第8話 エロ漫画とかに出てくる?

 結局流されるままに電車に乗ってしまった。車両には俺たち二人しかいない。

「……本当にいいんすか。こんなことのために家に呼んじゃって。」

「ん? ぜんぜん平気だよ。むしろ急でごめんねって感じ。でも君は知らなくちゃならないなって思って。なんか理由ありそうだし」

「理由?」

「うん。わざわざ奴隷にした上で忘れさせるってのはどう考えてもおかしいんだよ。利用するなら『話すな』で十分だししないなら殺せばいいだろ?」

「物騒すぎません?」

「奴らはそういうもんだよ。でも忘れさせてるってことは何かあるのかなって。あの子なら解決できるかもしれないしね」

「あの子? 誰のことですか」

「今から君に合わせる人だよ。さっき言ったこれを付けた人」

 先輩はそう言いながら左手をひらひらとさせる。

「……ってことは先輩のご主人様ってことですか?」

「ん?ああ違うよ、そういえば言ってなかったね。私のこれは君のとは違うんだ。ほら、ちょっと紋様が違ってるでしょ?」

 先輩の手と見比べると確かに違う。

「そっすね……じゃあ先輩のは何なんすか?」

「私のはね……同格紋って言うんだ。あの子と私は対等な関係ってこと」

「対等……すごいっすね、よくわからないですけど」

「まあ私もよくわからん。紋様ついてる人見たの君で二人目だし」

「他にもいるんですか?」

「いたってのが正しいかな。もう死んじゃってるから」

「あ……すみません」

「いいのいいの! 仲良かったわけでもないしさ! それより紋様の話をしよっか」

「……一応お願いします。」

 正直全部を納得しているわけではない。しかし先輩が嘘をついてるとは思えないいし何よりイミフではあるがそう仮定した場合ほかの要素につじつまが合う。

「そもそも紋様ってのは奴らが下等生物を区別・支配するためのものだったんだ」

「ちょっとストップ! ……さっきから言ってる奴らって何ですか」

「ああ、奴らって言うのはいわゆる『ファンタジー』になってるやつらのことだよ。例えばエルフとか狼男とか吸血鬼とか。あと天使とかも」

「……すみませんやっぱり帰っていいですか」

「あ~もう本当なのに! もう信じなくていいから一旦そういうことって言うので進めるよ?」

「まあわかりました。どうせ電車が止まるまでは帰れませんしね」

「でも向こうでもいろいろあったみたいでずいぶん数が減っちゃって。そんで人類も科学や技術が繁栄したことで互いの力量関係が近くなっちゃったんだよね。それで絶滅を恐れた向こうと支配されたくないこっちの利害が一致して相互不干渉がとられたんだって」

「なるほど……ってことは俺らのこれバリバリアウトじゃないすか! 思いっきり干渉してません?」

「まあねぇ。でもここからが面白いところなんだ。契約に一番重要なのは『認識』することなんだ。自分が奴らに支配されたと認識することがね。だから人間が奴らのことを忘れている現在は昔と違って契約自体難しいってこともあってそこんとこの警備が滅茶苦茶ざるになっちゃってるんだって」

「えぇ……いいんすかそれ」

「まあ同意があれば暗黙の了解って感じかな。君の場合どっちかちょっと微妙だけどね……あ、駅ついたよ」

 電車を降り、話しながら先輩の家に向かった。歩いて五分くらいで家の前に着いた。

「ここだよ。あの子今起きてるかな?」

「あの子……そういや先輩と契約したのってなんの種族なんですか?」

「ああ、夢魔むまだよ」

「……え」

「だから夢魔だって」

「夢魔ってあの?」

「うん、あの」

「エロ漫画とかに出てくる?」

「うん、エロ漫画とかに出てくる」

「……帰りま」

「待って待って! 全然思ってるような子じゃないから! とってもいい子だから!」

「いやどう考えてもアウトですよ! 年齢制限かかりますよ!」

「大丈夫だから! ほらもうすぐだから来て!」

 先輩は俺の腕を掴むとそのまま引っ張って俺を連れていく。

「うわっ! ちょやめてください! 貞操が! 俺の貞操が!」

「大丈夫だって、ただいまイトナ! 起きてる? お客さん連れてきたよ~」

「食べてもおいしくありませ……え?」

 奥に人影が見えた。だが人影と言ってもいいものか。どっからどう見ても人間の姿をしていないのだから。大きな角と羽。一目で作り物でないと理解できてしまうほど精工だった。顔はよく見えないが羽の隙間から見えた瞳は引き込まれそうなほどきれいだった。

「……おかえり、麗。……って誰!?」

「だからお客さんだってば。バイトの後輩の徹君」

「……どうも、ィ、インキュパスのイトナ・メアです」

「あ、えと、伊月 徹です……ってインキュパス?」

「あ、はい。やっぱキモいですよね、すみません……」

「あ、いや夢魔とだけ聞いてたのでてっきり女性サキュバスかと……」

「だから大丈夫って言ったでしょ?」

「いや先輩だましに来てましたよね!?」

「いやちょっと面白くってさ。でもこれでファンタジーを信じれたんじゃない?」

「……まあ信じるしかないでしょ、こんなの見せられちゃ。人のできる範疇を超えてる」

「なら良かった。仮定と実際に理解するとじゃまったく違うからね、ああ良かった良かった」

「あ……えと……それで何のご用件ですか……」

「あ、すみません話し込んじゃって。えっとメアさん?」

「あ、イトナで大丈夫です……というか好きなように読んでください」

「あ、はあ」

 ……なんだか夢魔という割にずいぶん卑屈だな。もっとチャラい感じのを想像してた。

「そう!徹君。イトナに左手見せてあげて」

「あっはい」

 そう言って雑にまいた包帯を取る。

「……こんな感じなんですけど」

「あ、隷属紋……誰にかけられたんですか?」

「それが……わからないんです」

「え、わからない……というと?」

「徹君はたぶん『忘れろ』って命令をかけられてるんだと思うんだ」

「なるほど忘れてる……それで僕ってことですね」

「え、どういうことですか?」

「イトナは夢魔ってだけあって人の夢に入っていじることができるの。それで徹君の夢でその日のことを掘り起こしてもらおうと思って」

「え、そんなことできるんですか?」

 期待の目でイトナさんを見る。真偽はともかく夢をいじれるというのは魅力的だ。

「あっいや多分……大丈夫です、おそらくですけど」

「……先輩ホントに大丈夫ですか?夢入ったまま死んだりしません?」

「大丈夫よ。こんな感じだけど本物の夢魔だから」

「まあ先輩が言うなら信じますけど……でも今俺眠くないっすよ?ここ二日めっちゃ寝ちゃったんでたぶん夜まで眠れないんですけど」

「あっそれは大丈夫です、えい。『スリープ』!」

 イトナさんは俺の目を見てそういうと急に強い睡魔が襲ってきた。

「……マジ……すか」

「睡眠に関しては大体何とかできるので……ってもう寝てますね。麗、じゃあこのまま……」

「ちょっとイトナ急すぎ! まだ聞きたいことあったのに!」

「えっあっごめん……起こす?」

「もういいよ、二度手間になっちゃうし終わったらでいいわ。あとは任せたわよ」

「……うん、任せて。麗の後輩だもん。絶対助ける」

 そう言ってイトナは徹の夢に入っていった。それを確認すると八乙女は二人をソファとベッドに移動させた。

「さて、無事に思い出せるといいんだけど……」

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