第9話 あぁ、神様
7月5日 午後15時 日本
「それでは、7月5日15時のニュースです。
7月3日の彗星の落下により、彗星の成分が海に溶け出し海が汚染されとても危険な状態にあるということが今日の昼頃、オーストラリアの調査によりわかりました。
汚染物質は海流により広がっている模様で、いまから言う国や海域では決して海に近づかないでください。」
そう言うと画面に危険区域に指定された地名が並んだ
「いま現在汚染されている、もしくは汚染される可能性のある場所は、カロリン諸島、パラオ、グアム、ミクロネシア、パプアニューギニア、ソロモン諸島、、、」
と、オセアニア周辺の国と地域が次々発表された。
「続きまして、世界地図をみながら今後汚染される可能性のある海の周辺の国々です。」
そう言うと画面が変わり、危険度の高い順に赤から青に色分けされ世界地図と海流を表す動く矢印が映され、その隣に国の名前が上げられていた。
「危険な順に、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、中国、韓国、日本、、」
と、発表されるとニュースをみていた人たちは不安になった。
いままで、何故か彗星に関する情報が全くなかったのに、今日急に海の汚染やら命の危険を知らされたのと、何より知らされた情報が少なくどんなに調べてもこれ以上の情報が見つからなかったからである。
「汚染物質は、濃度がまだ濃く今後どこまで広がるか、どんな被害が出るのかわかりません。
皆さん海辺や波の激しい場所、または、強風などで海水が巻き上げられる可能性のある場所に住んでいる方はすぐ避難してください。
また、そう言った場所には近づかないでください。繰り返します、、」
このニュースは、いろんな場所と方法で何度も報道された。このニュースが初めて報道された15時頃、新大阪大学では、オーストラリア人の「アント」がこのニュースを見て不安になり、急いで友達に電話をした。
「やぁアンディ、そっちの天気はどうだい?」
「最高に晴れてるぜ!なのにサーフィン禁止だってよマジ テン下だよなー」
「しかたないだろ、、彗星から何かでたんだから。ところで、そっちは大丈夫なのかい?」
「デージョブ、デージョブいつも通りうちの母さんは、朝食の目玉焼きを焦がすし妹達は洗面台を取り合ってたぜ。」
それを聞いてアントはホッとした。
「オーストラリアが平和でよかった。なぁアンディ絶対に海に入るなよ?」
「なにそれ?フリか?いまからサーフィンにでも行こうか?」
「お、おい!やめろよ入るなって言ったろ!」
「でも、俺はやるなと言われたらやりたくなる系男子だからなー」
「〜系ってなんだよ!古いよ、もう何周もしてみんな使い飽きてる言葉じゃないか」
「だってーテンポいいじゃーん」
「アンディはいつもそうだよ、一緒に学校に行ってたときも、、、、、」
と2人の話が盛り上がっていた頃、それぞれの国では情報を伝達し海辺の封鎖やカメラなどでの監視を始めた。
漁業組合や海産物を扱う場所へは、7月3日以降に採れた物を品質調査して安全を確かめてから市場にだした。
漁は全て禁止になり、魚は安全基準をクリアした魚と陸で養殖した魚だけに限定した。
陸での養殖はかつて、食料不足と海洋生物の減少をきっかけに2012年頃から研究が進められた。
地球温暖化による魚の生息地の移動、プランクトンの大量発生による赤潮などで取れる種類と量が減りそれにより値段が高騰していったからである。
日本でも2015年には、長野県で真鯛やマハタなどを低濃度の海水で養殖に成功。それから、研究が進み低濃度の海水で育つ野菜を作りだし、養殖池の上で野菜を育てるようになった。
こうする事で野菜が魚のフンなどを栄養にして野菜が育ち、水槽も汚れないと言う環境を作りだしたのだ。
食料不足と値段高騰、種の保存を目的としたこの陸上養殖は、いま海洋生物の絶滅と漁業関連の雇用消滅を防ぐ要となっていた。
そして7月5日現在、各国政府主体の海辺の監視、漁業の規制、徹底した品質調査、海と川との間の水門の閉鎖などにより微生物の人への被害は報告されていない。
7月6日 朝10時頃 パプアニューギニア近海の島
要警戒海域に指定されたこの海から3キロほど離れたところに1つの村があり、1人の4歳くらいの男の子が泣きながら村の道を歩いていた。
「マーマ〜」
その呼び声を聞いて家から母親が出て来た。
「ど〜したの、何かあった?」
泣いている息子を母親が見ると膝から血が出ていたので、何処かで転んだのだと思い母親は、子供のそばに行き息子の前にしゃがみ涙を拭きながら話しかけた。
「ど〜おしたの?どこで転んだの?」
そう言うと息子は泣きながらこう言った。
「転んでな〜い!痛いよ〜痛〜いマ〜マ〜!」
「転んでないって、膝から血が出てるじゃない?ほら、もう、男の子なんだからもう泣かないの。」
そう言って息子を自分の膝の上に触らせて頭を撫でながら慰めていた。
「マ〜マ〜痛い、痛いよ〜!助けてよ〜!」
あまりに泣くので「痛いの痛いの飛んでいけ」をしてあげようと思ったその時、母親はある異変に気づいた。
「ねぇ、傷大きくなってない?」
「マ〜マ〜、痛い、いだいよ〜」
子供の声も大きくなりだした。確かに傷が少し大きくなっている気がする。
「マ〜マ〜!マ〜マ〜!ゔ〜ゔ〜いだいだずげ〜ゔあ〜〜」
「ねぇ?何があったの何してたの?!ねぇ」
「ゔ〜ゔ〜いだい、いだい〜!」
子供の足からは大量の血が出続け膝の骨が見えていた。
「何よこれ!ねぇ誰か!あなた!ねぇあなたちょっと来て!!」
母親が我が子が謎の症状で膝が溶ける?みたいなことになり骨が見えた事に焦り自分の夫を大声で叫んでいた時だった。
「痛!なに?」
母親は足の痛みに気付き自分の足を見ると自分のスカートに血が染み付いていた。
一瞬、息子のだと思ったが違う。
「なんで?どうしてよ?痛い!え、どうして?なんで?」
「ゔあーーーいだーーーゔーーゔーーだずぇでーーー」
「痛いどうして?え、なんで痛い痛いーやだ!なんで?どうして?」
母親はパニックになっていた息子は足が溶けたように骨が出ていてそれが腰にまでたっしていた。
そして自分は、子供の座っていたあたりで激痛が広がり耐えられなくなり子供と一緒に仰向けに倒れ込んだ。
子供は全身をジタバタしながらさらに大きな声で騒いでいた。それを聞いて家から夫が出てくると慌てて二人に近づいた。
「おい、どうした何があった?あー!おい!どうして足が骨になってる!おい!何があった誰にされた?」
夫が慌てているのを見て「離れて〜、こっち来ないで!早く〜」と母親は言った。
「ゔー!ゔあーーーーーー!」
と子供は大きく叫ぶと動かなくなった。痛みを強く感じすぎ失神して隣でゴロンとなった子供を見て母親は、一気にいろんな感情が頭をめぐった。
怖い!痛い!苦しい!辛い!悲しい!どうして?何で?怖いよ!ねぇ私の息子は死だの?嫌!私の、私の唯一の息子!やっと産まれた!やっと喋った!やっと歩いたのに!なんで?怖い!怖いよお母さん!
母親は激痛と恐怖と、とても大きな悲しみを感じながら息子を見た。体の小さな息子は、胴体の半分以上はほとんどなくなり、中の内臓が出ていた。子供は最後暴れていて腸などが垂れ服から少しはみ出していたが顔だけはまだ綺麗だった。
母親は、涙を流しながら転がりながらもその顔を見た。
「あ〜、あ〜、涙が〜じゃま〜あ〜!」
息子のもとへなんとかいこうとしても痛みがそれを邪魔していた。
「ゔぅ〜あ〜、ガァガァア〜、ヒィ〜ヒィ〜」
叫ぶために息してる?それとも息苦しくてしてる?もうわからないそんな気分になり、頭が真っ白になった。そして消えゆく意識の中で、最後に言った言葉それは「ママ」だった。
人は極度の痛みを感じた時、精神を守ろうと大量のドーパミンを出しながら失神する。
息子も妻も死んでいない。しかし、いずれ死ぬ!2人が目の前で体が骨になりながら血を流して倒れている。夫は、その光景を見て腰を抜かし小刻みに震えながら泣いていた。
「ゔぁ!あぁーー!なんでだよどうしてだよ?誰だよ?俺達がぁ〜!お、俺達が何したっていうんだよ〜。神様〜神様どうかお救い下さい!」
2人の体がどんどん内臓と骨に変わっているのを見て男は朝食を吐いた。
気持ち悪さと恐怖で頭がおかしくなりそうなのを我慢して逃げようとした。
息子がなぜ、ああなったのかわ分からない。でも妻は息子に触っていたからああなりだした。体にも血にもその他の何にも触らずすぐ逃げないと自分がなる!そう思ったからだ。
勇気を振り絞り立ちあがろうと男が手や足を踏ん張った時である。
「痛!なんだ?」
足に痛みがはしった。慌てて足を見ると血が出ている。しかし、何にも触れていない。むしろまだ1mは離れている。
「なんでだ!ちくしょーーー!」
痛みを堪え、男は走った痛いのは左足、左足を引きずりながら走った。すると男の頭にさっきの光景がよみがえった。そして男は、顔を青ざめ少し考え周りを見回した。
「刃物、ノコギリでもいい、何か、何かないか?」
男は思い出したのだ。妻が足から順にああなっていったのを、ならこの足を切り落とせば助かるかもしれない。
普通の発想ではない、とっさに判断できることでもない。
しかし、そうしないと確実に2人のようになる。この発想と判断の速さは彼の何代も前から受け継がれた生き残る遺伝子の力、望まずして得た才能だった。
男は刃物を探すため周りを見回していてあることに気付いた。
周りにも血を出している人がいる、逃げている人がいる、死んでいる人がいる。
目の前で2人も家族を失い、次に自分の命の危険を感じて精一杯だったが、謎の現象に苦しめられているのは自分達だけではない、この村全体だ。
そう思った時、崩れ落ちるように男は四つん這いに倒れた、足がもうダメだった。
痛みが強すぎる。次に右腕が痛み右に倒れた。
横になるとまた、グロい物が見えたので仰向けになり空を見た。
「あぁー神様どうしてこんな事をするんです。私達が何かしたのですか?何かしたにしても、これは酷くないですか。こんなに痛くて、怖くて、苦しくて、ねぇ〜神様何が気に入らなかったのですか?」
そんなことを思いながら男は死んだ。
その後パプアニューギニアは、村からの連絡を受け取り、カメラで確認するとすぐ探査ロボットが現場に向かった。
同時に警報を出していたので村の近くに人は居なかったが一様確認して人が入らないようにバリケードをしいてから村に入った。
村に入った時多くのモニター係が驚いた。
中には気分を悪くしてモニター室を出た人もいた。
村の光景は、一言で言えば「地獄絵図」。
家や道、置き物などに血が付いていて、村は赤く、道には骨が人型だったりバラバラだったり、綺麗な骸骨があったり、かけている骸骨があったり、そこら辺に散らばっている服は血が付いていてベタベタに張り付いていた。
ロボットが道を歩くと道に付いた血がネチャネチャと音を立てていた。
ロボットなので匂いはわからないがとても生臭い異臭がしていそうだった。しかし、そんな環境なのにハエなどの虫は一匹もいなかった。
ロボットは、骨や服を専用の箱に入れ家や川、村に残っている物を隅々まで調べた。
最後に地質調査と、気体調査をして村の外に作った仮説除菌室でサンプルの入った専用の箱に付いているかもしれない菌などがいなくなるまで除菌してドローンで研究室に運んだ。
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