではなくって! むしろずっとなら全然気にならないっす! むしろかっこいいというか生かしてますよ!」

「ごめんねぇ……ホントごめんねぇ」

「あ~こうなったらしばらくダメだ。徹君ごめんね今日はこれまでだ。駅まで送るよ」

「もうなんかホントにごめんなさい」


 帰り道、先輩と話しながら帰る。

「それで、徹君はこれからどうしたいの?」

「え?」

「最初に君を助けようと思ったのは君のそれが『隷属紋』だったからなんだよね。何かやばい命令とかされる前に何とかできないかなと思って」

「なるほど……ありがとうございます」

「いいのいいの。でもその心配はなさそうだし何ならその紋章がそのうち消えるってわかった以上もう君が探す理由はないんじゃないかなって、化粧の仕方なら教えるし。彼女のことだって記録として見ただけで記憶としてはほとんど覚えてないんでしょ?」

「そう……ですよね」

 確かにそうだ。俺が彼女を探す理由はもうなくなったし彼女側も記憶を消してる以上俺が探すことを求めてはいないのだろう、だけど。

「……先輩、わがまま言ってもいいですかね」

「いいよ。言ってごらん」

「彼女を探したいです。あの子、たぶん俺のためを思ってあの命令をしたんだと思います。それに会った時の彼女、どう考えても普通じゃなかった。もしあの日から彼女があんな生活に戻るなら、それが僕のせいだというなら……俺は耐えられないです」

「それでこそ徹君だよ、なんだかんだ言って人を見捨てられない」

「なんすか、ダメすか」

「いや? めっちゃかっこいいと思うよ? でも探すとなると大変だよ? こっちにある手がかりと言ったら外見的特徴とその隷属紋くらいだし何より向こうはこっちを避けてる」

「それでもです。それでも俺は彼女を探したい。記憶があってもなくても同じです」

「……わかったよ。ほっといたら一人で探しちゃいそうな勢いだしね、協力するよ」

「ありがとうございます! 心強いです。」

「イトナも気に入ってるぽいしね」

「イトナさんが?」

「うん、君が眠った後すっごいほめてたよ。余計なことも言ってたけど」

 たぶん付き合えとかそんなニュアンスのことだろうなぁ。

「余計なこと……そういや俺にも言ってました」

「だよね、あの子いい子なんだけど仲いい男子の話すると夢の中に行ったりしてるらしくて……」

 なんか先輩に彼氏ができない理由が少しわかった気がする。言わないけど。

「ハハ……そういや先輩とイトナさんってどういう関係なんですか? 紋様つけた理由イトナさんに聞いたんですけど断られちゃって」

「まあイトナは話したがらないだろうね……。これはね、私を助けるために付けてもらったんだ」

 先輩は左手の紋様を見ながら話す。

「助けるため……?」

「うん。だから仕方なかったしむしろつけてもらったことはすっごく感謝してるんだけど……イトナは他に方法があったって聞かなくって」

「そうなんですね……」

「普段はちょっと頼りないかもしれないけど、ホントはめっっっっちゃかっこいいんだよ!」

「はい、わかります」

 実際に夢の中で僕に言ってくれたことも記憶の中から助けてくれたこともかっこよかった。

「ホントにわかってる? まっいいや」

「え、いいんすか?」

 そう言うと先輩は二歩ほど走って僕の前に出て、話続ける。

「だって、イトナの良さを一番わかってるのは私だもん!」

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