第7話 被検体

大阪一大きな病院である新西日本総合病院に着いた2人は、タクシーを降りて病院に向かった。


ここは、日本一大きく新技術が集まる病院で全国の患者の最後の希望である。


昔と違いタクシー乗り場以外の駐車場の無い病院の外はとても広く、公園のようになっていて木や芝生が植えられてあり、その横には人が歩く道が伸びていた。


車椅子同士がゆったりすれ違える広さで全てバリアフリーで設計されそこを全自動AIアシスト付き車椅子や、AIアシスト付き義肢をつけている人が歩いていた。

車椅子は、認知症の患者や急に容体が悪化する可能性のある人には、基本看護師が押すことになっている。


自分の意識がしっかりしている人は、医者からの許可があればAIアシスト搭載型を使っている。

特に、最近の義肢はとても高性能で専用の帽子と義肢の付け根のセンサーが脳から出る筋肉の電気信号をキャッチして義肢をまるで本当の手足のように自由に動かせ、その動きや見た目もPO(ペッパー・オーダーメイド)の技術の応用で本物のようになっている。


そして、義肢や車椅子にはどちらにもデジタルとアナログの非常停止ボタンがあり、もしもの暴走にも対応できるようになっている。


2人は病院の中に入りタッチパネルに手首を近づけIDを読み込ませて受付を完了すると、タッチパネルの横にいた高さ1m程、縦横30センチくらいのロボットがいつもの診察室の前まで送ってくれた。


診察室に着くといつもの先生がちょうど歩いてきていた。


「おはようございます。そろそろや思てました。気分はどんなです?」


「いつも通りです。」


「そうですか、ほな今月も定期検診やりましょか。」


そう、先生はいつも通り笑顔で言うと愛は診察室には入り中にある更衣室で検査服に着替え、いつもの順で検査を受けていた。

和也もいつものように愛に付き添っていた。


この定期検診は2年前、和也達の作った新しいガン治療の経過検査で、愛はこの治療の人類初の被検体でこの検診に異常がなければこの治療法の実用が決定される大事な検診であった。


検診が終わると、和也は愛が着替えている間いつも通り自販機の前の椅子に座りコーヒーを飲んでいると、いつもの看護師がよってきた。


「あら、和也先生今月も付き添ってるんですねぇー相変わらずお熱いですねぇー」


「また来たのか?暇人看護師、仕事せんでいいのか?」


「いいのいいの、それよりどおしたの?下なんか向いちゃってー、先生らしくない!

何かあったの?」


「なんでもない!」


「そんな事ないでしょ?私いろんな患者さん見てきたから分かるの!

どーしたの?」


和也は、看護師に何度もなんでもないと言ったがこの看護師はいつもしつこく、結局話すことになった。


「毎月毎月、検査してここの医者たちや研究者は愛のことをただの被検体(モルモット)として見てるんだよ。それが愛に申し訳なくて辛いんだ、、

だから、もう検査なんてやめた方がいいのかなって思ってるんだ。」


「なるほどねぇー、なら本人に聞いてみたらどうですかー?」


「そんなことできるわけないだろ!」


「でも、そこまで愛さん来てますよー」


「え?」


和也が顔をあげると愛が向こうからこっちに向かって歩いていた。


「ねぇー2人とも何話してたの?」


愛が2人に聞いたが、和也は「いや、ただの雑談だよ」と濁していた。

それを見て看護師は和也の代わりに答えた。


「和也先生は、愛さんがー被検体みたいに扱われてるのが嫌ならしいですよ。ねぇー先生?」


「おい!」と和也が看護師に言うと、愛がすっと和也の隣に座った。


「ねぇー和也、私はそんな事思ってないよ?」


「そうなのか?」


2人が話を始めてすぐ看護師は小さく「ごゆっくり〜」と言っても静かに去っていった。


「私は和也が作った「AUS」すごいと思うよ

、だから私はいまもガンで困ってる人たちの為にも和也の為にも頑張りたいの!

それに、毎月タダで本格的な健康診断受けられるんだからラッキーでしょ?

だから気にしないで、心配してくれてありがとう。」


と愛はいつものように太陽のような笑顔を和也に見せた。

和也はそれを見てコーヒーを飲むふりをしながら照れ隠しをしながら、小さな声で「わかった。愛、いつもありがとう。」と言ったのを聞いて「うん!」と愛は答えた。


愛の笑顔はいつも和也を救っていた。和也は、昔とても暗い男でAUSを作っている時も、愛の優しさとその笑顔がなければ完成させれなかったと本人さえ思うほど愛は和也にとって太陽そのものであり、彼がどんなに心が暗くなろうが辛くなろうが、必ず愛が照らす。

和也という天才は、愛がいてようやく成立する天才だった。


「有真様、準備ができました。診療室に来てください。案内いたします。」


案内ロボットに呼び出され2人は診療室に向かった。

部屋に着き、中に入るといつも通り白衣を着た先生が椅子に座っていた。


「いや〜お疲れさん。今月も見たところ問題ありまへん。あ、言われた通りいつもの自己免責疾患の薬出しときますんで帰りいつもの薬局でもろてくださいねぇー」


「はい、分かりました。」


愛が答えると2人は部屋を出ていつも通り受付で手続きをした後、付属の薬局に寄り薬をもらって病院を出た。


愛は、AUSの副作用で自己免責疾患と言う病気を発症していた。そもそも、AUSとは何か?

AUSとは、和也達が作った新しいガンの治療法である。

名前の由来は、この治療法を開発した3人の日本人の名前の頭文字でAは「有真」Uは愛の旧姓の「植田」Sは愛と大学の同級生だった「篠崎」である。


この3人が作ったガン細胞を食べる微生物をAUSと名付けいま、愛の体で臨床試験を続けている。


この治療法は大きな手術をしない。初めにどんな方法でもいいので患者のガン細胞の一部と健康な細胞の一部を取り出すのと、それを餌にして味を覚えさせながら育てた微生物(AUS)を患者の体に注射すればほぼ終わりである。

あとは、その微生物が身体中に広がりガン細胞だけを食べてくれる。

ガン細胞を食べ尽くすと餓死して死骸は時間をかけて体から排出される。


しかし愛の場合、体内に残った微生物の死骸が体の細胞と結合してしまい免疫細胞が正常な細胞と死骸との区別がつかなくなり、体の細胞を攻撃してしまうということがあった。


愛の受けている定期検診では、ガン細胞を食い荒らした後の穴が完全に塞がるまでの時間や、それを早める薬やビタミンの特定と研究、

自己免疫疾患などの副作用の予防方法やガンの再発の有無など、ほかにも色々な項目を調べていた。


2人は病院を出るとバス停でバスを待っていた。

しばらくして、自動運転のバスが来て乗り込んだ。

タクシーと違い場所や時間が制限されるので使い勝手は悪い、だがバスの方がタクシーより安い、料金も区間ではなく、1回乗車賃を払うと降りるまでバスの走るルートのどのバス停で降りても値段が変わらないので長距離を移動するのにとても便利である。


2人はバスに乗り職場である新大阪大学へ向かった。


しばらくして、バスは新大阪大学前バス停につき2人はバスを降りた。

この大学は、元々は大阪大学だったが南海トラフの地震により壊れ、国会が大阪に来て大阪が首都になると言うことで、大阪大学も改築され新大阪大学として生まれ変わった。

それにより、新しい設備や最新技術の研究ができるようになり、いまでは世界中から生徒が集まってきている。


2人は、大学の門を通るとそのまま職場である特別生物研究所のある建物に向かった。

鉄筋コンクリートの2階建の建物で地下20メートルほどの深さに地下研究室がついている。


この新大阪大学が世界中の人々に注目されているのはこの建物が理由の一つである。

普段は、上の建物で研究の為の議論や寝泊まりなどができる生活スペースなどを使って過ごしているが、研究や実験をする時は必ず地下の研究室を使っている。

研究室が地下深くにある理由は、この研究施設は日本で3箇所しかないこの世界に居ない生物を作ってもいい場所の1つだからである。


地下に作ることにより、虫1匹出られない完全密封施設をつくりあげ、この研究室から出さない限り世界中の誰の許可もなく好きな生物を作り出す事ができる。

この中ならもし、生物兵器や感染ウイルスなどの危険生物を研究室内に広げてしまったとしても、最悪研究室ごと燃やしたり埋めてしまう事で外への影響を防ぐことができるからだ。

しかしそうなった時は、研究者当人たちも一緒に焼いたり埋めてしまうことになるため、この研究室を使う前に必ず同意書を書き誰もが命懸けで研究をしている。


2人は、入り口の自動ドアの横のモニターにIDを読み込ませ、自動ドアをあけ中に入り2階の「会議室」という名前の部屋に入った。


なかには、5人の研究仲間がいて、AUSを一緒に作った日本人の「篠崎 康太」(しのざき こうた)

アメリカ人の「メアリー・チャップ」

イギリス人の「フランシス・トール」

フランス人の「アリス・コレット」

オーストラリア人の「アント・リト」

が2人が来るのを待っていた。


彼らは、皆んなAUSを作った和也と一緒に研究がしたいと集まった学生や研究員である。


「やっと来たのかリーダー」


とフランシスが言うと「お待たせ」と和也は

言いながら自分の席に着いた。


「それで、今回は何を作るんですか?」

とメアリーが和也に聞いた。


「今回からは、前回作ったAUSの改良をしよあと思う。その為に今日は、みんなとこれからの研究の方針を考えたいんだ。みんな、どんな案でもいい1人でも多くの人々を一緒に救おう。」


和也がそう言うと和也を含めて7人の研究員は、今後の方針についていろいろ議論を深めていった。

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