人形の部屋

 俺は1時間ほど寝室でボーッとしていた。そして気持ちを整理すると、周囲の景色が一気に鮮明になる。そして辺りを見渡すと、先ほどまで近くにいた女達が、見当たらないことにかがつく。


“あいつらはどこに行った?”


 そこで先ほど自分が女に一人にする様にと命令したのを思い出した。だがこれは好都合だ。懐かしいあの家の雰囲気を堪能できる。


 そうして俺は寝室を出て見渡すと、屋敷を変化させる前と全く違う内装になっていた。

それは見慣れた木製の廊下に出ると、少し湿った様な杉材の香りが鼻を抜ける。


“本当に懐かしい。あの時のままだ”


 杉材特有の柔らかさを、確かめる様にゆっくりと歩いて行く。次に向かうのは祖母とよく話をした茶の間だ。


 俺は一番近くにあった襖を開けると、そこには記憶そのままの茶の間が広がっていた。


どうしたの◼️◼️◼️。お腹でも空いたのかい?


 そんな、優しい祖母の言葉が聞こえてくるのでは無いかと、そう思えるほどの再現度だ。


 俺は襖を閉めると次に、祖父の自室に向かうことにした。当時祖父は自室に篭って、趣味の教本に読み耽っていた。


 俺は何度か入ろうとしたが祖父は、中々自室に入れてくれなかった。しかし俺が14歳になった誕生日にだけ一度、祖父の自室に入れてもらったことがある。


 そこは当時子供だった俺にはまるで、夢の世界の様に見えた。俺と同じくらいの飛行機の模型が天井に吊るされ、棚には数多くも難解な本がびっしり。


 他に子供でもわかる精巧なボトルシップや、作りかけのチェスの駒が置かれた作業机。


 そして部屋の端に置かれた美しい......


“そう、この人形だ。俺の趣味の......”


 その人形はあの女達の様に美しく、怪しい魅力があった。そんな部屋にたったの一度きり、それも数十分程度しか部屋に入っていないにも関わらず、この部屋の記憶が脳裏に焼きついて離れなかった。


“もう十分かな“


 俺は部屋を出ると記憶を元に、こも家の玄関へ向かう。そして歩いていると玄関には先ほど退出を命じた二人が、ただ静かに立っていた。


 こうしてみるとあの部屋の人形とそっくりだ。そっくりと言っても雰囲気が似ているだけで、あの部屋の人形とは全く姿は違う。


 そんな二人に近づきながら俺は、玄関の横開きの扉に手を掛ける。


“部屋の中は大体見終わったから、次は外の案内をしてほしい”


「「畏まりました」」


 二人は同時に返事をすると、玄関を出た俺の後をついてくる。そして俺は二人に視線を向けた。


“お前らは一体何なんだ?”


「私達は貴様あなたさまの為に存在するメイドです」


“......わかった。じゃあ次はどこに連れて行ってくれる?”


「次は絶世のお花畑などいかがでしょうか?」


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