安定剤と興奮剤[一話完結]

ごこちゃん

安定剤と興奮剤

安定剤を服用して出社すると、まったく仕事のできない人間が出来上がる。


眠気に襲われるたび、尖ったシャーペンを太ももに刺して目を覚ます。

事務仕事なので、机が影になって、刺す瞬間を誰にも見られることはない。

最初は手の甲に刺していたが、上司や同僚、客先で変な目で見られてしまうので、

僕に健康な足があってよかったと思う。


お昼の鐘が鳴れば、一時間ほど仕事をしなくてよくなる。

誰にも会いたくないので、小走りで少し遠いコンビニに向かう。

買うのはおにぎりとサラダ。

それを会社に持って帰って、まるで健康的な食事をしていると見せつける。

興奮剤はもう既に一気飲みをして、コンビニ併設のゴミ箱に投げてある。


「これで僕は健康的な会社員だ」


定時になればタイムカードを押して、自分の机に戻り、勉強が始まる。

これはあくまで自主的な勉強であって仕事ではない。

会社の付き合い、飲み会と同じく、今後の自分のための行為だ。


外の空気を吸いに行く事は許されるので、小走りで少し通りコンビニに向かう。

買うのは同じ興奮剤、それを安定剤と一緒に飲む。

不安は収まるし、眠気は飛ぶので、一石二鳥の飲み方だ。


こうしてなんとか仕事をこなす人間の一日が終わる。

誰もいないのに、どうしても手を抜くという事ができないのだろう。

大した成果なんてないくせに、いやないからか。

戸締りをしっかりして、家に帰る。


帰り道には居酒屋、パチンコ屋、風俗店など誘惑の多い店が所狭しと並んでいる。

くたくたになるので、帰りに遊ぼうとか飲もうとかはまったく思わない。

無駄遣いをしないおかげで、安定剤と興奮剤を買えてしまう。

帰宅したらすぐに安定剤を飲んで、明日に備える。


もちろん良くない事だとは分かっているが、仕方ない。

こうでもしないと仕事ができないのだ。


給料の何割が安定剤で、給料の何割が興奮剤だろうか。

身体の何割が安定剤で、身体の何割が興奮剤だろうか。


考えたところで安定剤と興奮剤が増えるだけだ。

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