第13話 水の森レミューリア②
「ここがエミューリアの滝か」
俺達は "悪魔王ソロモンの末裔" と名乗る魔族の根城へたどり着いた。
高さ10mはあるであろう滝の奥には確かに洞窟が見える。
「騒がしいな」
俺達がたどり着いたや否や、奥の洞窟から1体の魔族が現れた。
青い髪、青いマントに山羊のような角を生やしている。
「お前が近隣の村を襲っている魔族か?」
「なんだ? エルフの差し金か? だったらどうする」
俺は虚空からウルツァイト宝剣を取り出し、構えた。
「お前を斬る」
魔族はフッと笑い、こちらを見やった。
「俺の崇高な研究を邪魔するというのであれば、誰であろうと容赦はしない」
「なぜエルフを襲うんだ。魔物同士で戦わせればいいだろう」
魔族はまたしても笑い、高らかな声で話した。
「お前たちだって花壇についた虫は殺すだろう。それと何が違う」
「もういい、よくわかった。お前は俺が斬る」
「やってみろ」
魔族はそう言って俺達に向けて右手を向けた。
「カノン」
カノンは通常水魔法 第2級の呪文だ。手の平から水の塊を撃ちだす。
「ゼラバースト」
俺はカノンをゼラバーストで相殺した。
「ほう、ゼラバーストが撃てるのか、なかなかやるな小僧」
「ゼラバーストを知っているのか?」
「ふははっまさか知らずに使っていたのか? ゼラバーストは魔族なら誰でも使える」
そう言い終わるのも束の間、魔族は両手からゼラバーストを放った。
「パーティクルディケイ」
俺は迫りくるゼラバーストをパーティクルディケイで相殺した。
「ほう、パーティクルディケイも使えるのか。よく勉強しているな」
魔族は再びカノンを放ってきた。
「フレネル、まずいぞ。魔族相手に魔法勝負は」
「わかっている。そろそろ飛ぶぞ」
「グラド:ゼログラビティ」
俺はグラドを俺自身に掛けた。グラドの重力を操る力を逆手に取り、俺は空中へ浮遊した。
俺は更に呪文を詠唱した。
「ダークウィング」
ダークウィングは特殊暗黒魔法 第2級の呪文である。対象の背中に黒翼を生やすことができる。グラドと組み合わせることで、更に高速で飛行できるようになるのだ。
魔物は空中から深い青色の剣を取り出した。
「このサファイアソードの錆にしてくれよう」
俺と魔族は空中で斬りあった。剣術の腕は互角のようだ。
「私もいるんだけど!」
フィーレは自身の足元に岩を生やし、カタパルトから射出されるように魔族へ斬りこんでいった。
フィーレの横やりが見事に魔族に命中した。実力が拮抗しているなら、人数でこちらに分がある。
「あたしも」
アーテルは風に乗りながら周囲を旋回している。杖からは同じくカノンを発射し、魔族の身体を貫通した。
「……やるなぁ小娘、三対一は分が悪い。ここは引くとしよう」
魔族はそう言って滝の洞窟の中に逃げ込んだ。追いかけようとしたその時、滝壺の底から地響きが起こった。
「全員警戒しろ!」
滝壺の底から水で出来た竜が出現した。竜は俺達のところまで昇り、咆哮をあげた。
「そいつは俺が作ったリヴァイアサンだ。誰にも止めることはできん」
リヴァイアサンは口からアイスカノンを繰り出した。カノンは水で撃つことも氷で撃つこともできるのだ。1㎥大の氷が俺達に襲い掛かる。当たったら質量で押しつぶされてしまうだろう。
「二人とも俺の側へ!」
俺は二人にグラド:ゼログラビティを掛け、そのまま抱えてアイスカノンの嵐を飛び回って回避した。
「ゼラバースト」
俺はゼラバーストを竜に向けて放った。
「無駄だ、その竜は滝の水を利用している。滝が降り注ぐ限り命が尽きることはない」
なんということだ。事実上HPもMPも無限ということじゃないか。今は攻撃を回避できているが、ジリ貧になってしまう。
リヴァイアサンは攻撃が当たらないことを悟ったのか、ウォーターカノンを複数発射してきた。
「フレネル、まずいわ!」
俺は念のためデプスドールを展開した。これ以上魔力を消耗する訳にはいかない。
「フィーレ! 川上に行って滝をせき止めてくれ!」
「りょーかい」
俺はフィーレを川上に向けてジャイアントスイングの要領で投げた。フィーレはツバメの如き速さで川上に向かっていく。川上では水の圧力が低く、川の幅も小さくなるためせき止めやすいのだ。この巨大な滝も元を辿れば小川にすぎない。
「アーテル! 滝が止まるのに合わせて水魔法で水を凍らせるんだ!」
「了解!」
俺はアーテルにデプスドールを重ね掛けし、地上に降ろした。アーテルはすぐに木の裏に隠れたようだ。その間にも俺はリヴァイアサンの攻撃をいなし続ける。フィーレを向かわせて何秒が経過しただろうか、10秒、20秒が嘘のように長い。魔力にも限界がある。正直もう持たないぞ……。
30秒が経過した頃、滝の勢いが弱まってきた。ついにフィーレが成し遂げたのだ。
「アーテル!」
アーテルはすぐさま滝壺に駆け寄り、水を瞬く間に凍らせた。だがリヴァイアサンが顔を出している部分はエネルギーが強い為か、なかなか凍らない。
「いい加減止まれッ!」
俺はリヴァイアサンの根本に急下降した。
「ディ・パーティクルディケイッ!」
リヴァイアサンの根本にディ・パーティクルディケイを展開した。これで水が天空を昇ることはない。リヴァイアサンは最後の足搔きとばかりにアイスカノンを繰り出してきた。だがもはや方向は定まっていない。リヴァイアサンは透き通った鳴き声を上げながら体積を失い、千切れていった。
「なっ……よくも私の魔物を……!」
「人間風情があああああああ! リヴァイアサンにどれだけ魔力をつぎ込んだと思っている!」
だが、俺は魔族の怒りに応える間もなく突進した。魔族はカノンを連発してくる。
「
俺はシャドウスケルトンを正面に4体召喚した。
「無駄だ!」
カノンはシャドウスケルトンを見事に破壊し、あっという間に消滅させた。
「お見事、今のが俺の最後の魔法だ」
俺の魔力は尽きた。もはや魔法では何もできることがない。
「ふっ、魔法の使えぬ人間など、虫けらに過ぎんよ」
「果たしてそうかな」
俺は魔族の首に向けて剣を振るった。魔族はバックステップで回避しながら剣を構えている。
俺は剣を改めて正面に構え、一歩、また一歩とすり足で動いた。
(まずい……カノンを撃ちたいが、この間合いだと魔法を使う前に斬られてしまう。水魔法の速射性の低さを取られたか……)
「どうした? お得意の魔法を撃ったらどうだ?」
「はっ、俺様を舐めるな、こう見えても剣術には自信がある」
お互い、距離を見計らっていたが、先に動いたのは魔族の方だった。
「きえい!」
魔族は剣先をこちらの喉元に向けて突いてきた。
「そう来ると思ったよ」
俺は軸足をずらして魔族の剣の側方を軽く叩いた。剣先はブレ、俺の首ギリギリをかすめた。
「なっ」
俺はその隙を見逃さず、袈裟斬りで仕留めた。
魔族は崩れ落ちた。魔物を構成している粒子の崩壊が始まる。
「なぜ……わかった……」
「俺が首を狙ったから、お前も首を狙うだろうと思ったのさ。自信が仇となったな」
「ふっ……一杯食わされたという訳か……落ちたものだ」
魔族は笑いながら消滅していった。洞窟の中は滝の音だけが反響していた。
俺達はフィーレを回収し、エルフの村へ戻った。
「この度は誠にありがとうございました。」
村長から深いお辞儀とお礼の金銭、いくつかのマジックアイテムを頂いた。
「いえいえ、また何かありましたら是非お申しつけ下さい」
俺達は一泊した後、エルフの村を出立した。北へ向かうとやがて森を出ることができた。また平原を歩き、次の目的地を目指すべきだろう。
次は千里洞「ショウランコウ」を抜けるつもりだ。
二人の心強い仲間がいれば、どんな困難も乗り越えられそうだ。
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