第122話

前回同様に強い光が指輪から放たれる。


お父さん、お母さん、私頑張るから……。


異次元の空間が徐々に指輪からの光で穴が塞がっていく。徐々に塞がっていく様子を横目で見ている騎士達から徐々に歓声が上がっていく。


今回も指輪から吸い取られる魔力を必死にコントロールを試みる。


……苦しい。

やはり意識も持っていかれそうだ。

けれど、前回に比べ魔力はまだ底を突いていない。


大丈夫、大丈夫、そう思いながら必死に魔力を指輪に流し続けると、突然魔力が指輪から押し返されるような感覚になった。前を見ると、異次元の空間は虹色の光が覆いつくしている。


そして、ゆっくり、ゆっくりとその光は小さくなり、ついには完全に無くなった。


終わった。


……終わったんだ。


私はそのままペタリと地面に座り込んでしまった。


「「「オォォォ!!!! 異次元の空間が無くなったぞ!!!!」」」


雄たけびのような騎士達の声に呆然としている私。


「ナーニョ様! 大丈夫ですか!?」

「……カノート団長。……終わりました」

「おめでとうございます!! 終わりましたよ。立てますか?」

「大丈夫です。魔力もまだ残っています」


私は団長から差し伸べられた手を取って立ち上がり、パンパンとお尻の土を払った。


「本当に、終わったんですね」

「えぇ。ですが、街に戻るまでが仕事です。最後まで気を引き締めて戻りましょう」


カノート団長はみんなに聞こえるように大声で指示を出す。


「異次元の空間は閉じ、目的は達成された! これより全軍帰還する! 最後まで油断するな!」「「「ハッ!」」」


私達は魔獣たちを倒しながら街へと戻っていった。街に戻って街の人達を見ると、ジワジワと心から溢れてくる思いに涙も出た。


……街に戻った。


本当に、空間を閉じる事が出来た。街の人達も私達を見て徐々に理解し、地鳴りのように響く歓声。


「これより三日間の特別休暇に入る。いいか? はめは外すな!」

「ハイ!!」

「では解散!!」


訓練所に整列した私達は団長の声でワァッと騎士達は動き始める。


「ナーニョ様、大丈夫? 頑張ったね」

「エサイアス様、ついに、やりましたね。私一人では何も出来なかった。エサイアス様や騎士の皆様のおかげです」

「そんな事はないよ。俺達はナーニョ様を守ることしか出来ない。成し遂げたのはナーニョ様だよ。お腹減ってない? この後一緒にご飯を食べに行こう」

「おいおい、エサイアス。抜け駆けはいけないぞ? 俺達もナーニョ様と食事をしたいんだ」


第九騎士団団長のキャッセル団長がエサイアス様の肩を組む。


「あぁ、そうだぞ? みんなで一緒に食堂へ行こうじゃないか。今日ばかりは街の食堂を貸し切りで飲もう」

「その前に、俺達は報告書を書かねばならんがな!!!」

「私も報告書を送らなければいけないので駐屯所に戻りましょう? みんなで書けば早いですし」


ワイワイガヤガヤと各団の団長と隊長達は一同に集まり、今日の話し合いをした後、報告書を書いる。


その間、私は用意された軽食を口にしていた。魔力は残っているとはいえ、かなり消費したのでお腹がペコペコだった。


『ローニャ、遅くなってごめんね。今、駐屯所で軽食中。無事に異次元の空間を閉じることが出来たわ』

『おねえちゃんっ、本当!? すぐにお父様達に報告してくるね!!』

『えぇ、お願い』


団長達は私とローニャの会話を横目に報告書を急いで書いている。しばらくすると、父からの手紙が送られてきた。封を開けると。


―この度はよく頑張った。無理はしていないか?グランディアもケイルートも心配している。今はゆっくり休みなさい。―


そう書かれてあった。読んだ後すぐに


『お姉ちゃん、お父様から皆で使いなさいって。今から送るね。少し、スペースがあるところにいてね』


ちょうど広い駐屯所の食堂にいたおかげで助かった。袋に入った金貨と手紙。そして樽が十樽ほど送られてきた。


団長は早速手紙を読むと、褒美の一部のようだ。食事とお酒を楽しむようにと書いてあったらしい。あ、でも報告書はしっかり提出しろと書いてあったようだ。


皆で笑い合いながら報告書を仕上げ、すぐに書類を送り、私達は街へと繰り出した。先に休暇に入っている騎士達は既にエールやワインを飲みできあがっていたわ。


私達は団長と隊長達と一緒の席に着き、エールを飲み、食事を楽しんだ。この喜びを生涯忘れることはないわ。


この世界に来てようやく平和が訪れようとしているんだもの。


私は食事が終わった後、一足先にエサイアス様に邸に送ってもらった。


エサイアス様は戻ってまたみんなと一緒に飲むと言っていたわ。今日は夜通しで飲み明かすのだろう。


私はベッドで少しローニャと話をした後、そのまま眠ってしまっていたようだ。

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