第2話 過去の剣豪
ここは、未だ平和の定義がなされていない
あまねく剣士たちが自身の力を
だが、時間は過ぎ去り今や
数少ない彼と関わりがあるものは、口を揃えて彼のことをこう評したという
「奴ぁ…
余すことなく、漏らすことなく、最強の名をほしいままにする。
ある者は、彼の実力をこう語る
「あれほどのバケモンは…
その名も「
これは、そんな最強と呼ばれる男が最強になるまでの
「雨が降るな…」
少し薄汚い身なりと顔をすべて
空が、特段曇っているわけでもない。それどころか、雨とは正反対の
それだけでも雨というのはあまりに
天気を予測するにはあまりに信用のしようがない条件下である。
だが、急激に空模様は変化した。
空を覆いつくす鉛のような色をした雲が到来し、大気が重苦しい湿った空気に変貌し始めた。
不意に上を向いた辺りを練り歩く者どもも、急に視界が暗くなったことで、天候を確認し、曇天ともいえる空模様に驚愕する。
その直後すぐさま豪雨とも言えるほどの雨が降ってきた
「うぉ!?あんだけ晴れてやがったのに雨が降ってきやがった」
辺りを歩いていた他の
正体不明の予知を行ったこの男こそ、後に最強の剣士として
だが、杉山の今の年齢は体型から推測するに、高く見積もっても十七歳かそこらで、周囲に語り継がれる年齢としてはまだまだ若すぎる気がする。
それもそのはずで、今の彼はまだ剣技の
現在の彼は、剣の修行の旅に出て僅か数か月程度の若造だ。
ただ、だからといって彼が今の段階でも弱いというわけではない。
「…とりあえず…どこかで雨宿りでもしようか」
根拠は未だ不明だが、天候の悪化を予測ができていたからなのか、周囲に流されずいたって冷静に雨風をしのげる建造物の陰に隠れようとする。
だが、不幸にも陰の先には予期せぬ
この時代には特別珍しいわけでもない刀を携えた二人組で、片方は身長190程度はあるのではないのかというほどの巨漢。
そして、もう片方の老人のように腰を低くしている身長が低めの見たまんまの舎弟のような男
その二人組は、目が合うなり不機嫌そうに歯をギシギシとしていた口をじわじわと不気味なほど歪んだ笑みに変える
「おうおうあんちゃんよぉ!?ここぁ俺たちの領地だぜ!?ここで休みてぇなら
「そうだぞぉ!!兄貴の言うとおりだ!!早く払いやがれ!!それとも兄貴にボコられてぇのか??」
それほどまでに
「ちっ…こいつ、この俺をイラつかせやがって!痛い目を見せねぇと立場を理解できないようだなぁ…へへ」
巨漢は
怒りと喜びによって複雑な様子で、唇を歯で嚙みつぶしながら、それでいて口角が上がり続けている
そして、引き抜かれたその刀を杉山向けて軽く振るう
「この物見て謝る気になったってんなら、今すぐ土下座でもするんだな!!そしたら許してやるよぉ!!ぎゃはははははぁ!!」
巨漢が挑発し続ける姿に、そばにいた舎弟のような男は頬をにやつかせてはいるものの、これから起こると想定される惨殺という名の
「そんなものでいいのか。」
脅迫に挑発をされようとも、命の危機とも感じられるはずの刀を向けらるという被害を受けようとも、無視を続けていた杉山だったが、あっさりと腰に
「…ふへへ…所詮は刀を向けられただけでビビる肝っ玉の小せぇ野郎だったんだなぁ」
「あぁー!!お前は所詮その程度なんだよ雑魚虫がぁぁ!!」
杉山に近づきそこら辺の地面と同じように頭を踏みつける。
ただ、被害を受けている杉山は土下座をして以降先程のように特に何の言葉を吐いてはいない
弱音も、悲鳴も、
雨の
「お…おい…やめろ!…です」
「あぁぁん!?」
杉山がやってきた方角から杉山と同年代程度の
その声により、頭を踏みつけていた足が、地面に下ろされゆっくりとその青年の元へと
「せっかく気持ちよくなってたのによぉ!?なんだぁ、
「うっ…えっと…そもそも、ここはあなた達の場所じゃない…というか………」
その後の言葉は
「まぁ、許してやらんでもねぇけどよぉ!?土下座だよな土下座ぁ!!」
その
杉山と同様に、少しずつ腰を下げ、膝が地面と合わさるよう程に下がった。
ただ、この青年の様子には
彼は、「泣いていた」のだ。
相手を助けようと飛び込んだのはいいものの助けることができなかった
声を
心の内に自身の辛さの全てを押し込み、ただ誰からも気づかれることなく泣いていたのだ
「
もうじき青年の顔が地面と面しそうになると思われた直後、巨漢の背後から雨に
「…
巨漢の背後から聞こえてくる声には、どこか
「
巨漢の中々に発達している
その発言には表情が一切見えていない巨漢にも
「なんだとぉ…?」
巨漢は、杉山が放つ自身の怒りを
(…
舎弟のような男は事の
もちろん、
だが、何か
そんな自身の現状に舎弟は何か良くないものでも見たのではないかと、全身の
「…コロスゥゥゥゥゥ!!!!」
既に巨漢の男に自身の
ただ本能に従って、自身の不安を取り払おうと、はたまたこの
ただでさえ日陰だというのに、悪天候による
ただ、一人を除いて
「…貴方がそれを引き抜くということは、命を差し出す覚悟はできているということか?」
「あ゛?知らねぇよそんなの、死ねぇぇ!!くそがぁぁぁぁ!!」
構えも何も取らず、相手に対して
「そうか…」
杉山自身も巨漢が突撃してくるのを確認して、体を後ろに下げ、携えていた刀剣を引き抜く動作を取ろうとする。
だが、相手が距離を詰めてくる速度の方が
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
刀を振り下ろすだけだと言うのに、周囲には不思議と
巨漢によって振りかぶされたその刀身は二度と天を
巨漢の男は、刀を地面に叩きつけているような態勢のまま
周囲がその状況に戸惑う
杉山が行っていた動作というのは、巨漢が刀を振りかざしたその直後、特別早いこともなく、特別力を入れていたわけでもなく、特別顔色を変えていたわけでもない。
ただ淡々と、ただ前方に歩くだけと言わんばかりに自然体と言わんばかりに通りすがりに巨漢の首をゆっくりと斬る。
既に次の瞬間には、巨漢の首が転がり落ち、巨躯は流動するようかのようにゆらりと地面にうつ伏せになる
「…晴天の輝きが
そう言葉をこぼすと、先程までの豪雨が嘘のように
狭い路地のような場所で唯一にして絶対の変化である天候の変化は、誰もが目を向けるはずだっただろう。
だが、違った
この場にいる皆の目を
巨漢の背後に立ち、
「覚悟あってのものだ。手向けはしないぞ。では、私はこれで失礼させてもらう。」
「あ…何…あぁ…逃げるんだぁ…」
一人の人間を殺したというのに、この場の人間はだれもその事実に目を向けようとしない。
一種の芸のように
そんな者たちには見向きもせず、杉山はこの場から去ろうとする
「ま…待ってください!!」
過ぎ去る背中をその場に留まってくれと
その願いに応えるように、杉山は足を
「さっきの剣技は何ですか!?」
目に光が宿っておらず、体中が汗だくになっているというのに口元は笑っており、今の青年は
「…驚いた。『なぜ助けたのか?』と聞くものだと思っていたが」
「え?えっと…すごい剣技だったもので…その事がどうしても気になっちゃって。」
時間が経ったことである程度平静を取り戻すことができた。
ただその代わりに、新たに生まれた心の
「…貴様、名前は?」
「え?僕ですか?えっと…
突然の名乗れという発言に戸惑いはするものの、要求に答えたことで杉山の漏れ出ている
「いい名前だね。さて、それじゃ教えてあげるとしようか。」
「簡単なことだよ。さっきのは――」
正之は杉山のただ歩行をしている姿に、息を吞んでしまう
恐怖による緊張だったり、目の前の神技ともいえるほどの剣技を披露した男の手の内を明かしてもらえることへ、心を躍らせているという
いたって冷静なはずなのにだ。
今思えば、これは生存本能が思考を上書きして自発的に
「ただ歩いて、首を斬っただけさ。こうやってね」
さっきまで歩くことしかせず、刀を抜く何の予備動作も取っていなかったはずなのに、次の瞬間には、その刃が正之自身の首元に軽く触れていた
その抜刀を言葉に表すなら、特別早いというわけでもなく、特別動いているわけでもなく、時が止まっている中、
刀を向けられている事を神経は伝えようとしていたというのに、脳に到達してなお危険だと判断できなかった。一歩も逃げることも、叫ぶこともできなかった
「…………」
「あはは。すまない、驚かせるつもりはなかったのだが。おっと、長く時間を取りすぎてしまったね。今度こそ本当の別れになるかな」
硬直し、顔のパーツ一つ動かない正之に捨て台詞のようなものを残すと、この場からでは姿が見えないほど遠くに離れる
突然になるが、杉山の剣技と同様の
彼は、生まれながらにして他者と比較して、その直感や五感で感じ取るという能力に長けていた。
それは、自然におけるあらゆる物事を感知することもできるほどに
その力を人間相手に全てを向けたら、その力によって
そんな、杉山が最初で最後の本心を読み取ることができなかった相手がこの正之だった
目の前の口を軽く開いた正之の表情を見て、杉山は驚いたと
それは、自身が直感によって読み取ってきた
だが、彼が本当に考えていた
(……初めてだ…刀を向けられて喜んじゃったのは…)
そう、彼は喜んでいたのだ
彼の、この状況と一致しない
(……なぜ私は彼に対して貴様といったんだ?度胸は認めているが…)
この短い物語は、杉山の体験してきた物語のほんの一例でしかない。
この先に進むうえで一つ、忠告をしておこう。彼の強さの全貌は才によるものではないという事を。
この物語の後の話の杉山は、元々の目的である「ひっそりと一人で剣技を
元々他人に
時は進み、彼が辺境の山奥で修業を開始し始めて半年程度が経過した時だった。
「――――じゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!」
どこからか、人の叫び声が聞こえてきた。
「…だれだ?」
その声に、杉山は警戒態勢を取り恐る恐ると近づいていく
普通の場合ならば、人の声など聴いても不審に思うことはないかもしれない。
もっといえば、こんな山奥なのだ。助けるという考えが先に浮かんでも
だが、彼の場合は違った
この場所は、絶対に人が来ないという目的が第一に作られた道も何もない場所に自力で小屋と小さな道を作ったという程度の
それに、家族ですらこの場所を教えた人間など存在しなかった
なのに人の声が聞こえてきた。
腰に
人影が軽く見え、さらに人影が
もうあと一歩で姿が
「…何者だ?っ!!」
このあたりでは見かけない顔に、この時代で見たこともないような異様な服を身にまとった男を見て、
「あっ…こんちゃーっす」
ようやく顔面を視認できる程度に近づくことができたことで、今両者の目が合う
この時、未来最強の剣豪と当代最強の剣豪が初めて出会った運命の瞬間である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます