第2話 過去の剣豪

 ここは、未だ平和の定義がなされていない乱世らんせの世ともいえるほどの過去の話。


 鉛玉だんがんを発砲するような技術すらない刀が主流の時代。

 あまねく剣士たちが自身の力を誇示こじしようとその身に余るほどの力と絶勝ぜっしょうを確約するほどの研ぎ澄まされた武具を手に入れようとする時代だった


 だが、時間は過ぎ去り今や人馬一体じんばいったいの戦い方が主流となった時代で、その身と愛刀一つで世の条理に抗う一人の剣士がいた

 数少ない彼と関わりがあるものは、口を揃えて彼のことをこう評したという


「奴ぁ…馬鹿力ばかぢからだとか馬みてぇに速ぇとかそういうんじゃ表せれねぇ完成された肉体と、他の追随ついずいを許さない不平等とも思えるほどの剣技を持ち合わせた文字通りのだ」


 てのひらで数えられる程度の限りある人脈じんみゃくでしかないが、彼と関わりのある皆は口を揃えて彼を最強と評す

 余すことなく、漏らすことなく、最強の名をほしいままにする。


 ある者は、彼の実力をこう語る


「あれほどのバケモンは…未来永劫みらいえいごう現れないだろうよ。別の芸ならともかく、剣技って点であいつを超えるやつはおらんだろう。なにせ、あいつのあの研ぎ澄まされたの全てを剣に費やした男なぞ、真似出来る者の方が少ないじゃろうて。神がかっとるというんかの。まぁ、本人は神などという不確定ふかくていで信用のできない存在が嫌いだと言っとるがな。」


 過剰かじょうな評価だとも思えるそれほどの実力を持ち合わせた知る人ぞ知る当代最強の剣豪


 その名も「杉山泉すぎやません


 文献ぶんけんにすら記述されていない全く未知数の、歴史上最強という論争の歴史を覆す可能性すらある最強の剣豪である。


 これは、そんな最強と呼ばれる男が最強になるまでの序章じょしょうの話だ


「雨が降るな…」


 少し薄汚い身なりと顔をすべておおいつくす浪人笠ろうにんがさを被ったいかにも流浪人のような男が誰にも聞こえない程度ていどの声量でそう発する

 空が、特段曇っているわけでもない。それどころか、雨とは正反対の晴天せいてんと言ってもいいほどの良天気。

 それだけでも雨というのはあまりに非現実的ひげんじつてきだとこの時代の者は考えるだろうが、それだけでなく彼はそもそも天を一切向いていない。ただ、真っ直ぐ前を向いているだけだ。

 天気を予測するにはあまりに信用のしようがない条件下である。


 だが、急激に空模様は変化した。

 空を覆いつくす鉛のような色をした雲が到来し、大気が重苦しい湿った空気に変貌し始めた。

 不意に上を向いた辺りを練り歩く者どもも、急に視界が暗くなったことで、天候を確認し、曇天ともいえる空模様に驚愕する。

 その直後すぐさま豪雨とも言えるほどの雨が降ってきた


「うぉ!?あんだけ晴れてやがったのに雨が降ってきやがった」


 流浪るろうの男の発言は見事的中した。


 辺りを歩いていた他の民衆みんしゅうはその急激な天候の変化に動揺どうようし、行き先もままならないというのに無造作に走り回る。

 正体不明の予知を行ったこの男こそ、後に最強の剣士として狭い間柄友人間でのみ語られた【杉山泉すぎやません】その人である。

 だが、杉山の今の年齢は体型から推測するに、高く見積もっても十七歳かそこらで、周囲に語り継がれる年齢としてはまだまだ若すぎる気がする。


 それもそのはずで、今の彼はまだ剣技の鍛錬たんれんをしていない頃のまだ未熟みじゅくな時の姿なのである

 現在の彼は、剣の修行の旅に出て僅か数か月程度の若造だ。

 ただ、だからといって彼が今の段階でも弱いというわけではない。


「…とりあえず…どこかで雨宿りでもしようか」


 根拠は未だ不明だが、天候の悪化を予測ができていたからなのか、周囲に流されずいたって冷静に雨風をしのげる建造物の陰に隠れようとする。


 だが、不幸にも陰の先には予期せぬ不当な野主暴君がいた。

 この時代には特別珍しいわけでもない刀を携えた二人組で、片方は身長190程度はあるのではないのかというほどの巨漢。

 そして、もう片方の老人のように腰を低くしている身長が低めの見たまんまの舎弟のような男


 その二人組は、目が合うなり不機嫌そうに歯をギシギシとしていた口をじわじわと不気味なほど歪んだ笑みに変える


「おうおうあんちゃんよぉ!?ここぁ俺たちの領地だぜ!?ここで休みてぇならかね払ってもらわねぇとなぁ!?」


「そうだぞぉ!!兄貴の言うとおりだ!!早く払いやがれ!!それとも兄貴にボコられてぇのか??」


 ほほがくっきりと張り出るほど上に歪ませた口と、さやに納められた刀を、これでもかと見せびらかす巨漢と、言葉巧たくみに相手を挑発する舎弟との間には長年の言葉と行動による共同作業人心掌握によってつちかわれた熟練じゅくれんの連携のようなものがあった。

 それほどまでに脅迫きょうはく挑発ちょうはつという相手の精神にけ込む能力に長けた二人だったが、直立不動ちょくりつふどうで一切発言すらしない杉山の様子にじわじわと不機嫌ふきげんそうな口に逆戻りしそうになる。


「ちっ…こいつ、この俺をイラつかせやがって!痛い目を見せねぇと立場を理解できないようだなぁ…へへ」


 巨漢は情緒不安定じょうちょふあんていなのかと思うほどすぐに苛立ちの感情を変化へんげさせ、歓喜に言葉も出ない様子で舌をダラリと出しながら、ゆっくりと刀をさやから抜き出す。

 怒りと喜びによって複雑な様子で、唇を歯で嚙みつぶしながら、それでいて口角が上がり続けている

 そして、引き抜かれたその刀を杉山向けて軽く振るう


「この物見て謝る気になったってんなら、今すぐ土下座でもするんだな!!そしたら許してやるよぉ!!ぎゃはははははぁ!!」


 巨漢が挑発し続ける姿に、そばにいた舎弟のような男は頬をにやつかせてはいるものの、これから起こると想定される惨殺という名のストレス発散さんじょうを頭の中に思い浮かべ、冷や汗をかき、固唾かたずんでいた


「そんなものでいいのか。」


 脅迫に挑発をされようとも、命の危機とも感じられるはずの刀を向けらるという被害を受けようとも、無視を続けていた杉山だったが、あっさりと腰に携帯けいたいしていた刀を地面に優しく置いて流れるように滑らかな土下座をして見せる


「…ふへへ…所詮は刀を向けられただけでビビる肝っ玉の小せぇ野郎だったんだなぁ」


 しゃくさわる態度を続けていた男が簡単に土下座して見せたことから、巨漢は喜びを超えた脳波を抑え込むことができない。


「あぁー!!お前は所詮その程度なんだよ雑魚虫がぁぁ!!」


 杉山に近づきそこら辺の地面と同じように頭を踏みつける。

 ただ、被害を受けている杉山は土下座をして以降先程のように特に何の言葉を吐いてはいない

 弱音も、悲鳴も、うなり声も一切吐かず、ただ単純にこの現状を頭で受け止めている

 雨の影響えいきょうで水分を多大に含んだ泥で顔全体を汚してもなお、土下座をやめることはなく、常に降伏こうふくの姿勢を見せ続けている。


「お…おい…やめろ!…です」


「あぁぁん!?」


 杉山がやってきた方角から杉山と同年代程度の背丈せたけの青年が声をかけてきた

 その声により、頭を踏みつけていた足が、地面に下ろされゆっくりとその青年の元へと標的矛先を変更する


「せっかく気持ちよくなってたのによぉ!?なんだぁ、餓鬼がきぃ!!」


「うっ…えっと…そもそも、ここはあなた達の場所じゃない…というか………」


 その後の言葉は口籠くちごもっていたせいで何と言っていたのかは聞き取れなかったが、意気揚々いきようようと出てきたというのにすぐさま弱気な小動物のようになるのを見て巨漢の男は口元を再度にやりと歪め、次の獲物おもちゃを見つけたかのような下衆げすい表情になる


「まぁ、許してやらんでもねぇけどよぉ!?土下座だよな土下座ぁ!!」


 その怒鳴どなり声に小声でぶつぶつと何かを唱えるようにしゃべり続けていた青年はびくりと全身を小さく振るわせ、少しの放心をした後ゆっくりと地面に体をとうじる

 杉山とに、少しずつ腰を下げ、膝が地面と合わさるよう程に下がった。


 ただ、この青年の様子には明確めいかくに杉山と違う点が一つあった。


 彼は、「泣いていた」のだ。

 相手を助けようと飛び込んだのはいいものの助けることができなかった不甲斐ふがいない自分に泣いているのか、巨漢の刃が自分に降りかかったことにおびえているのかは分からない。 


 声をふるわせ、身をちじませ、分かち合いたいであろうひとみから溢れ出る辛さは不幸にも雨によって洗い流される。

心の内に自身の辛さの全てを押し込み、ただ誰からも気づかれることなく泣いていたのだ


はないろは うつりにけりな いたづらに わが身世みよにふる ながめせしまに」


 もうじき青年の顔が地面と面しそうになると思われた直後、巨漢の背後から雨にれた土壌どじょうから聞こえてくるべちょべちょとした足音が聞こえてくる。


「…随分ずいぶん、恐れてしまっていたようだな、私は。」


 巨漢の背後から聞こえてくる声には、どこか落胆らくたんのような感情が読み取れる声が聞こえてくる


貴方あなた標的獲物は私じゃなかったのか?」


 巨漢の中々に発達している上腕三頭筋じょうわんさんとうきん辺りを軽くトントンと指の関節かんせつ辺りで叩きながら、問う。

 その発言には表情が一切見えていない巨漢にも脂汗あぶらあせにじみ出るほどに謎の威圧感が放たれていた


「なんだとぉ…?」


 巨漢は、杉山が放つ自身の怒りを逆撫さかなでするような淡々たんたんとした発言と無差別に放たれている自身とは違う不気味な何かに怒りと萎縮いしゅくという感情が複雑ふくざつに混ざり合い、どう処理することもできない状態じょうたいになってしまう。


(…わしはあやつのことを見ておった…なのになぜわしはあの者の歩みを止められなかったのだ…)


 舎弟のような男は事の一部始終いちぶしじゅうが全て目に焼き付けられるようにそれなりに遠くに位置していた。

 もちろん、浪人笠ろうにんがさを被った杉山の事もしっかりと認識していた。

 だが、何か不祥事ふしょうじを起こすと予想できた奴の動きを止めることはおろか、口に出すことすらできなかった

 そんな自身の現状に舎弟は何か良くないものでも見たのではないかと、全身の細胞さいぼう悲鳴ひめいを上げているように震えている

 

「…コロスゥゥゥゥゥ!!!!」


 既に巨漢の男に自身の本能ほんのうに抗う正常な思考力など残っていなかった。

 ただ本能に従って、自身の不安を取り払おうと、はたまたこの忌々いまいましいやからを殺そうと、雄叫びにも近い怒鳴り声を杉山に対して放ち、ついに腰に携えていた刀に手を伸ばし、そして引き抜く。

 ただでさえ日陰だというのに、悪天候による暗雲そらによって漆黒しっこくにも近い見た目の刀剣はここにいる者すべての不安を煽る

 

 ただ、一人を除いて


「…貴方がそれを引き抜くということは、命を差し出す覚悟はできているということか?」


「あ゛?知らねぇよそんなの、死ねぇぇ!!くそがぁぁぁぁ!!」


 構えも何も取らず、相手に対して猪突猛進ちょとつもうしんをしてくるその様子は不安ふあん激昂げきこうによって生まれたおろかな行為にして最大の過ちだった


「そうか…」


 杉山自身も巨漢が突撃してくるのを確認して、体を後ろに下げ、携えていた刀剣を引き抜く動作を取ろうとする。

 だが、相手が距離を詰めてくる速度の方がわずかに早く、抜き終わるころには、すでにその刃は振りかざされていた


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 刀を振り下ろすだけだと言うのに、周囲には不思議と永遠とわにも等しい時が過ぎた。


 巨漢によって振りかぶされたその刀身は二度と天をあおぐことはなかった。


 巨漢の男は、刀を地面に叩きつけているような態勢のまま硬直こうちょくしていた。 

 周囲がその状況に戸惑う余韻よいんもなく、次の瞬間には巨漢の首があっさりと地面に転がり落ちる

 杉山が行っていた動作というのは、巨漢が刀を振りかざしたその直後、特別早いこともなく、特別力を入れていたわけでもなく、特別顔色を変えていたわけでもない。

 ただ淡々と、ただ前方に歩くだけと言わんばかりに自然体と言わんばかりに通りすがりに巨漢の首をゆっくりと斬る。


 既に次の瞬間には、巨漢の首が転がり落ち、巨躯は流動するようかのようにゆらりと地面にうつ伏せになる


「…晴天の輝きが其方そなたの罪を洗い流さん…」


 そう言葉をこぼすと、先程までの豪雨が嘘のように碧羅へきらの天とも呼べるほどの良天候へと急変した

 狭い路地のような場所で唯一にして絶対の変化である天候の変化は、誰もが目を向けるはずだっただろう。


 だが、違った


 この場にいる皆の目をうばったのは、夢物語ゆめものがたりのように必然的で、疑念を抱くほど突発的とっぱつてき変貌へんぼうした空のわずかな光に照らされた幻想的げんそうてきな杉山の姿だった。

 巨漢の背後に立ち、さやを納めながら天を仰ぐその姿は神々こうごうしくて、この場にいた皆の永劫えいごうの記憶として脳に刻まれることとなるだろう


「覚悟あってのものだ。手向けはしないぞ。では、私はこれで失礼させてもらう。」


「あ…何…あぁ…逃げるんだぁ…」


 一人の人間を殺したというのに、この場の人間はだれもその事実に目を向けようとしない。

 一種の芸のように芸術的げいじゅつてきで、美しい一連の動作に身動きも取れなくなっている者と、死という言葉では明言しがたい得体のしれない恐怖きょうふによって逃亡した者。

 そんな者たちには見向きもせず、杉山はこの場から去ろうとする


「ま…待ってください!!」


 過ぎ去る背中をその場に留まってくれと懇願こんがんするのは、先程杉山を助けようとしてくれた青年だった

 その願いに応えるように、杉山は足をとどめ、早く話さないかと言わんばかりに背を向けたまま待ち続ける


「さっきの剣技は何ですか!?」


 目に光が宿っておらず、体中が汗だくになっているというのに口元は笑っており、今の青年は狂人きょうじん特有の猟奇的りょうきてきな表情になっている


「…驚いた。『なぜ助けたのか?』と聞くものだと思っていたが」


「え?えっと…すごい剣技だったもので…その事がどうしても気になっちゃって。」


 時間が経ったことである程度平静を取り戻すことができた。

 ただその代わりに、新たに生まれた心のわだかまりを無くそうと、不可思議ふかしぎの不明点を問い詰めたいという二つの要因によって青年は好奇心こうきしんとの暴君となった


「…貴様、名前は?」


「え?僕ですか?えっと…東勝正之とうしょうまさゆきと言います」


 突然の名乗れという発言に戸惑いはするものの、要求に答えたことで杉山の漏れ出ている威圧感いあつかんが多少軽減けいげんされる


「いい名前だね。さて、それじゃ教えてあげるとしようか。」


 背中せなかしに会話を行っていたのだが、ゆっくりと振り返り、青年の方向を向いてくれる

 不思議ふしぎなことに、振り返ると同時に正之まさゆきの方向に向かって少しずつ歩き始めた。


「簡単なことだよ。さっきのは――」


 正之は杉山のただ歩行をしている姿に、息を吞んでしまう


 恐怖による緊張だったり、目の前の神技ともいえるほどの剣技を披露した男の手の内を明かしてもらえることへ、心を躍らせているという特段とくだん大層たいそうな感情はない

 いたって冷静なはずなのにだ。


 今思えば、これは生存本能が思考を上書きして自発的に警告けいこくを出していたのだろう


「ただ歩いて、首を斬っただけさ。こうやってね」


 さっきまで歩くことしかせず、刀を抜く何の予備動作も取っていなかったはずなのに、次の瞬間には、その刃が正之自身の首元に軽く触れていた

 その抜刀を言葉に表すなら、特別早いというわけでもなく、特別動いているわけでもなく、時が止まっている中、無防備むぼうびな自分に刀を首筋に当てられたような感覚だった。


 刀を向けられている事を神経は伝えようとしていたというのに、脳に到達してなお危険だと判断できなかった。一歩も逃げることも、叫ぶこともできなかった


「…………」


「あはは。すまない、驚かせるつもりはなかったのだが。おっと、長く時間を取りすぎてしまったね。今度こそ本当の別れになるかな」


 硬直し、顔のパーツ一つ動かない正之に捨て台詞のようなものを残すと、この場からでは姿が見えないほど遠くに離れる


 突然になるが、杉山の剣技と同様の唯一ゆいいつにして本人の才の一例である能力を説明しよう

 

 彼は、生まれながらにして他者と比較して、その直感や五感で感じ取るという能力に長けていた。

 それは、自然におけるあらゆる物事を感知することもできるほどに卓越たくえつしていた。

 その力を人間相手に全てを向けたら、その力によって抽象的ちゅうしょうてきにはなるが、人の心を読み取ることも可能であった。


 そんな、杉山が最初で最後の本心を読み取ることができなかった相手がこの正之だった


 目の前の口を軽く開いた正之の表情を見て、杉山は驚いたと同類どうるいの感情をしたものだと考えていた

 それは、自身が直感によって読み取ってきた統合とうごうされた経験と、あらゆる場面に直面したことによる豊富なバリエーションの抜粋ばっすいによって導き出されった末の結果であった。


 だが、彼が本当に考えていた真意しんいというのは違った


(……初めてだ…刀を向けられて喜んじゃったのは…)


 そう、彼はのだ


 彼の、この状況と一致しない不適格ふてきかくな、狂気とも思える感情かんじょうは、子孫しそん代々受け継がれることとなる。


(……なぜ私は彼に対してといったんだ?度胸は認めているが…)


 この短い物語は、杉山の体験してきた物語のほんの一例でしかない。


 この先に進むうえで一つ、忠告をしておこう。彼の強さの全貌は才によるものではないという事を。


 この物語の後の話の杉山は、元々の目的である「ひっそりと一人で剣技をみがき続けられる鍛錬場たんれんじょう探し」という目的を終わらせ、修行にはげんでいた

 元々他人にはかることのできない未知数の強さを持っていた彼だったが、適切てきせつ修行しゅぎょうば場による武者修行むしゃしゅぎょうによって更に力を身につけることとなる


 時は進み、彼が辺境の山奥で修業を開始し始めて半年程度が経過した時だった。


「――――じゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 どこからか、人の叫び声が聞こえてきた。


「…だれだ?」


 その声に、杉山は警戒態勢を取り恐る恐ると近づいていく

 普通の場合ならば、人の声など聴いても不審に思うことはないかもしれない。

 もっといえば、こんな山奥なのだ。助けるという考えが先に浮かんでも不思議ふしぎではない


 だが、彼の場合は違った

 

 この場所は、絶対に人が来ないという目的が第一に作られた道も何もない場所に自力で小屋と小さな道を作ったという程度の辺鄙へんぴな土地である

 それに、家族ですらこの場所を教えた人間など存在しなかった


 なのに人の声が聞こえてきた。


 腰にたずさえた刀に手をかけ続け、いつも以上に神妙しんみょう面持おももちでその声の主に近づいていく

 人影が軽く見え、さらに人影が鮮明せんめいに見れるように近づいていく

 もうあと一歩で姿がとらえられる程度の地点に到達する。


「…何者だ?っ!!」


このあたりでは見かけない顔に、この時代で見たこともないような異様な服を身にまとった男を見て、迂闊うかつにも物音を立ててしまった


「あっ…こんちゃーっす」


 ようやく顔面を視認できる程度に近づくことができたことで、今両者の目が合う


 この時、未来最強の剣豪と当代最強の剣豪が初めて出会った運命の瞬間である。

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