人形の衣替え

“クソッ!! ふざけやがって!!“


 危うく溺れかけた。ただ失敗して溺れかけたならまだいい、だが今回はそんな生優しいものなんかじゃない。


 俺は湧き上がる怒りの感情を抑え、屋敷の中にいるはずの女達を探す。いつもいるはずの玄関にはおらず、屋敷の奥に進んで行くと、今朝閉めたはずの祖父の部屋の扉が開いていることに気がつく。


”おいっ!! なぜあの海が泳ぐことができないと教えなかった!!“


 俺は部屋の扉を開けて、その中で佇んでいた女の胸ぐらを、乱暴に掴み怒鳴り声を上げた。すると女はこれまでに見せたことのない顔で話しを始めた。


「これは貴様が望んだこと。」


”俺が望んだこと!? 俺が望んだことだと!!“


 女の言葉に俺の怒りが爆発する。コイツらは今まで俺が興味を持ったことの邪魔ばかりして来た。もし俺が心配だと言うのなら、あの平原の様に、忠告するなり止めるなりすればいいものを......コイツらもしかして意図的に俺の邪魔ばかりしてるんじゃないのか!?


「落ち着いt......」


”これが落ち着いていられるか!! 俺は危うく死にかけたんだぞ!?“


 俺は女を押し飛ばすと、女はなんの抵抗をすることも無く後ろの壁に激突し倒れ込む。そこで俺の頭から血の気が引き、慌てて女に近寄る。


”おわっ!?“


 倒れた女を起こしその顔を見た俺は絶句してしまう。そこに映し出された顔は、見覚えのない女の顔だった。


 いや、正しくは”極楽この世界ではみた覚えのない顔“であった。


 俺は女をその場に捨て、俺は部屋を抜け出そうとする。すると俺は何かに躓いた様に、体のバランスを崩して倒れてしまう。後ろを見るとそこには生気を感じない女が無表情のまま、俺の足首をがっしりと掴んでいた。


”クソッ離しやがれ!!“


 俺は机に手を付きながら女の頭を踏みつける。しかし女は力を緩めることはなく、それどころか俺の足首を握る力がどんどん増してゆく。


「どこに逃げるの? ここは貴様のためのゴクラクだというのに」


 女の言葉は俺の耳には届くことは無く、俺は激しい痛みの中で必死に周囲を漁る。そして近くにあった重たい将棋盤を持ち上げ、一思いに女の頭に叩き落とした。すると女の握る力が弱まり、俺は咄嗟に女の顔を蹴飛ばしすぐさま部屋を飛び出した。


“なんなんだ!! 一体なんなんだよ!?”


 俺は廊下を走りながら玄関へ向かおうとする。しかし廊下にはさっきの女同様に、ここでは見た覚えなおない女達が不気味な笑みを浮かべて佇んでいた。


“なんでお前らがこんなとこにいるんだよ!!”


 俺はゆっくり後退りしながら女達を睨みつける。


“どうした!! なんか言ってみろよ!!”


 俺の叫びが狭い廊下に響き渡る。しかし以前として女達は、不気味な笑みを浮かべたままそこを動く気配がない。


 すると俺の横の扉から発生した強い衝撃で、俺の体が派手に吹き飛んだ。その衝撃は凄まじく、吹き飛ばされた俺の体が横の壁を突き破り、気がつくと俺は自分の寝室にへと転がっていた。


“あーくそぉ......いってぇ”


 俺は割れる様な頭の痛みに悶えながら、なんとか立ち上がり吹き飛ばされた壁をみた。


 そこには.......




























この世の者とは思えない。巨大な化物の瞳が壁の隙間を覗き込んでいた。

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