SFチックな力

 結局あの後、俺は貪り食う様に体に吸い、肉欲のままに女の肉壺へ突き続けた。そして気がつくと俺は、寝室のベッドの上に寝かされていた。


“はあ、あんなのは初めてだ”


 本当に、本当に初めてだった。気が遠のくほど人にのめり込むのは、俺の人生で一度たりともなかった。


 俺は酷い二日酔いの様な頭痛に頭を抑え、少し昨日の出来事について考える。すると昨日さんざん聞き慣れた、女の吐息が俺の耳を撫でる。


「おはようございます」


“......驚かせるなよ”


 妙な頭の痛みからか、俺は少し不機嫌に女を睨んでしまう。


「そんな、驚かせようなどと......申し訳ありません」


“ああ、すまん。別に怖がらせようとしたわけじゃないんだ”


 女は小動物の様にブルブル震えながら、申し訳なさそうな表情で謝罪をしてくる。まさかここまで怯えるとは思っていなかったので、俺は慌てて自分の自らの非を謝る。


“そ、それよりも、昨日この屋敷の内装は、俺の考える通りに変えれるとかどうとかって......”


「はい。では今回はその件についてお話しましょうか」


“ああ、たのむよ“


 昨日はあれだけ乱れていた女はもう、その面影すら無く初めて会った時の様に、人形のように微笑見ながらSFチックな謎の力について語り出す。


「前回お話しした通り、このお屋敷は貴様あなたさまの強く思い描いた通りに作り変えることができます」


“作り変えるって? どうやって”


「実践する方が早いですね。まずは目を瞑ってください」


 俺は女に言われるがままに目を瞑る。それを確認した女は次の言葉を紡ぐ。


「次に頭の最も安らげる場所を、ゆっくりでいいので思い浮かべてください」


 俺は目を瞑ったまま、取り壊された祖父母の家を思い浮かべる。すると何故だかわからないが、あの頃に感じた高揚が体全体を覆う。


 瞼をゆっくり開けるとそこは、先ほどまでの西洋風の寝室ではなく。畳の上にベッドが置かれているという、普通の人が見たら不可解な光景が広がっていた。


“ああ、なんて懐かしいんだ”


 ついつい俺の口から感嘆の言葉がこぼれる。そう、この寝室こそ俺が小さい頃に遊んでいた、風変わりな祖父母の寝室であった。


「素敵な寝室ですね」


“世辞はいいさ。こんなベッドを置いたら畳が痛む。知り合いに話すとよく笑われたよ“


 俺は久しく忘れていた昔を懐かしむ様に、記憶の奥底を思い描き続ける。そうしているうちに部屋は......いや、部屋だけでなく屋敷中の風景が変わっていく。


“なあ、あんた。もう部屋の案内は結構だ。しばらく俺を一人にしてくれ......”


 歪む視界を手で覆うと懐かしいベットに腰を下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る