第5話 三人パーティー

ダンジョンを攻略した俺達は、公共馬車でギルドまで帰ることにした。

行きの明るさは完全に無くなり、誰も口を開かないまま30分が経過した。

だが沈黙に耐えかねたのか、アーテルが再び口火を切った。

「……魔法、使えんじゃん」

「あんたがもっと早く魔法を使っていれば、二人は助かったんじゃないの」

俺は返す言葉もなかった。

「アーテル……だったっけ? それは結果論だぜ」

フィーレが少し口を尖らせて返す。

「最初にフレネルが戦ってライオンの方を倒していたら、死んでいたのはフレネルの方だったかもしれない。そうなったらパーティは全滅していたかもしれないんだぜ」

「でもあんなに強いんだったらうまくやれば二人も助けられたかもしれないじゃん!」

アーテルは引き下がらないようだ。

「アーテル、強い人ならこうすべきって考えはその人の判断や責任を奪う行為だと思う。それを言うならアーテルはガリューンさんにアクアシールドを掛けるなり、もっと強力な魔法を放つなりするべきだっただろ」

「でもそれは!」

「ダリスさんがやられて頭が真っ白になったんだよな、私もそうだったからわかるぜ。」

「でもよ、もしフレネルがいなかったら、私達も生きていなかったかもしれない。少なくとも精一杯戦ったフレネルに対して私達が責め句を言うのは違うと思うんだ」

「……」

アーテルは黙り込んでしまった。

「私達はあの魔物をドウクツライオンと認識していた。だが実際はキマイラだったんだ。これは私達の判断ミスだ。ダンジョンでの判断ミスは簡単に命を奪うってことなんだよ……」

アーテルはまだ不満そうな顔をしている。

俺も身の振り方を少し考える必要があるかもしれない。

今回の事故は、俺の強さが信頼されていなかったから発生したところもある。何か暗黒魔法を見せずに強さを証明する方法はないだろうか……

「フレネル、質問していい?」

フィーレはこちらに向き直って改まった顔をしている。

「……答えられる範囲でなら」

「どうして魔法が使えることを隠していたの?」

答えに迷う質問だ。無属性とは言ったが魔法が使えないとは言っていない……なんて言葉遊びをしても意味はないか……。

「あれは……魔族の魔法だ。」

二人の顔が引きつった。

「それってつまり、フレネルは魔族ってこと?」

アーテルが距離を取った。

「いや……俺は人間だ。だが黒髪の特異体質とも言うべきか、四属性魔法の代わりに暗黒魔法に適正があったんだ」

「あー、だから無属性ね」

フィーレは腰を上げるつもりはないらしい。

「そうだ、今のアーテルの反応のように、人に知られるといろいろと面倒なことになる。最悪レジェンド級冒険者が俺を討伐に来るかもしれない」

三人の間に再び沈黙が蘇った。

「なるほどね」

次に口火を切ったのはフィーレだった。

「そりゃ、簡単に見せたくないわけだわ。自分の命に関わることだし」


「それで、フレネルの目標ってなんなの?」

「……親父に会うことかな」

馬車の隙間から冷たい風が入り込んできた。まるで今の俺の心情を表しているようだ。

「どうやら俺の親父は魔王に関係する人物だったらしい。俺が黒髪なのも、暗黒魔法に適正があったのもそれが原因だろうし、俺が何者なのか知りたいんだ」

「なるほどね……それじゃ、レジェンド級冒険者になって、魔王城への遠征を目指してる訳だ」

俺は頷いた。

「でも大丈夫? 魔法を隠しながらレジェンド級冒険者になるなんて、相当厳しい道のりでしょ」

「俺はソロで冒険できる力があるから大丈夫だ。それにレジェンド級冒険者の資格は人数問わずドラゴンを討伐することだろう」

「まさか、一人でドラゴンを討伐するつもりなの!?」

アーテルは金切り声を上げた。

「できるさ、その為にギルドに入ったんだ。」

二人の少女は呆気に取られていた。単独でドラゴンを討伐した冒険者など歴史上誰もいないだろう。

「……あんたならできるかもね」

「ありがとう。頑張るよ」

フィーレはにこやかに笑って、予想外の言葉を発した。

「いいや、あたしも一緒にやる。あたしもレジェンド級冒険者目指してるから」

驚いた。諸々の事情を聞いてついてくる決断をするのか。

「どうして、一緒にやりたいと思ったんだ?」

フィーレは単純な答えを発した。

「別にソロで冒険しなくても、事情を知っている私がパートナーになれば心強いでしょ。どうせ私も誰かしらと組まなきゃだし」

確かに俺1人ではあの大蛇を倒すことはできなかった。そもそも戦力は多い方がいいだろう。だが、まずは彼女のことを知る必要がある。

「レジェンド級冒険者を目指している理由は?」

「単純に金だよ。おいしいものたくさん食べたいからね」

金だけでレジェンド級冒険者を目指すモチベーションになり得るのか?

本当の理由は分からないが、一応納得しておこう。

「アーテル、あんたもさっきからごちゃごちゃ言ってたけど、あんたはどうするの? うちに入る?」

「……勘弁してよ、魔族か人間かもわからない魔法使いと、鎌を使う剣士のパーティに?」

「私はフレネルが魔族の魔法使いだってこと、ギルドに報告するから」

まあ最もな意見だろう。アーテルの立場からすればそうするべきなのかもしれない。

。そして困ることをわざわざ放置する程、俺は優しくない。

「いいよ、報告しても」

「え?」

アーテルは意外そうな顔をしている。

「その時はその時さ、レジェンド級冒険者だろうがギルドお抱えの冒険者団だろうが、説得してみせるさ」

「ただし」

「もしその結果、俺の家族や友人にまで危害が及ぶようなら」

俺は血にまみれた右手の甲をアーテルに向け、指を滑らかに動かした。

「その時は……」

「その時は……?」

「君の魔法を奪うよ」

「ッ……!」

「……………………フレネル」

アーテルは改まって口を開いた。

「いいわ、あなたのパーティに加入してあげる。よく考えたらこんな危ない二人を野放しにするより、私が見張っておく方がいいと思うし」

フィーレが反抗している。

「入らせてでしょ。さっきまで散々文句言ってた癖に、結局あんたもパーティーに入りたいんでしょ」

「ありがとう。魔法使いがいてくれた方が冒険は有利だ。」

こうして俺、大鎌の剣士と賢い魔法使いでパーティーを組むことになった。

「じゃあ、これからは3人でダンジョンを攻略するということで」

「よろしくな」

「はいよ」「……はい」

いよいよ俺達の本格的な冒険が始まる。まずはギルドに帰って今回の冒険の成果を報告しなければ。


──ギルドにて

「えーっと、つまり状況を整理すると」

ジャーニー級冒険者のガリューンさんとダリスさんが戦死、残ったお三方でダンジョンを攻略して帰還したということでしょうか。

「ええ、ドウクツライオン……いえ、キマイラが出現しまして、とても残念です」

「そうですか、それは不運でしたね。キマイラはマスター級冒険者でも手こずる相手ですから……ところで、それはそれとして、どうやってその窮地を切り抜けたのですか?」

まずい、やはりそこは突っ込まれるか……

「それは……」

「あたし、ツーホルダーなんで」

フィーレが助け舟を出してくれた。

「なるほど……しかしいくらツーホルダーと言えど、キマイラ相手ではちょっと厳しいのでは?」

「……あたしもツーホルダーです」

アーテルもカバーしてくれるようだ。

ギルド職員も驚きを隠せないようだ。

「まさかツーホルダーが同じパーティに2人もいるとは……であれば一応納得です。最近ダンジョンの難化が進んでいて、各ダンジョンのレートがインフレーション傾向にあります。お気を付けてくださいね」

そう言ってギルド職員は執務に戻った。ふう、なんとかなったようだ。

「功績、横取りしちゃったかな?」

フィーレはこちらを覗きながらにやりと笑っていた。

「いや、助かった。ありがとう」

「……」

アーテルが不満そうな目でこちらを見ている。

「アーテル、ありがとう」

「いえ、別に」

元の表情に戻った。


夕食時、ギルドには攻略を終えたパーティーが続々と戻ってきた。皆憩いの場で

夕食を取るようだ。俺達も席に着くと、周囲からの視線がなんとなく集まっているように感じた。小声で俺達のことを噂しているようだ。

「見ろよ、今日登録されたパーティーだぜ」

「どうやらツーホルダーが2人いるらしいな」

「ひぃーおっかねー、でもよぉ、PL(パーティーリーダー)は魔法使えないらしいぜ」

「はあ? いくら剣士とはいえ魔法も無しにどうやって戦うんだよ」

「さあなぁ、味方に強化魔法かけて貰ってんじゃねえか?」

「フリーライダーかよ、いいご身分だな」

好き放題言ってくれるなぁ、属性魔法がないというのはやはり不便だ。何か対策を考えた方がいいかもしれない。

「好き放題言いやがって、ちょっと言ってくる」

まずい、フィーレは感情的に動くタイプだ。俺は人差し指を口の前に置いて優しくなだめた。

しばらくぼやいていたが、やがて冒険者の話題は各々の冒険譚なり報酬に移り、次第に俺達のことを気にするものもいなくなった。

俺たちは夕食を済ませ、明日からの冒険に備えて帰路についた。


──翌々日(ダンジョンに潜った場合、疲労回復のため数日空けることが一般的)

「つまり、冒険者の等級を上げるには、各等級の金等級クエストを攻略する必要があるの」

俺達はレジェンド級冒険者になるため、アーテル先生の講習を受けていた。

「クエストには金、銀、銅の三種類の等級があって、アプレンティス級を卒業するには、アプレンティス金等級のクエストをクリアしなきゃいけないわけ」

俺は質問を挟んだ。

「先日のダンジョンはアプレンティス銅等級よ」

フィーレも質問を挟んだ。

「それじゃあ金等級の攻略に行こうじゃねえか」

アーテルは首を振った。

「金等級のクエストを受けるためには銀等級のクエストを3つクリアしなきゃいけないわ。まず銅等級をクリアして、銀等級は3つクリアしてって感じで、簡単に金等級のクエストは挑戦させてくれないのよ」

「挑戦に制限を設けているのは、驕った冒険者が死なないためでしょうね」

なるほど……つまり次は銀等級を3つ攻略すればいいんだな。


俺達は銀等級のクエストの攻略を開始した。基本はフィーレと俺で先陣を切り、アーテルに後衛から魔法を撃って貰う。クエストの攻略外でも、暗黒魔法の修練を積み。

俺はついに通常暗黒魔法3級と2級を習得した。


「これで銀等級のクエスト3つだな」

銀等級のクエストは薬草の採取、ダンジョンの攻略、商人の護衛だった。

初心者講習のクエストが嘘のようにサクサク進み、ついにアプレンティス金等級のクエストへの挑戦権を得た。

「いよいよね」

フィーレは攻略の証である、銀の天使のスタンプを見てニヤニヤしている。

アーテルは相変わらず装備品の点検に余念がない。

「よし、明日はついにアプレンティス金等級のクエストだ。気を引き締めて行くぞ」

俺は二人を激励して帰路についた。宿の中でも明日のクエストのことで胸が一杯だった。

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