#7
夕飯を一緒にする約束をして慎矢を帰すと、ゆみはほうと息を吐いた。心配そうに見上げるかぐの頭をそっと撫でる。温かい。
先程は嘘をついてしまった。
書いた物が金になるようになったのは最近だけれど、本当はずっと前から書いていた。ちょうど離縁した頃からだ。
結婚のことで、両親にも話していないことがある。腹に宿った子がいた、けれど流れてしまった。もとより気まずい夫婦仲ではあったけれど、それを機に離縁となった。ちょうどるりという女中が夫に色目を使っていた折でもあり、別れてすぐ夫はその若い娘と結婚した。いや、あちらに子が生まれた日取りから考えると、夫は結婚当時からるりに手を出していたのだろう。
けれど、そんなことはどうでもよかった。
私はただ、十月近く我が腹の中で大事に育っていた命が喪われてしまったことが悲しかった。はなから不安定な妊娠で、十月もよく頑張ったと言ってくれる人もいたけれど、私は産んでやりたかった。そのような状態だったから、田舎暮らしを始めていた実家に顔を出す機会もなく、かといって死産の報せを出す気にもならなかった。
夫にはもう新しい家庭がある。我が子を弔ってやれるのは私しかいないのだ。ゆみは筆を執った。祈るような気持ちで、我が子のための物語を書き続けた。
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