第8話 国際会議

7月4日13時


オーストラリアでは、海から持ち帰ったサンプルをオーストラリアだけで分析するのには時間がかかるのでアメリカ、イギリス、中国、ドイツにもサンプルを送った。オーストラリアは、サンプルの分析と並行して問題の目標に調査ロボを送り、海水や海底の調査を進めた。


当時、オーストラリアの科学者は調査隊のレポートを見て海水汚染か何らかの病気が海で広がっていると思っていた。

しかし、病気だとすれば魚や鳥が血を流しながら骨になる理由が思いつかず何らかの汚染が原因だろうと判断していた。


汚染の原因の最も有力な候補は、3日に落下した彗星の何処かに宇宙からもたらされた何らかの物質が魚や鳥を溶かしていたと言う仮説の線で調査が進められた。

これが人類が初めに出した第一仮説である。

しかし、この第一仮説はある発見ですぐに否定され人類は臨時の国際会議を開くことをよぎなくされた。

それは、人類の歴史の中で最も最大で最も最悪な発見だった。


7月5日朝7時頃


世界では異変が続いた。その一つがニュースである。

昨日まで彗星のことでもちきりだったがこの日から世界中何処も扱っていなかった。

ネットニュースなどの記事を探しても新しい情報は何処も更新していなかった。


同時刻


大阪の大学の特別研究室では、和也がネットニュースをみていた。


「次のニュースです。皆さんお待ちかねのあのロケット「GO Future4号」通称GF4号がついに最終段階に入りました。

GF号といえばそう!ついに人類の夢である宇宙旅行です!

いままでNASAが新規ビジネスとして筆頭になり、進めてきた宇宙旅行プロジェクト。

今日までに3回の打ち上げと調整を繰り返し、次回実際に一般の人や荷物を乗せて打ち上げられるそうです。これが成功すれば誰でも気軽に宇宙旅行できる未来はそうとうくありません。

なお、初旅行のチケットは公平性を保つため打ち上げの期間が決定された次の日アメリカのニューヨーク時間0:00分に開始された抽選で選ばれた30名が人類初宇宙旅行へ行けるそうです。

では、次のニュースです。」


「だって、アント行ってこいよ」


「行かないよ、第一初めて一般人乗せて飛ぶロケットなんかに乗りたくないよ」


「なんだ行かないのか、お土産に月の石か月の兎連れてきてもらおうと思ったのに」


と2人が話していると愛とメアリーが「朝食出来たから食べよー」と言うので朝食の盛り付けの手伝いに2人が向かった頃、大阪府新国会議事堂では、早朝に起こされ大まかな説明を朝食中に聞きいた総理大臣は食事を終えると急いでプロジェクターの並ぶ階へ行き第3バーチャル会議室に入った。


そこは、広さが4畳半ほどの空間に木製の演台みたいな四角い机と木製の椅子があり部屋全体は白い壁で覆われていた。


天井の中心には、直径10cmほどの半円形のプロジェクターが付いている。演台の正面の壁は、内側に少し湾曲していて壁の裏にはスピーカーを内臓させる事により壁自体をスピーカーとして機能させていた。

こうする事で、壁に穴を開けずに済むので壁をそのままモニターとして使えるのだ。


秘書と一緒に部屋に入いり椅子に座ったこの男は、いまの日本の総理大臣「内田 知敏(うちだ やすと)」という名前で総理を就任して2年目である。


「それでは、バーチャル室のスイッチを入れます。何かございましたら机の下のボタンを押してお呼びください。失礼します。」


そう言って秘書は一礼して部屋を出た。

しばらくすると部屋が真っ暗になり少しずつ明るくなりだすとそこには、多くの世界の首脳たちの集まる会議室が目の前に広がっていた。


会議室はとても大きくそして広い。会場のデザインは空間デザインAIやプロのデザイナーがデザインしてバーチャル化しており定期的に雰囲気が変わる。


今回のデザインは天井は高く、シャンデリアが空中に浮かんでいた。机はコの字型に置かれ全体の色は茶色とベージュと白を中心とした色使いでオシャレと豪華な作りとなっていた。

バーチャルなので、物理的要素を無視でき、部屋で一番大きなシャンデリアは実現できないような形をしていた。


「相変わらず豪華だ、そうは思わないかねMr.内田?」


会場の豪華さに驚かされていた内田に話しかけて来たのは、ドイツの首脳のアッシュだった。


「えぇ、私はこのデザインは初めてなんです。凄く豪華ですね、さすがフランスのデザイナーだ。」


「あぁそうだな、しかし豪華すぎるとは思わないかね?私は、もう少し落ち着いているほうが好きだよ」


今回の内田の両隣はドイツと中国だった。

会議室のデザインや人間の並びは毎回違っている。その理由は、みんな仲良くする為と平和と平等そして、特定の国同士の偏った関係を作らないためである。


「にしてもよく出来てますよね、まるで隣にいらっしゃるみたいだ。」


「ハハ、どんなにリアルでも私には触れられんよ、バーチャルなのだから。

君が触れられるのは、目の前の机と君自身だけだ。」


バーチャル会議室が普及して便利になったのは、移動が無くなったのと言葉の壁が無くなったことである。

いまでも、もちろん実際に会って話す事はあるが映像の進化により、実際に会っているのと変わらなくなった。

少し前まで、バーチャルの課題であった触れないという問題もバーチャル上のハグや握手を予め作っておいたそれぞれのハグや握手のCG映像を対談している相手の映像と合成できるようになり、それを現実と同等の扱いが出来るようになってから実際に会う頻度は減った。

このバーチャル空間では相手の言葉や文字もすぐ翻訳されるのでより仲を深めやすくなった。


内田が会議室に来てから、少しずつ人が増え話し声の数と大きさが大きくなっていった。

すると、少し部屋が暗くなりコの字型の空白の部分に急に一列机が並びその横に演台が現れ、そこに司会者が立っていた。


「みなさん、お静かにお願いします。」


司会の声を聞くとみんな話すのをやめ静かになり始めた。


「本日は、急な招集にもかかわらずお集まり頂きありがとうございます。今回は急を要しますので、全員集まっていませんが会議を始めさせていただきます。


今回は、先日北緯3度 東経147度に落下した彗星についてです。その海域にいち早く調査に向かったオーストラリアの代表にまずお話して頂きます。」


そう言うとさっき現れた机の列の真ん中の席にオーストラリアの代表のマックスが現れた。


「まず私は皆様に謝らなくてはいけません。勝手に彗星の調査に向かい申し訳ありませんでした。」


会議室全体では、マックスに対してのヤジや批判が飛び交っていたがそれをじっと耐えているマックスを見て司会が止めに入ったことにより静かになると、マックスが話し始めた。


「しかし、一番初めに調査ができた事でサンプルを持ち帰れました。これから発表するのは、あの海で見た現象とあそこで見つけた物です。それでは、海域調査チームのみなさんにかわります。」


そう言うとマックスが静かに消えて白衣の男女5人が席に座った状態で現れその中で一番若そうな男が立ち上がり話し始めた。


「皆さん初めまして、私はこの研究チームの代表「ジャック・ジョンソン」です。それでは早速ですが今回の彗星落下地点の海水のサンプルの検査結果を発表したいと思います。

まず、我々が立てていた当時の仮説は彗星から溶け出たなんらかの成分による海水の汚染、もしくはなんらかの病気のせいで海洋生物の多くが死んだものと考えていました。

しかし検査を進める上で我々がサンプルから発見したのは、この地球上にいなかった直径0.03㎜ほどの新型の多細胞微生物でした。」


そう言うとジャックは、スクリーンに実際の画像やその後の実験の風景を出しながら説明を続けた。


「まず、我々はこの生物に彗星の落下ポイントに生息しているのと同じ魚の1㎤の肉片を与えてみました。

すると、その生物は少しずつその肉片を食べ始め驚いた事にその肉片をたった30分でたいらげていました。

その様子を観察するとこの生物は、食べて分裂してを個体差はありますがありえない早さで繰り返していました。

海底探索ロボットで調べたところ昨日の時点ですでに、水深3000mまでの生物の存在を確認できずほとんどが食べられたと考えられます。


次に海水から淡水に変えた時、水中から出した時をそれぞれ観察しました。淡水では一部が死にましたがほとんどが生き残りました。

水中から出すと個体差はありますが最終的に全滅しました。

次は、何も与えず何日生きるかを調べましたが、これに関しては時間が足りず結果まちではありますが、弱り加減や既存の微生物と比べAIによって計算した結果、もって3日です。


次に酸やアルカリなどの毒となりえる物を与えて観察してみました。結果死ぬには死にましたがどれも平均数時間生きていました。


今回分かったのは、この生物の増殖の早さと異常なほどの生命力です。増殖には一定のエネルギーが必要と思われますがエネルギー源さえあれば無限に増え続けます。


以上の事を踏まえあの海の現象の原因は、この微生物であるということが我々の作った仮説その2です。以上です。」


アメリカの生物学者ジャック・ジョンソンを筆頭にイギリス、中国、ドイツで構成された海域調査チームの発表が終わると、すぐマイクが司会者に変わり話し始めた。


「調査チームのみなさんありがとうございました。今回首脳のみなさんには、これからこの新種の微生物をどう駆除するかや、他の原因は本当にないのかもしあればどう対処するかなど多くのことを話合い出来るだけ迅速に決め実行して頂きたいと思っております。


まずは、現在海流に乗って移動しているとみられるこの生物の駆除や拡散防止の方法、避難や警告をするかどうか、またする場合情報をどこまで公開するかなどをここで話し合って頂きます。」


ここまでの話を聞いて会場中の誰もが思ったこと、それは「何をどうしろと?」だった。


指示は一応受けた。ただ相手は肉眼で見れないほどの大きさ数は不明(おそらく数億以上)そんなのが地球の7割を占める海水の中にいる。

駆除?拡散防止?どうやって?

しかし、急がなくてはいけない。いまこうしている間にも増え海流に乗り世界中へと広がっている。

もし自分の大事な家族や恋人、友達が何も知らずに海水浴をしていたら?

次は、彼等があの魚のように浮かばなくてはならない。嫌だ!そんなの嫌だ!!なんとしてもそれだけは阻止してやる!!!

そんな思いで始まったのがこの第一回臨時国際会議。

ここなら話し合いも条件の設定もすぐ決められ行動できる。ここで決まった事それは、事実上人類の歴史上初の全ての国と地域参加の同盟を意味していた。


大きな絶望から始まったこの会議は、AIや科学者をまじえ14時間以上話し合い続けたが、ベストな答えは出ないままでいた。

会場全体の議論の進み具合と疲労を考え一時中断し会議は8時間後再会という事と現在決まっていることの実行を全体で承諾して解散した。


地域によるが起きている時間がまちまちで、一番長いところで20時間を超えていたのでいくら急いでいるとはいえ体の限界だった。


今回の会議で決定したのは、太平洋に接している国全てに水辺に近づくことを禁止。そして、それぞれの国が責任を持って国民を近づけないこと。

漁などの禁止と即帰還命令。一部の情報を国関係者もしくは、信用できる組織や団体で厳重に情報を管理することを条件に公開することの許可と地球規模での情報共有の徹底。

もし現在、地球上全ての国と地域が精一杯掻き集めても不完全なこの情報が一部でも漏れれば人類はたちまちパニックになる。

それを防ぐためのルールだった。


いまの時代、超情報社会と言われ情報の扱いが最も難しいとされている。人類にとって情報の価値は年々高くなり2173年のサイバー攻撃は2024年の比でなかった。

その理由は情報を隠す技術が上がれば盗む技術も上がるからである。


つまり永遠のイタチごっこが続いているからだ。

昔は情報を盗むのは一部のプロの仕事だった。しかしいまでは、専用AI一つで誰でも集めて売れる、一般人が小遣い目当てで国の情報を狙う時代。だから、どの国もプライベート衛生と独自のインターネットを待つのが主流になっていた。


それだけ情報に厳しい時代で今回のような大きな情報を隠すのはとても難しく、14時間かけて決めた今回の決定事項を実行するため、関係各所に共有するのにさらに5時間かかった。


会議は一度解散したが体の負担が少なかった東アジアの一部の国は残り警戒と情報の整理を続けた。

地球は、常に何処かが朝で何処かが夜である。つまりそれは必ず誰かが起きているということ、それを利用して常に会議室に何ヶ国かの代表がいて、何かあればその時の代表で対処出来れば対処してもらい、必要におおじて緊急招集で対処する。


そして、何か新しい情報が入るか、何もなくても週に一回の定期会議をすることが決まった。


会議がひと段落すると、各国の首脳は世界中では実行すると決めた事を進めていた。

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