第6話 なんで傷の上にも

「……あれ?」

 目を覚ました。どうやら床で寝てしまっていたらしい。ゆっくりと起き上がる。

「痛た……ってマジか。俺一日中ずっと寝てたのかよ……」

 スマホを見ると丸一日すっぽり抜け落ちていた。何ならバイト終わってからの記憶もあやふやでどうやって帰ってきたかさえ覚えていない。

「いくらバイトで疲れてたとはいえ寝すぎだろ俺、少し減らした方が良いんかなぁ……」

 まあゴールデンウィークだし良いかと自分に言い聞かせる。実際バイトも明日で学校も明後日だしたまの休日にこうしていても罰は当たらないだろう。

「けど寝すぎたからか体がだるいな……床で寝たってのもあるだろうけどやっぱ何でもやりすぎはよくねえや」

 とりあえず顔を洗うため洗面所に向かう。

「とりあえず歯ぁ磨いたら飯食わねぇと……ってなんだこれ」

 鏡に映る俺の左手の甲には何かよくわからない模様が書いてあった。

「ハァ!? 痣……なわけねえよな自分で書いたのか? ヤバいまったく覚えてねえ……」

 これじゃガチで中二病みたいじゃねえか、岡野のことバカにできねえな。急いで消さなければ。俺は急いで手を洗う。しかし擦っても一向に落ちない。

「やべぇこれ油性か?全然落ちねえじゃねえか! ふざけんなよおい!」

 思いっきり石鹸で擦るが消えるどころか薄くなる気配もない。どんなペンで書いたんだよこれ。

「畜生どれだけだよ……っ痛!」

 慌てて爪を立てすぎたのかひっかいて皮がめくれてしまった。石鹸が染みてめちゃくちゃ痛い。

「あーもう最悪だ。マジなんなんだよもう!」

 とりあえず石鹸を洗い流す。幸い傷は浅かったようで血はすぐ止まった。

「とりあえずばんそうこうでも……は?」

 改めて傷を確認すると明らかにおかしかった、なぜなら。

「なんでんだ?」

 皮がめくれた場所にも途切れることなくその模様が続いていたのだから。

「どういうことだよ、皮の下にあるってことはペンじゃねえってことか? まさかタトゥー?」

 だがどう考えてもおかしい。そもそも俺は未成年だから墨は入れられないはずだし第一たった一日でここまできれいにできるわけがない。赤みすらないのはどう考えてもおかしい。

「は? は? はぁ!?」

 やばいやばいやばいやばい! すべてに納得ができないがとにかくこの模様は消えないことはわかった。それだけで大問題だ。

「意味わかんねえ! タトゥーだとしたら大人に相談するわけにもいかねえし……てか明日のバイトヤバいな……」

 日常は手袋でもすればいいが流石にバイト中にするわけにはいかない。かといって金がない以上休むわけにもいかねえし……。

「マジでだるい……ふざけんなよ!」

 壁を思いっきり殴る。意味がないことはわかっているが物に当たらないとやってられない。

「いやダメだ、こういう時こそ落ち着かねえと」

 そう言って深呼吸をし、歯を磨いて顔を洗う。焦っても仕方ないことが分かった以上落ち着いて冷静に対処法を考えなくては。

「とりあえず飯食うか。丸一日食ってないとなると頭も回らんわ」

 そうして台所へ向かう。一昨日仕込んだカレーがあるので食べながら考えよう。

「あれ、思ったより少ないな……一昨日食べたにしても少なすぎる。まあ疲れてたからか?」

 そう言ってと自分の分をよそう。二日は持つと思って作ったがもう後一食分ほどしか残ってない。

「これだけ食えばあんだけ寝られるわけだな、まあいいや」

 用意をしながら考える。マジでどうしよう、と。流石にこのまま生活するのは恥なんてもんじゃない。かといって年中手袋付けてるわけにもいかないし。

「あぁもう知らん! とりあえず飯食いながら考えよう。いだきたます」

 スプーンを掴むと半ばヤケになりながらカレーを掻き込む。あまり好ましいことではないがそれを気にできる精神状況ではない。そうしてほとんど注ぎ込むようにして飲み込んだ。

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