第12話 天才の名案
7月6日 日本時間20時 緊急会議室
会議は、昼の12時からすでに8時間以上たっているが全てを解決できる答えにたどり着けていなかった。
「皆さん、一度休憩しましょう。」
司会者のその一言で会議は一時中断した。
休憩の仕方はそれぞれ違い、軽食を食べる者、紅茶を飲む者、音楽を聴く者、さっきまでもピリついた空気から一転、リラックスした空気に変わった時、アメリカ大統領のジョージにメッセージが届いた。
送り主は生物学者の「ジャック・ジョンソン」で内容は、「お話ししたいことがあります。バーチャル会議のチャンネル3でお待ちしております。」という内容だった。ジョージはそれを見た後すぐチャンネルを切り替えた。
すると周りの風景が会議室から、白を基調とした暖炉のあるオシャレな部屋に変わった。
そこにはすでにジャックがいてジョージが出てくるのを見ると、椅子から立ち上がり挨拶をした。
ジョージは、右手を挙げて「構わない、座ってくれ」と言うとジャックは椅子に座り直した。
ジャックが座ったのを確認してジョージから切り出した。
「それにしても久しぶりではないかジャック君元気だったかな?
君の噂は聞いているよ。アメリカでは最も優れた生物学者らしいね。会議でもとても、どおどおと話していた。まさに、我が国家の誇りだ!」
「ありがとうございます。私もマイケルさんにまた会えてとても光栄です。
いますぐハグしたいほど。」
「ありがとう。さて、2人で話がしたいこととは何だね?まさか会議の休憩中、暇だったから私と雑談をするために呼んだなんてオチではないんだろ?」
「まさか、私がお呼びしたのはあの生物についての報告とそれを踏まえてのお願いをしに来ました。」
「お願い?私にか?いったい何を私に頼みたいのだね?」
「少しお待ちください、もう少しでノアールさんが来ると思いますので、全員揃ったら全てお話しします。」
「ノアール?聞いたことがある名だ。えっと...たしか...」
「私がお呼びしたのは、ノルウェー大統領の「ノアール・オース」です。」
「あー彼か。わかったしばらく待とう。」
2人はノアールが来るのを待ち3人揃うとジャックがあの生物のことや、ジャックが2人に頼みたかった願いを話した。
話が全て終わり3人が会議室に戻ると会議が再開されていた。
3人はそれぞれの代わりの者と交代して席に着きこれまでの大まかな話を聞いた後、会議に参加した。
基本会議にはそれぞれ国の代表が会場に居なくてはならないが短時間であれば抜けることが許可されていたので3人はとくに目立たなかった。
3人が会議に戻ったとき、ちょうど司会が話初めていた。
「それでは、現段階で決まったことをまとめます。
まず避難ですが、それぞれの国にある核シェルターやそれに近い外界と完全に遮断出来る場所。もしくは、あの生物が完全に活動を停止する気温である−20℃以下の寒い地域。
または、酸素濃度と気温がある一定の以下の標高の高い山などを避難所としてそこに避難させること。
そして、その避難に誘導させるためにあの生物に関して最低限の情報を提示すること。
以上2点です。
これからは、避難のためのマップ作りと避難方法
各地域の避難民の割り当てと情報の開示方法や内容の制作。
食料の確保と運搬です。
時間がありません、急ぎましょう。」
もう11時間以上会議をしていた。なのにまだまだ何も決まっていない、その理由は意見が全く合わないことと、今回のような前例が無く誰もリスクや負担を負えないからである。
そして、一番問題なのがどんな方法を選ぼうと必ず多くの犠牲が出ると言う事実を前に、各国の代表は自国を優先しようと考え適切な連携が取れていなかった。
人口の多い国、資源の多い国、土地が広い国
ただ、分かち合えば良いと言う話では無い。そんな事をしたら人類が滅んでしまう。それがこの11時間会議をして明らかになった事実である。
人類が7月6日にあの島で発見した生物は、いまも多くの生き物の命を奪いながら増え続けている。
そのため、シェルターなどの外界と遮断できる場所やあの生物の動きが鈍る環境(寒い土地や高い山など)に避難するのだが、ジャック達の研究結果から仮に、地上に食べる物が無くなっても最低1週間は生きている可能性が高いということが分かった。
1週間人類は、限られた時間で準備をして生き延びられるのか?
それだけでもかなり絶望的ではあるが、仮に生き残れたとしてもその後が大変である。
あの生物は植物や動物関係なく目の前の全ての生き物を食い尽くす。このままだと早くて1週間後には世界中に広がり地上の全ての生き物が食い尽くされてしまう。
仮に、避難して生き残ったとしても地上には無機物しかない言ってみれば何も無い砂漠に置いて行かれるようなものだ。
そんな状況で食料や空気中の酸素の確保をしないといけない。
そんな事実を知って協力しあえる国は少なかった。
まさに八方塞がり、新しい情報を得ればその度に人類の生存率は下がり続けていた。
ただ、何かをするなら早い方がいい。
だって今も何処かで犠牲が出ているかもしれない、情報もいつまで抑えられるか分からない。しかし、だからと言って何をすればいい?
会議室にいた人達は内心すでに諦めていた。
今更、何をしても誰も助からない。
ならいっそこのまま何も伝えなければいいのでは無いのだろうか?
死ぬ直前まで平和に生き死んだ方が幸せなのではないだろうか?
もし伝えれば生きようと逃げるだろう。その逃げている時も必ず、何人かは犠牲になる。
逃げれた人はいいとして逃げれなかった人達は?
いつ来るか分からない謎の生物と迫り来る死に怯えて最後を迎えなければならない。
逃げた人も食料が無くなれば餓死してしまう。
山の上やシェルターで食料の奪い合いや、人殺しだってありえる。
南極や北極では、暖の取れる場所に居られる保証はない。ならば凍死してしまう人も多く出て来る。
場合によれば、あの生物に喰われるよりずっと苦しい死に方をしないといけなくなるかもしれない。………でも!
会場の誰も情報の公開も避難の計画作りも辞めようとは言わなかった。
どんな時も全てにおいて可能性はゼロではない。
人類が生き残る可能性は残っている!
何故そんなこと言いきれるって?それは可能性を生み出す要素はいかなる時も存在するからだ。
会議室の誰もがそんな小さな奇跡を信じていた。それに、「何も知らずただ死ぬより。最後にやりたかったことをして死ぬ方がよくないか?」と会議中話していた人がいた。
その話を聞いて、せめてこのことを1人でも多くに人に伝えようという流れが出来た。
どうせ伝えるなら、助かる希望も一緒に伝えれば、少なくも暗闇に落ちずに済む。どんなに小さくてもその一筋の光を目指して生きられる。
生き方はそれぞれ自由に選べる時代だ。なら死に方もそれぞれ選べるようにしよう。そんな自分勝手な正義を会場中のほとんどの人が掲げていた時、彼らとは対称的にある「計画」を持った男達がいた。
その計画が後に、人類に新たな発見と希望そして、混乱を与えるのであった。
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