アイなき世の中

西悠歌

第1話

「近頃の世の中には重要なものが足らん」と道徳を教えに来た教師が演説を始めた。

「それは何ですか?」

普段からよく挙手をする女子が質問した。しかし教師は彼女を突っぱねる。

「自分で気付けんようでは困る。この授業中には答えを見つけるように。」

ほとんどの児童たちがこの時点で教師への愚痴などをささやき、ノートの端に落書きを始める。それを気にも止めずに教師は話を続ける。

「君たちは知人を見かけたら声をかけるか?例え知人でなくとも、困った人には手を差し伸べるか?」

ここで少し子どもたちを見回す。すると、またしても同じ女子が答えた。

「当然です。でも、知人じゃなかったらほとんど声をかけません。両親に危険だって叱られるから…。」

教師は嘆くように首を振った。

「これが近頃の風潮だ。子供に常識を教える立場の保護者でさえ、人を助け敬う心を伝えられておらん。この世の中の進む先は暗闇の中だろうな。」

彼はチョークを手に取った。

「君たちは知らんだろうがな、人と人とが支え、支えられて出来たのが『人』の文字なんだ。」

「その話は知ってます。他には何か無…」

「そのような行動が間違ったものだと教えておるのだ!」

教師は激昂した。教えようとすることが何一つ伝わらず、我慢ができなかったのだ。

「まったく、人の話を遮って…。」

「ですが、」

それでも引かずに話し続ける女子の顔が突然消えた。見るとほかの児童たちも次々に消えてゆく。

「悪かった。待ってくれ!」

などど叫ぶはずもなく教師が呟く。

「まさか人格を持ったコンピューターに授業をする日が来るとは思わなかった。しかもこのプログラム、人の感情をつゆほども学ばず、授業がつまらんとすぐに画面を消してしまう。」

そして一人きりの教室で一言。

「全く、世の中からは”愛”が消えてしまった。」


…代わりにAIに囲まれてますけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイなき世の中 西悠歌 @nishiyuuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画