第3話

「『吸収』…?」

「『吸収』なんて、初めて聞いたな…」

「ええ、だから今はまだ、他言無用にしましょう」

え?え?なになに、そんなにやばい感じ?俺の能力、良くないのか…?不安な表情が出ていたのか優斗がすかさず気にかけてくれる。

「兄さん、大丈夫だよ僕が付いてるから。ひとまず圭佑さんの話を詳しく聞こう」

「うん、そうする…」

そこから桧村の話を要約するとこうだった。


俺の能力は『吸収』。これは間違いないらしい。

桧村の能力は他人の能力を判定するもので、これはスキルを発動した際に触れていた者のスキルの名前と詳細が頭の上に浮かぶというものらしい。この桧村の能力を機械に応用して作られたのが、協会で利用したあの検査ボックスというわけだ。どうやら俺の頭の上に表示された文字は『吸収』で、詳細はきちんと確認する前に手を離したため見れなかったようだ。

「あ、じゃあもう一度触れて詳細確認しますか?」

「いや…やめておこう」

「どうしてですか?」

「きみのスキルが『吸収』というのは間違いないと思うよ。さっき君に触れた時、僕の能力が吸い取られる気がしたんだ」

「え…、えっ!?」

「なんとなく力が抜けるような、そんな感じさ。だから手を離したんだけど」

「うそ、え、俺桧村さんの能力吸っちゃったの!?」

「ああ大丈夫だよ、僕の能力が無くなっちゃったわけじゃないからね」

桧村は優斗に手を置いてスキルが発動できるか確認してみた。

「うん、私のスキルは問題なく発動しているよ、どうやら吸収されるときに力だけ抜けちゃうみたいだね」

「ええっなんだその能力」

他人の能力奪うって最悪のスキルじゃないか?と頭を抱える。

「今はまだ能力を使うのに慣れていないから、無意識に私の能力を吸収してしまったんでしょう」

「あ、じゃあコントロールできれば勝手に『吸収』したりはしないってことですか?」

「スキルは本人の意思がない限り基本的には発動しないから安心して大丈夫ですよ」

「そうなんですか、安心した…」

桧村の言葉にホッと胸をなでおろす。優斗は少し考える動作をしてから俺に話しかけた。

「兄さん、僕の能力吸収してみて」

「いや、いきなり何言うんだ!?」

「兄さんが僕の能力を吸収して、スキルの発動練習をすればいいじゃないか」

「自分の身は大切にしろ」

思わず優斗の体をパンチする。が、全く力が入っていないためびくともしない。こんにゃろ、鍛えられた身体しやがって…。自身の筋力の無さではなく、優斗の身体の丈夫さに文句を言う。

「ひとまず、吸収したスキルが使えるかどうかを確認してみませんか?」

桧村の提案に、確かに、と納得する。『吸収』するだけで、『吸収』したスキルが使用できないんじゃ、クズみたいな能力でしかない。他人の能力を奪うわけではないが、力が無くなる感覚を味合わせるだけ…なんだその能力。想像したが、あまりにも無力でしかない。『吸収』したスキルが使えれば、まあそこそこ使えるってとこだな。

「スキルってどうやって使用するんだ?」

「うーん、心の中とか口に出してそのスキル名を言うんだ」

「あ、じゃあ桧村さんの能力名は?」

「『鑑定』だよ、やってみてごらん。『吸収』のことは一旦頭から追いやってね」

『吸収』のスキルのことを考えているとまた無意識に『吸収』してしまうかもしれない。まだスキルを使うのは初めてだから一点だけに集中しようということだ。

「よし、じゃあ優斗、『鑑定』だけさせてもらうぞ」

「うんいいよ」

優斗が俺の手が届く場所に頭を差し出してくれる。なんか、大きくなったと思ったけど、こう見ると昔と変わらないな。俺に頭を撫でて欲しいと言って頭を差し出してくるのは。あの頃は俺の方が身長が高かったからこうやって優斗がしゃがむことはなかったけど…と思い出に浸る。

「兄さん?」

「あ、悪い。じゃあやるぞ、『鑑定』」

途端に、優斗の頭上に画面のようなものが表示された。なんだ、これ!?桧村さんにはこうやって見えてたのか!?

「なんか画面が見える!」

「ああ、それですよ『鑑定』スキル。やっぱり使用できましたね」

「おおー、これが優斗のスキル…」

本当は他人のスキルなんてプライバシーのようなものだから見てはいけないんだろうけど、優斗が良いって言ってるし、じっくりと詳細を確認させてもらった。


もらったは良いけどさ…こいつ最強すぎないか!?

「お前、とんでもないステータスしてるんだな…」

しげしげと見ている俺に、桧村は少し疑問を感じたようで訪ねてきた。

「ステータスって、スキルとスキル詳細以外にも見えているのですか?」

「え、桧村さんも見えてるんじゃないんですか?」

「…いえ、私はスキルとスキルの詳細だけですね」

桧村は携帯を取り出して、画面にタッチをして何かを書き込む。

「私にはこういう感じで見えていますよ」

桧村が見せてくれた画面と、俺が見えている画面は少し異なっていた。

スキルとスキルの詳細が書かれているのは間違いないが、俺にはその人物のレベルや体力といったステータスまで見えていた。そのことを伝えると桧村は少し驚いた様子だった。

「『吸収』したのとは違う能力になるってことでしょうか…?」

「なにか変な感じしますね、『吸収』した以上のスキルになるのはおかしくないですか?」

「そうですね…綾斗くん、失礼でなければもう一度私が『鑑定』してみてもいいでしょうか」

「俺は別に構いません…でもまた勝手に桧村さんの能力『吸収』しちゃったら迷惑じゃ…」

「先ほど優斗くんを『吸収』せずに『鑑定』だけ行えたでしょう?次は問題ないと思いますよ」

自身を顧みず桧村は笑顔で諭してくれた。

「ではお言葉に甘えて…よろしくお願いします」

無意識に『吸収』しないように、忘れて、忘れてっと。桧村のことだけを信じて『鑑定』してもらおう。先程と同じように桧村に手を当ててもらう。

「ふむ、どうやら大丈夫そうですね、詳細をメモに取るので待ってくださいね」

そうして無事に桧村の再『鑑定』は済んだ。


どうやら俺には『吸収』以外のスキルがすでに2つあった。

一つは先程桧村から『吸収』した『鑑定』、もう一つは『進化』だ。


「『進化』?」

「ええ、詳細によると、『習得したスキルを進化させるスキル』のようですね」

「え!?てことは、吸収した『鑑定』が『進化』してステータスまで見れるようになったってこと?」

「そのようですね」

「やば…」

俺、こんなスキル持ってて大丈夫か…?なんだか急に不安になってきた。っていうか、なんで俺、『進化』なんてスキル持ってるんだろ?

「ひとまず綾斗くんもまだ病み上がりで大変でしょうから、今日はこの辺にしておきましょう」

「そうですね、ありがとうございます…」

「私は優斗くんのギルドメンバーでもありますので、またすぐにお会い出来ますよ」

「そうなんですか!?優斗がお世話になって…」

「ははは、能力もわかったことですし、まずは体力をつけて元気になってくださいね」

「がんばります!」

そうして桧村は病室から出ていった。優斗は先程からあまり喋っていない。何かをずっと考えているようだった。

「優斗、どうかしたのか?疲れたならお前も帰って休めよ」

「いや、兄さんの傍にいれば元気出るから大丈夫」

「何言ってるんだお前、俺の看病できちんと休めて無いだろ」

「本当に大丈夫、僕のステータスも見たでしょ」

「う…そうだけど」

「だから兄さんは心配しないでゆっくり元気になってね」

「…おう」

優斗にそう言われ、ベッドに身体を沈めた。はあ、やっと一息ついた感じだな。優斗も忙しいだろうに俺なんかの面倒ばっかり見て大丈夫だろうか。無理しないといいけどな。

そんなことを考えながらやはり今日一日の出来事で疲れていたのか、瞼がゆっくりと閉じていく。

そうだ、寝る前に優斗に聞きたいことがあったんだ。ここ数日目覚めたばかりでバタバタとしていて聞けなかったことだ。

「はやと…どこ」

「ッ!」

俺の、大切なもう一人の弟。10年経ったお前は、優斗みたいにかっこよくなってるのかな?

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