第9話 大切なのは
「きて……起きて、お~い」
「う~ん……はっ!」
目を覚ます、いや夢の中だから寝に入ったって言うのか? わからんがイトナさんがいるということはとりあえずうまくいったようだ。
「あ、おはよ。とりあえず夢に入るのには成功したみたいだね、よかった」
そう話すのはイトナさん。さっきは部屋の隅にうずくまっていたが今は普通に立って翼を広げている。
「ありがとうございます……なんかさっきと雰囲気違いますね、はっきりしてるというか」
イトナさんは少し照れくさそうに答える。
「まあね、夢の中って僕のテリトリーだから多少話しやすいんだよね」
「なるほど……」
「それより伊月君、悪いけど一つ質問してもいいかな?」
「あっはい。大丈夫です」
その答えを聞くとイトナさんは俺に急接近して両肩を掴むと問を投げる。
「君、麗のことどう思ってるの? 付き合いたいとか?」
……これ選択ミスったら死ぬ奴だ。慎重にいかねば。
「そんなんじゃないですよ! さっき先輩も言ってましたけどバイトの先輩後輩です。付き合うなんてそんな恐れ多いです!」
「ホントに?」
「ホントっす!」
「そっか……」
これは助かったか? 心の中で祈る。
「……残念だな」
あ、死んだ。
「すみませんすみませんすみません! 俺変な意味で言ったわけじゃ」
「せっかく麗に恋人ができると思ってのに」
「え?」
あれ?なんだか思った反応と違う。
「でも家に連れてきたってことはちょっとは可能性あるのかな? ……まあどっちみち麗と仲良くしてくれると嬉しいな。友達が多いのもうれしいし」
「……あ、それはもちろん。いい先輩ですし……いつも頼りにしています」
「でしょ! 麗すっごくいい子でしょ! なのに彼氏作んないんだよねあの子……もう作ってもいい年ごろだと思うんだけど」
急にテンションが上がった。
「えっと……レインさんは先輩に彼氏作ってほしいんですか?」
「ん? そりゃそうでしょ! 僕は彼女に幸せになってもらいたいんだ。あんな紋様つけちゃったお詫びなんて一生できないからせめて幸せになる手伝いをしたい」
めちゃめちゃいい人だ。でも紋様つけたことを後悔している? どういうことだろう。
「えっと、後悔してるんですか?」
「うん、あの時はそうするしかなかった……というかそれ以外思い浮かばなかったんだ。麗は気にしないって言ってくれてるけどそういうわけにもいかないじゃん」
「そうなんですか……どんな状況かお聞きしても?」
「ちょっと嫌かな、恥ずかしいし。それより今はもっとやるべきことがあるでしょ?」
「あ、それもそうですね。じゃあお願いします」
「任せて。麗の後輩だ、全力を尽くすよ。でも……一番頑張るのは君なんだよ」
「え、それってどういう……」
「一番大切なのは『認識』することなんだ。どんな事もそこに『意志』がなければ何も起こらないし起こせない」
「なるほど……つまり?」
そう聞くと俺の頭を指先で突く。
「君が全力で思い出すんだ。何一つ覚えてないとしても『思い出そうとする』ことが大事なんだ。僕にできるのは道を照らすことだけ、進むのは君自身だ」
「……わかりました。とにかくやってみます」
「うん、そのいきだ。まあ口でいくら言っても仕方がない、やってみよう。じゃあ目をつぶって」
「はい、お願いします」
「それと命令内容に近いところほど思い出すのは難しいと思う。でもめげずに頑張ってね……『ドリームマニピュレーション』」
レインさんはそう言って俺の頭を両手でつかむと何かつぶやいた。するとさっき眠らされたときのように急に意識が薄れていく。
「入ったらどんな小さなことでもいいから思い出すんだ、そうすればそこからつながって思い出せる!」
体からガクッと力が抜ける。ちゃんと夢の中に入れたようだ。
「頑張れよ伊月君、絶対に思い出せ」
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