自己愛、他者愛、家族愛
山代悠
愛
私には今年で成人を迎える孫娘がいる。
名前は雪乃という。
本当にかわいい孫娘。
一人息子の、たった一人の娘だから、私にとってもたった一人の孫なのだ。
これは、家族の物語。
あれは、そう、雪乃が14歳の頃の話。
「おばあちゃん…私、恋人ができたんだ」
「えっ!ほんと!?」
照れながら話し始めた雪乃に、私は動揺を隠さずに答えた。
「で、どんな人?」
「えっと、同じクラスの女の子で…」
「なに?恋人ってのは女の子なのかい?」
「う、うん。そうだよおじいちゃん」
雪乃の口から飛び出た、私にとってもやや想定外の言葉に、それまで黙って窓辺でタブレットを見ていた私の旦那──雪乃にとっては祖父である、
「そう、か…」
「…?」
「あっ、まぁいいじゃない。素敵だと思うよ」
あまり芳しくない反応を見せる邦崇を見て、不穏な空気を察した私は、とっさに肯定の言葉を並べた。
でもそれらはとても薄っぺらいもので。
その日は結局それ以上踏み込んだ話はせず、雪乃は帰宅。邦崇も無表情で、何を考えているのか読み取ることはできなかった。
そして私はその日の夜、雪乃にメッセージを送った。
『雪ちゃん、じぃじがやっぱり、今日の雪ちゃんのお話をあんまりよく思っていないみたいなの。私は雪ちゃんが幸せそうに話してくれて、すごく嬉しかったのだけれど。』
『わかった。じぃじ、私のこと嫌いになったかな…?』
『そんな訳ないよ、じぃじ、雪ちゃんのこと大好きだと思うよ』
『そうかな…でも私、しばらくじぃじとばぁばの家行かないようにするよ、ほら、これから受験だしさ』
高校受験を理由に距離をとられた。
しかし、それだけではない。
私が、雪乃を拒んでしまったのだ。
私が、雪乃と距離をとった。
この日のことを、今でも後悔している。
あと何年続くかもわからない人生、一生後悔するだろう。
この日以来、雪乃はめったに私たちに顔を見せてくれなくなった。
家にやってきても、短時間で帰ってしまう。
すごく悲しかった。
だが、雪乃はもっと悲しかっただろう。
同性を好きになることの何がいけないのだ。
誰が決めた?
時代が~とか、そういうのは関係ない。
いつの時代においても、誰を好きになるか、つまり愛の形は、個人が決めるべきものであるはずなのに。
それを、邦崇は否定した。
そして、他でもない私自身も、加担してしまったのだろう。
その事実が、私を苦しくさせる。
私は私が、許せない。
自己愛、他者愛、家族愛 山代悠 @Yu_Yamashiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます