第2話

(俺は今、この状況をよく理解できていない)

ここは能力覚醒者協会。弟の優斗に連れてこられ、能力覚醒の検査を行うそうだ。車いすに乗った俺を押す優斗は、昔の記憶と違ってかなり背が伸びて、イケメンだ。

(俺と同じ血が流れてるのに、なんだこの差は?)

現状を理解できないのと同じくらい、弟の成長具合に納得がいかない。鏡で見た俺の顔は、超ゲッソリしていて昔の面影も残っていないくらいだった。髪もそこそこ伸びて汚いし、頬はこけて全然健康的に見えない。でもこれは最初の頃よりはマシな方である。だって10年間も寝続けてたんだから、筋力も衰えて見た目なんて全然良くないに決まってる。


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あの日現れたドラゴンを倒した(?)らしい俺は、ドラゴンの上で倒れた。そこへ弟の優斗がやってきて、優斗は俺の姿を見てパニックに。周囲にあふれていたモンスターに脇目も振らず俺の傍を離れない優斗。でも周りにいた仲間らしい人たちのおかげで、何とかことを収めることができて一件落着したらしい。


いや、俺のことは一件落着なんて全然しなかったんだけど。翌日に目を覚ました俺の身体には弟の優斗がへばりついていた。何とか優斗を離そうとするも、そもそも筋力が無くなったのか腕を動かしたりすることもできない。離れろって言おうとしても声も出ない。目も半分しか開かない。優斗は泣いて離してくれない。

(この状態、誰かどうにかして、無理…)

青ざめた俺に気づいた優斗はすぐに医者を呼んだ。医者がビクビクして泣きそうな顔をしていたが大丈夫だろうか。

そうして医者から、俺は長い間眠っていて身体を動かしていないため、筋力が衰えておりすぐに動くことはできないと説明された。

(10年間も眠ってただって?!だから優斗こんなに変わってんの!?)

現状に驚きを隠せない俺は医者の検診が終わった後、優斗から10年前から現在までの世界の状況を説明された。

(優斗が世界屈指の高ランク能力覚醒者で、しかも国内最強の内の一つのギルドマスターか…)

立派に成長した弟に、兄としての威厳は無くなったと落ち込んだりはしたが、それでも弟が強くなって世間に認められているのはとても嬉しいことだ。

そうして分かったことだが、俺はどうやら能力を覚醒したらしい。でなければドラゴンを倒すことなどできなかっただろう。優斗も遠目からではっきりとは見えていないが、爆発の規模やドラゴンの遺体から見れる戦闘の跡を見るに、間違いないそうだ。


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そういうことで、きちんとどんな能力に覚醒したのか確認をするためにこうして能力者協会にやってきたのである。しかし、俺はまだ目覚めて日も浅く、自分自身の力で動くことも立ち上がることもできない状況。すっかり元気になってから協会に来たかったが、一日でも早く能力者の資格を認められるとその分金額やリハビリの支援も受けられるとのことだった。

まあ今まで弟の優斗が全部面倒見てくれてたんだけど、目覚めたからには弟に頼ってばかりはいられない。兄としてしっかりせねば、という思いでこうして頑張っているのだ。偉いぞ

俺。優斗は協会に検査に行くことを反対していて、わざわざ俺が行く必要ない、協会に来てもらえればいいとか言っていたけど、そんな特別扱いは駄目だ。

と言うわけで、車椅子ではあるがこうして能力者協会に来たのである。


検査はいたって簡単!

・ボックス型の機械に入る

・外から何かポチポチして操作される

・能力の判定結果が出る


これだけだ。どうやらボックス内での検査でどのような能力を持っているかが分かるらしい。10年経って技術も進んでるんだな、なんて思いながら車椅子を押されてボックスの中に入る。透明のガラスなので外の様子もよく見える。こちらを少し不安そうに見る優斗に笑顔で手を振る。目覚めてから毎日きちんとリハビリしてなんとか手とかは簡単に動かせるようにはなってきているのだ。


ブーン


どうやら機械が作動したようだ。

(俺、どんな能力持ってるんだろ?ドラゴン倒したから高ランク能力だったり?)

なんて思っていると、突然ボックス内の温度が上がったのか体が熱くなってくる。なんだこれは?と思い外を見てみると、優斗が必死な顔をしてこちらを見ていた。

「兄さんッ兄さんッ大丈夫!?」

「熱い…」

「兄さんッ!?」

急な熱さにやられたのか、俺はぐったりとしてそのまま意識を失ってしまった。


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「んぁ…」

ぼんやりとしながら目を開けると、いつもの病室だった。

(あれ、俺どうしたんだっけ?協会に行ってたような…)

「兄さん、起きた?」

「優斗…俺…?」

「協会の検査ボックス内で意識を失っちゃったんだよ…」

「そうか…」

目を覚ました俺にすぐに気づいた優斗が声をかけてくれた。表情はとても苦しそうで、悲しそうで、辛そうだ。力を入れて頑張って手を伸ばすが、思うように優斗の顔には届かない。でも代わりに優斗が俺のプルプルと震える力のない手を握ってくれた。

「兄さん、ごめんね、俺が付いていながら」

「何言ってんだ、お前のせいじゃないだろ」

「でも…」

「そんな悲しそうな顔するな、俺はお前に笑っていて欲しい」

「兄さん…」

「身体は大きくなってもお前は変わらないな」

ふ、と優斗に笑いかけて慰めてやる。思うように動かない手に少しだけ力を入れて優斗の手を握る。

「俺は大丈夫だ、それより何があったんだ?」

「そのことなんだけど…」


話によると、どうやら俺の能力が関係している、かもしれないそうだ。

かもしれない、というのは、検査ボックスが壊れてしまって結局のところ正確には俺の能力の判定ができなかったからだ。ボックスが壊れる前に出た数値は、高ランクのものを差してはいたが、その能力の種類が分かる前に壊れてしまったようだ。


「そんなことあるんだ」

「今までこんなことは無かったんだけどね…でも能力の種類がわからないと兄さん自身にも危険が及ぶかもしれないからきちんと能力判定できる人を呼ぶことにするよ」

「そこまでしなくても大丈夫だぞ?」

「駄目だよ、自分の能力を理解していないと変に使っちゃって反動とかで大怪我した人たちもいるんだ」

「何それこわい…」

「だからちゃんと僕の言うこと聞いて、ちゃんと検査しようね」

「はい…」

優斗に諭されながら、これじゃどっちが兄か分からないな…と少し悲しくなりながら、今の俺にはどうすることもできないので言うことを聞く。


コンコン

どうやら誰かが訪ねてきたらしい。協会の人か、優斗のギルドの人だろうか?

「こんにちは優斗くん、初めましてお兄さん」

「兄さん、こちら桧村佳佑さん。さっき言ってた兄さんの能力判定してくれる方だよ」

「あ、優斗の兄の波澄綾斗です、この度はよろしくお願いします」

「気にしないでください、優斗君の頼みですから」

どうやらこの桧村という人と優斗は仲がいいようだ。優斗がこんな穏やかな顔で接している人を見るのは目覚めてから初めてだ。それ以外の人にはいつも険しい顔をしていたので不思議に思った。それが表情に出ていたのか、優斗が答えてくれた。

「兄さん、圭佑さんは10年前に僕たち2人を危険範囲外まで連れ出してくれた恩人だよ」

「え!?あの時の恩人!?」

思わず驚いてしまった。恩人にこんなに早く会えるなんて!

「感謝してもしきれません、助けていただき本当にありがとうございました」

「いえいえ、あの時は一人でも多く助かることが大事でしたから、当たり前のことをしただけですよ」

「でも…、それに、今日もわざわざ俺の為に来ていただいたみたいで…」

「本当に気にしないでください。私も優斗くんにたくさん助けられてきたので、むしろ僕が恩人だなんておかしな話です」

ははは、と笑いながら話す桧村はとてもいい人だった。優斗もとても信頼しているようですぐに俺も打ち解けた。10年間の優斗の話を聞けたのはとても有難かった。

「それじゃあ、そろそろ綾斗くんの能力判定をしましょうか」

「はい、お願いします」

「綾斗くんはとくに動かずそのままにしていてくれて大丈夫ですからね」

そういうと桧村は綾斗の頭に手を置いて、何かスキルのようなものを発動した、みたいに見えた。正直スキルに関しては初めて見るから分からない。けどなんとなく今スキルを発動したんだな、というのは分かったのだ。

(…あれっ?)

桧村がスキルを発動してからすぐにまた、身体がほんのりと熱くなってきた。桧村から発せられているオーラのようなものが自分の身体に取り込まれているのを感じる。

「…!」

桧村が驚いて綾斗の身体から手を離した。

「どうしたんですか?」

「…あ、ああ、少し驚いてね」

優斗がいつもと違う様子の桧村に疑問を投げかけた。桧村は冷汗が流れるのを感じた。

(今、確かに…)

どう説明したものか、と桧村は顎に手を置き少し考える。

俺はその様子に訳が分らないが、先程熱くなった身体が元に戻っていることに疑問を感じていた。

(なんだったんだ、さっきの?目覚めた時と同じような、感覚)

思わず自分の身体を見下ろしてみるが、これといった変化は感じられなかった。

「今から言うことは、恐らく他の人には言わない方がいいでしょう…」

「え?」

「綾斗くん、あなたの能力は『吸収』です」

「『吸収』…?」

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