第6話 ライブラリダンジョン
「じゃあ、いよいよ潜るぞ」
数あるアプレンティス金等級のクエストの中から、俺達はライブラリダンジョンに挑戦することにした。
ライブラリダンジョンは科学文明時代の図書館がダンジョン化したものだ。今回攻略するダンジョンは1層構造だが、広さはまあまああり、面積は1000平方メートル程度あるらしい。ただ真っすぐ進むだけなら攻略はたやすいが、高さ3mはある本棚が縦横無尽に配置され、迷路のようになっている。天球儀を探すのは容易ではないだろう。
俺達は冒険者IDカードを無人の受付へかざし、入館した。
隊列は俺を先頭に、中央にアーテル、最後尾の警戒をフィーレが務めている。
「ライブラリダンジョンは魔法を使う魔物が出てくるから、油断しないでね」
アーテルは冷静に振舞おうとしているようだが、言葉の節々から緊張を感じる。
「今回の攻略のカギはアーテルの防御魔法だ。状況に応じて俺かフィーレに掛けて守ってくれ、攻撃は考えなくていい」
「フィーレ、前の警戒はいい。後ろだけ見ててくれ」
「おっけー、確かにこの迷路だと後ろから襲われる可能性もあるな」
俺達は本棚の道を右へ左へ行ったり来たりしながら、天球儀を探した。
「迷路を攻略するいい方法があるんだ。」
俺は今後のことも考えて二人に迷路の攻略をレクチャーすることにした。
「なんだ?」
「左手を壁につけて、離さずに進むんだ。そうすれば端にゴールがあるタイプの迷路ならクリアできる」
「へぇー、簡単じゃん。でも壁にゴールがない場合はどうするの? 例えば
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こういう迷路だったら?」
「ああ、ゴールが中央にある場合は、分かれ道で違う道に行けばいいのさ」
「つまり分かれ道があったら進んだ方向に矢印を書いておいて、次来た時は別の方向に向かえばいい」
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「なるほどねぇー、だからさっきから地面にマーキングしてたのね」
「……フィーレ、ギルドから貰った教本読んでないでしょ」
アーテルが突っ込みを入れた。やはり勉強熱心な子だ。
「ただし、この方法は迷路の道中に落とし穴がある場合は使えない。その時は落とし穴を飛び越えるか全ての道を通るしかないかもな」
俺達は会話に花を咲かせながら図書館の中央付近まで来た。
しかしおかしい、先ほどから魔物の気配が全くしない。
「妙だな……ここまで魔物に一切遭遇しないぞ……」
「あたしもう後ろ歩き疲れたんだけど……」
「ああ、なら先頭と代わろう。次はフィーレが……」
先頭を務めてくれ。そう言いかけたその時だった。
「フィーレ!」
突然、後ろ側からローブを着込んだスケルトンが襲い掛かってきた。ウィンデッド・ウィザードと呼ばれる魔物だ。彼らは通常属性魔法6級から5級程度の魔法を操るという。後ろから襲い掛かってきた魔物は。手の平からフレアを発射した。
フレアは通常火炎魔法6級の攻撃だ。
「アクアシールド!」
アーテルがすかさずアクアシールドで相殺し、次弾を撃たせる間もなくフィーレは突撃してウィンデッド・ウィザードを撃破した。
「フレネル!」
アーテルに言われ、再び正面に集中すると、ウィンデッド・ウィザード4体が俺の目の前に迫ってきていた。後ろの1体は陽動か。
ウィンデッド・ウィザードはブラストを放った。
「アーテル!」
「人使い荒いわね!」
再びアーテルにアクアシールドを掛けて貰った。風魔法で水の盾を突破するのはかなり難しい。風は空気がないと吹くことができないからだ。
「やっぱり魔物だな。通路で一斉に襲い掛かっても、意味ないんだよ」
俺はミドルキックで先頭のウィンデッド・ウィザードを蹴り飛ばした。一列に並んだウィンデッド・ウィザードはバタバタと倒れて動けなくなった。
まるで将棋倒しだな。
4体のウィンデッド・ウィザードの心臓を踏みつけ、撃滅に成功。
その後もウィンデッド・ウィザードの奇襲を退けつつ、俺達は前進した。
「あ、魔導書だ。」
ライブラリダンジョンの本棚にある本はほとんどが偽物で、何も書かれていない本ばかりだが、稀に魔導書が出現することもある。ルートから少し外れるが、俺達は魔導書のある棚まで慎重に進むことにした。
「やった、魔導書ゲット!」
普段冷静なアーテルも、魔導書を入手した瞬間は喜びに満ちた表情をしている。
なんだかんだ年端もいかない少女なのだ。
アーテルが魔導書を手にした瞬間、突然遠くの本棚が倒れ始めた。
バタン、バタン、バタン、本棚が一つずつ倒れていく。まるでドミノを倒すように。
「まずいな……アーテル、フィーレ、走れ!」
「ちょっと、どうしたんだよ!?」
「いいから、さっきの十字路まで戻るんだ!」
俺達は無我夢中で十字路まで戻った。その間も本棚は倒れ続け、そして先ほど魔導書を入手した場所は……
「さっきいた場所も倒れてやがる……」
「危ないところだったね……」
「まさか本棚が倒れてくるとはな……魔導書を取るのが発動条件だったんだろう」
「十字路なら仮に本棚が全て倒れても、中央なら安全だ。」
咄嗟に思いついたとはいえ、我ながらよく判断できたものだ。
しかしトラップはまだ終わりではなかった。舞い散った埃が視界から薄れてきた時、俺達は目を覆いたくなる現実に遭遇した。
「……囲まれたな」
全方位にウィンデッド・ウィザード10数体。更に上位種のノクターンも3体いる。
ウィンデッド・ウィザードの群れは間髪いれずに魔法を撃ってきた。
「アーテルッ!」
「はいはい」
フレアとブラストはアーテルのアクアシールドで防いだ。
だが、通常土魔法 第6級のランチャーは石を飛ばす魔法だ。これはアクアシールドでは防ぎきれない。
「やむを得ないか。」
あまり使いたくなかったが、暗黒防御魔法を使う時が来た。
「暗黒防御魔法 第4級 デプスドール」
俺は暗黒防御魔法 第4級 ディ・デプスドールを唱えた。
3人の頭上に3体の赤子の人形が出現した。赤子と3人の背中は青白く光ったチューブで接続されている。
デプスドールは受けた傷を人形に肩代わりさせる魔法だ。だがあくまで物理的な傷を肩代わりするだけで、痛み、死の恐怖は本人が受けることになる。全く、実に悪趣味な魔法だ。痛みを伴う防御魔法など聞いたことがない。
俺はランチャーをもろに喰らってしまった。
「痛ってえ」
思わず声が出た。人形に亀裂が入った。
「フィーレ、ランチャーを撃つ個体を優先して破壊しろ!」
「りょーかい、アーテル、アクアシールド頂戴」
「言われなくても」
フィーレはアクアシールドとデプスドールを纏い、敵陣に斬りこんだ。俺は反対サイドのウィンデッド・ウィザードに向けてジルバレットを放つ。
結局フィーレは近くの個体から倒していくようだ。その代償か、フィーレにランチャーが一発当たってしまった。
「ぐふぅぅ……思ったより痛ぇ……なんでも防いでくれるのは便利だけどよぉ、これほんとに防御魔法なのかよ。拷問魔法の間違いなんじゃねぇの?」
……恐らく、この魔法を作った部族はそのつもりで作成したのだろう。だがベックマンは防御に使えると判断した。切れ者だが悪趣味な奴だ。
だがフィーレは悪態を突きつつも、持ち前の精神力ですぐに動き出し、前方のウィンデッド・ウィザードを全て撃退した。そして俺もほぼ同時に、後方のウィンデッド・ウィザード全員の眉間にジルバレットを撃ち込んだ。日々の射撃訓練の成果が出たようだ。
ウィンデッド・ウィザードの群れが消滅したのを確認したノクターンは、
ここからが本番とばかりに赤い眼を光らせている。ノクターンはウィンデッド・ウィザードより色の濃いローブを着ており、杖も装備している。通常魔法の第4級や第3級を使用してくるらしい。
「ぐぎゃるぎゃおらあぁああああ」
フィーレの方に1体、俺の方に2体いるノクターンは、悲痛な叫び声を上げながら同時に魔法を放った。各個体、通常火炎魔法のヘルゾークだ。
「まずい、フィーレ! 下がれ!」
ヘルゾークは指向性が強く、高威力な魔法だ。アクアシールドでは防ぎきれない。
「ちぃっ……避けれない……!」
ヘルゾークはフィーレを纏っているアクアシールドを貫通し、デプスドールを黒焦げにした。
「がっはっ……あ…………」
フィーレは茫然としている。全身を火傷する痛みが襲い掛かっているのだ。
クソッ、こんな訳のわからない防御魔法しか使えない己が憎い。
「その技はもう見切ってんだよ!」
俺はグラドを唱え、ヘルゾークを打ち消した。フィーレとは背中合わせ故にかばいきれない。次の攻撃が来てしまうぞ。
ノクターンは再び金切声を上げ、ヘルゾークの種火を準備している。
「全く……ほんとしょうがないわね……ハウリングストーム!」
その時、アーテルが右手の杖から通常風魔法 第3級 ハウリングストームを天井に向けて詠唱した。火に風魔法はご法度だ! 下手をすれば火災旋風を起こしてしまう。
「なんのつもりだ!」
「ツーホルダーを舐めないで」
「クリスタルミスト!」
アーテルは左手の魔導書からクリスタルミストを放出した。
「クリスタルミストだと……?」
クリスタルミストは特殊水魔法 第6級の呪文だ。効果は確か──空気中を湿らせる……だったか? 戦闘ではあまり役に立たない呪文のはずだが。
「見せてあげるわ。奇跡の魔法を」
アーテルがハウリングストームの出力を上げると、大気中の水蒸気が吹きすさぶ嵐に巻き込まれていく。それに伴い、周囲の気温は低下、みるみるうちに水蒸気は凝結し、一つの塊となった。
「これは……雨雲か!」
「その通り、水と風は融合し、やがて雲となる。」
「魔法名はないけど、強いて言えば」
「ネビュラスコール!」
アーテルの合図で天井の雨雲は一斉に大粒の雨を降らせた。瞬く間に周囲はずぶ濡れになり、ヘルゾークの種火は消えてしまった。
「フィーレ! 起きろ!」
「ん……ああ、ちょっと喰らってたか」
どうやら雨が火傷の痛みを癒してくれたようだ。
俺とフィーレは獲物抜き、ノクターンまで距離を詰めた。
俺達は魔法が使えない魔法使いを、一撃で葬り去った。
視界が開けた甲斐あって、バルコニーに天球儀が置いてあったのも確認済みだ。
俺達はフィーレを両肩から支え、天球儀に大鎌を突き刺した。
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