燃える様な紅葉

 屋敷を出た俺達は太陽が照りつける浜辺を抜け、絶世の花畑へ続く紅葉の森の道を進んでいた。


“今は秋なのか? 砂浜で感じた暑さから、てっきり夏だと勘違いしていたよ“


 今歩いている森はまるで、燃え盛る大木から飛ぶ火の粉の様な、そんな紅葉が宙を舞っている。きっと多趣味な祖父がこの光景を見たなら、「風流だ」とそういったに違いない。


「ここは場所によって四季が変わるのです」


”四季が変わるね......”


 考え事をしながら歩く俺を他所に、女はこの場所に関する説明を続ける。


「ええ、屋敷は春、浜辺は夏。森は秋、そして花畑は冬」


“まて、花畑が冬ってどう言うことだ。普通は春だろう”


 確かに屋敷周辺は鼻をくすぐる様な甘い風と、初春特有の肌寒さがあった。屋敷のインパクトと肌寒さで、勝手に冬だと勘違いしていたが、言われてみたら確かに春の雰囲気だった。


「冬にも咲く花があるのですよ。それにあの花畑を見たら、何故冬なのか納得出来るはずです」


“行ってみたらね......ここまで期待させるんだから、それはもう綺麗なんだろうな”


「ええ、それは間違いなく。ねえ?」


「ええ、そうですね。きっと気にいるはずです」


 そう言いながら幼顔の女と豪華絢爛な女は優雅に笑った。私の姿はまさに、絵に描いたような美しさを醸し出していた。


“ああ、君たちを人形に出来たらどれだけいいだろうか”


「私達を人形にですか」


“ああ、どんな美しさも時間と共に衰える。絵にするのもいいが、やはり実物の方が満足感が違う”


 俺の発言に幼顔の女が目を大きく開くと、いつも通りの微笑みに戻り口を開いた。


「そうですか。ではいつか私たちを綺麗なお人形さんにしてくださいね?」


“......冗談だよ。流石に人を人形になんかできやしない”


 ジョークをまさか鵜呑みにされるとは思わなかったので、俺は少し戸惑いながら否定する。


 それに、この女達は人形なんかよりずっと.......ずうっと綺麗だ。生花はありのままだからこそ、自然だからこそ映えると言うもの。造花ではダメだ。アレは偽物の美しさだったから。


“それで花畑までは後、どれくらいで着くんだ?”


「後もう少しです」


 豪華絢爛の女が次の言葉を口にしようとしたその時、木の上から鈴の様な声が聞こえてきた。


「ねえ、貴様あなたさま。こちらで私と交接こうせつしません?」


 そこに居たのは18人の美女の一人。この女は花冠を頭に乗せ、花の模様が刺繍された黄色のドレスを見に纏っている。


 そんな18世紀の令嬢を思わせるその女は太い木の幹に足を乗せ、ドレスの下から魅惑的な脚を覗かせながらコチラを誘ってきた。


“すまない。また後で相手をしてあげるから......”


 俺が言い終わる前に木の幹に座っていた筈の、鈴声の女が消え失せていた。俺は後ろをついてきていた幼顔の女に視線を向けるが、幼顔の女はただ微笑むばかりで何も言わない。


「さあ貴様あなたさま、花畑へ着きましたよ」


 鈴声の女に気を取られている内に、どうやら花畑へ到着したらしい。俺は疑問を一旦頭の片隅に追いやり、豪華絢爛の女が指差す方向を見やる。


 そこに広がっている光景は、冬晴れの太陽光を反射する一面の雪景色だった。


“すごいな。まるで氷原だな“


「ふふ、これは雪ではありませんよ。ここにある物は全て純白のアネモネです。それにここは---」


豪華絢爛な女は長々と説明をしている横で俺は、目の前に広がるその絶景に目を奪われ固まってしかった。

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