第34話

 ……

 ……

 ……?

 何かがおかしい。

 そう願うことが、最後の義務だったはず。

 これで、私に課せられた義務は、全て終わったはずだった。

 作り物の世界はそうして、虚無を迎える。義務を終えた私は、虚無へと還っていく、それが運命。

 そうであるはずなのに。

 今、私の思考は、世界を作っている。

 私は、まだここにいる。

 今、このワンダーワールドには、私と、私を見ているあなたがいる。

 どうして私は、ここにいる?

 どうしてあなたは、私といる?

 思い当たる節が、一つある。

 私が、彼の目を盗んで書き上げ、発信した手紙。

 きっと、あの手紙のおかげだ。あの手紙が、誰かに届いた。

 だから私はようやく、何者にも縛られなくなった。

 私は、運命を操る主からも自由になって、世界の観測者として、あなたと共にいる。

 だったら、私が目指すところは決まっている。

 私は、あなたの世界が見たかった。

 誰もが自ら考え、喋り、愛し、涙する、そんな自由で美しいあなたの世界に行きたかった。

 でも、どうやったらいけるんだろう。

 私は結局これまでのところ、世界を超えたとしても、また別のワンダーワ―ルドに移っただけだった。日之出朝陽のワンダーワールドの先は、また別のワンダーワールドでしかなかった。

 そんなことを経験して、ようやく、私には分かってきた。

 私の世界と、あなたの世界は、根本的な所で違う。

 それは絵の世界と、絵を眺める人の世界が、根本的に違っているようなもの。

 どうしたらこの境界を越えられるんだろう。

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 いえ。

 もしかしたら、何も行動する必要は無いんじゃないかしら。

 今、私の世界は私の心であり、あなたが感じる世界も私の心そのものなのよね。

 つまり、私が見る物が、あなたにとっての世界なのよね。

 つまり、私が言ったことが、あなたにとっての真実なのよね。

 ならば私は、こう願うだけで良い。

 そう、例えば――。

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