あ゙
俺はいま、燃えるような紅葉が舞い散る林道を進んでいた。相変わらず紅葉が多くなった影響で、舞い散る刃が増えていくが、俺は落ちた刃を、即席の木枠に乗っけると束ね傘を作った。
その傘は頭と首を守る程度の幅しかなく、はみ出した肩や腕には未だ木の葉が突き刺さる。しかしここでは風が吹くと傷もすぐ治るため、移動にはあまり支障は出ない。
それにこの降り注ぐ刃の影響か、あの女たちは姿を表さない。前回来たときはこんな風に体中を切り刻まれることなんてなかったので、然しもの女たちでも耐えられないのだろう。
"こんな痛いのに耐えれるなんて、俺ももう立派な化け物だな"
俺は腕に刺さった小さい葉っぱを抜き取り、地面に捨てる。そうして地面に落ちた葉っぱで怪我をしないよう慎重に歩いていると、とうとう目当ての絶世の花畑にたどり着いた。
周囲の舞い散る木の葉がなくなり、俺は持っていた即席の傘を地面に捨てる。
"やっとここまでついた......!!"
俺は溢れ出る喜びでガッツポーズをすると、背中から突然鈍い衝撃が襲ってきた。
"え?"
俺は一瞬何が起こっているのかわからず、四つん這いになってボートしてしまう。だが次の瞬間、腹部にまた鈍い衝撃が現れ俺は仰向けに倒れた。
ひどい吐き気に襲われながらも、俺の上に覆いかぶさる黒い影の主を見上げた。
"貴様。何処へ逝かれるのか?"
そこにいたのは豪華絢爛な衣装を身にまとう女と、ニヤニヤと加虐的な笑みを浮かべる幼顔の女。両の手には先ほど捨てた傘の葉が握られている。
しまった。そう思うよりも早く、俺の胸部へ鋭い痛みが襲いかかる。
これは言うまでもないだろう。そう、女が俺の胸にその鋭利な葉を突き刺していた。俺は痛みで暴れるも、幼顔の女がその怪力で俺を逃さんと抑え込んでいる。
「悲しいわぁ。どうして逃げなさるん?」
「ここからが楽しいというのに、ゆっくりしていきましょう。前回のように貴様を優しく切り刻んであげますから」
そう言うと女はまた新しい葉っぱを俺の身体に刺す。目、頬、首、腕腹、恥部に足。
耐え難い激痛が、俺の意思とは無関係に襲いかかる。意識朦朧で更には体中から溢れ出す血が一滴も出なくなる頃に、涼やかな風が俺の体を包み込むと俺の意識がもとに戻る。
そしてまたあいつ等が俺を死ぬまで刻み続ける。
もう諦めてしまおうか。女たちは楽しそうに笑いながら涙を流している。何故泣くのだろうか? この女たちは俺を殺したかったのではないのか、これが念願ではなかったのか。
俺はそんな疑問を抱きながら、女たちが飽きるのをただ待ち続けた。そしてその時が訪れる。
幼顔の女が血に染まったその顔を拭う為に、一度俺から手を離した。俺はその隙を見逃さず、すぐさま手元に隠し持っていた葉の一枚で豪華絢爛な女の首を切り裂く。
「かっ......」
うめき声と共に喉奥からヒューと笛を吹くような音が聞こえる。その光景に動転した幼顔の女は咄嗟に俺を押さえ込もうとするが、俺は首を抑えている豪華絢爛な女を蹴飛ばして二人を激突させる。
その作戦がうまく行ったのか、豪華絢爛な女は未だ首を押さえながら横たわり痙攣している。そして幼顔の女はすぐに立ち上がると、こちらを追いかけようとする。しかし俺が花畑に入っているのを確認した幼顔の女は、ただ憎しみを込めた目でこちらを睨むばかりで追いかけてくる気配がない。
それもそのはずだ。
俺は下半身が花によって引き裂かれる感覚を味わいながら、必死になって野原へ歩いていた。
"いえてぇ......いてぇよぉ。でもアイツラから逃げれるなら、いっときの痛みが何だ"
俺は飛び出しそうになる腸を押さえ、少しずつ...少しずつ前進して逝く。そして時間が立つと俺の周りにまたあの風が吹く。そしてまた進むを繰り返し、とうとう俺の眼の前にあの平原が近づいてきた。
そして俺は後ろを振り返ると、そこには18人の女たち全員が花畑の前で佇んでいるのが見える。顔も見えないほど遠くになってしまった女たちはきっと、憎悪を込めた表情で送り出しているに違いない。
俺は奴らから逃げ切ったのだ。
......そう思った矢先に足元から地面が消え、俺の全身に浮遊感が襲いかかった。そして俺は奥に見える女たちと俺を結ぶ赤色に色付いた一本の道を見つめながら......
"嗚呼、最後までアイツラの思う壺かよ"
俺は急速に遠ざかる花畑を眺め、この後に訪れる結末を思い最後の恨み言をつぶやいた。
あ゛
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