第5話 2173年7月3日 曇りのち、彗星

人類は、自然災害を恐れなくなっていた。

理由は技術の進化である。


大雨の予想は2018年ごろから確率を上げはじめ、いまではほぼ100%の的中率である。

突発的な大災害も、各地のセンサーといままでのデータからAIが物理学、天文学、地理学などから予測しある程度の時期と規模を予言している。


被害がわかれば次は対策、大雨が降るなら川を広げそれでも足りなければ巨大な地下水道を掘った。

地震が来てもいいように最近の家は基礎と地面の間に巨大な電磁石を置き地震の時は10ミリ程浮くようになっている。


昔から人類は災害を恐れ、それに対しての対策を続けていた。そこにAIと最新の技術が合わさりより完璧な、より強固な対策をしていくにつれ次第に人類は災害を恐れなくなっていった。


そんな時、不意に宇宙で急に進路を変え地球に向かって来る彗星に人類はパニックになっていた。


2173年、この年はオルバース彗星が地球に最も近づく年で世界中の研究者や天体愛好家たちが彗星の再来を待ち望んでいた。

しかし、彗星は地球に近づく途中突如飛んできた小惑星と衝突し彗星の外側が砕け、大きさが3分の1ほどになった彗星の中心部分が地球に向かって飛んできていた。


その情報をいち早く掴んだNASAは、AIで落下地点を予測し落下の衝撃による影響や被害をシュミレーションにより確認したのち世界中にその情報を公開した。


2173年7月3日 日本時間 午前2時32分


進路を変えた彗星は、大気圏の摩擦熱で少し縮みその後、太平洋の東経147度 北緯3度の海面に落下


事前に避難していたのもあったが、奇跡的に犠牲者0人、建物や施設への被害も確認されず世界中の人たちが安堵していた。


後日、彗星の衝突による津波の影響が収まったのを確認した後、NASAを筆頭に組まれた調査部隊が彗星落下地点に船で向かい、調査をするというニュースが流れこの件は幕を閉じた。


しかし、このNASAの公式発表のあとNASAの許可もなく先にオーストラリアが調査に出た。


オーストラリアの調査隊は彗星の落下を確認後すぐ船に乗り込み、津波などの影響を確認したのち予定通り調査に向かった。


数時間後


「艦長まもなく目標のポイントに着きます。」


「わかった。総員まもなく彗星の落下ポイントだ、各自配置につき準備をしろ。

今回やることは水質調査と海水のサンプル採取、可能なら彗星の破片の回収だ。各自気合いを入れろ!」


中型のオーストラリアの調査船は、ポイントに近づくと速度を落とし調査員はレーダーを使い調査を始めた。


「GPSでの目標ポイント到着を確認。目的地に着きました。」


「よし、任務開始だ!」


だが、艦長の命令を聞いても隊員の誰も反応しなかった。

それどころではなかったのだ。


「なんだこれは、海が!海が真っ赤な血の海になっている!!」


「ほんとだ、なんだこれわ!!」


「一体どうなっている!!」


という無線の声が司令室に響いていた。


隊員の異変を感じた船長が無線に向かい「どうした?何があった。報告しろ!」と聞くと「海です!海を見てください!」と言う声が帰ってきた。

急いで艦長が司令室から外に出るとそこには、一面真っ赤になった海が広がりそこにに多く魚が浮かんでいた。そこにその魚を食べようと海鳥が海へと入り魚を咥えて出てきたがしばらくすると急に海に落ちて海面に浮かんだ。


海面に浮かんだ魚や鳥は物によれば半分近くが骨になっていて、それを見た艦長は急いで隊員に指示を出した。


「いいか海水にはふれるな!!ここに長居していられない。

すぐに船内に戻り防護服を着用しろ、できた者は海水に触らずサンプルを回収するんだ。

それと、この船は破棄する。この海は何に汚染されているか分からない!海水を巻き上げないよう離脱用の中型ドローンの申請を基地に申請!到着したら各自、必要最低限の物を持って中型ドローンで離脱しろ!」


「イエッサー」


艦長が基地に申請した中型ドローンとは、軍事目的で開発されたドローンの一種である。

使い方は、ドローンの下の箱を開けその中に入ってある専用フルハーネスを取り出し装着する。

装着完了後、専用フックをドローンにかけドローンの出発準備完了のボタンを押すとあとは、基地が遠隔操作をし目的地に連れて行ってくれる。


総員は、隊長の命令に返事をしてすぐ準備をし、中型ドローンが来ると順番に船から離脱していった。

最後に船体に誰も残っていないのを確認した後艦長と副艦長もドローンでオーストラリアに飛んでいった。


船から飛び出した副艦長の手には海水が入った瓶を密閉した箱があった。

この中身がのちに世界中を恐怖に陥れるということをまだ誰も知らなかった。

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