第5話 ありがとう

 ……目が覚めた。時計を見ると丸一日たっていた。冷静になるととんでもないことが起きたな。

 まずさらっと流したけど『吸血鬼』という存在がトンデモだ。さらにその吸血鬼に奴隷にされるわ家に来るわカレーを一緒に食べるわもうありえないことのオンパレードで一周回って対応できたというか……。

 それでも疑問は色々ある。まず彼女はどこから来たのか、なぜボロボロだったのか、今まではどうやって生きてきたのか、等数えだしたらキリがない。

 まあとりあえず起きて考えよう。幸い外の雰囲気から察するにもう日は落ちてそうだし彼女も起きているだろう。もっと詳しく聞いて、情報を整理しなければ……いや、おかしい。リビングに光がさしている。レインがいるのならありえないことだ。俺は急いで家の中を探した。

「逃げられた……? いや考えれば当たり前か」

 思えば彼女の発言はここを出ていく前提の物が何個かあった。だが即日行かれるとは予想外だった。

「探しに行くか? でも今探してもどこかに隠れてるだろうし、かといって夜探しても見つからないだろうし……」

 部屋中を探し回ったがどこにも彼女の姿は見えないうえ、窓の鍵は開いていた。おそらく窓から飛んで行ったのだろう。それに彼女の靴や着ていた服もなくなっていて逆に貸した俺のTシャツは畳んであり、その横に手紙が置いてあった。俺は急いで手紙を読む。


 こうでもしないと貴方に止められそうだから黙っていきます。

 隷属紋が消えるのには私の中から貴方の血が無くならなきゃいけないからあと一ヶ月くらい残ると思うけどちゃんと消えるから安心して。

 それカレー美味しかったわ、ありがとう。


「なんだよこれ……」

 たった一日とは言えあれだけのことがあった以上はいそうですかと引き下がることはできない。

「なんか手掛かりはないか? ……あれ、もう一枚ある」

 Tシャツの下から封筒が出てきた。表に書いてある字を読み上げる。


 どうしても私に会いたかったらこの中の紙を見て。


「なんだよ……びっくりさせやがって」

 おそらく地図でも入っているのだろうと思い、封筒を開ける。

「なになに……は?」

 そこには強い文字でこう書いてあった。


『私についてすべての記憶を失う』、と。

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