第121話
『おねえちゃんっ。お父様から話を聞いたよ! 大丈夫だった?』
『ローニャ。色々頑張ってくれてありがとう。騎士達もかなり助かってたわ。怪我人が誰もいなかったの。凄いわ』
『そうなんだ。良かった。異界の穴はどうだった?』
『魔物がウジャウジャ出てきていて正直怖かった。でもローニャが作ってくれた指輪のおかげでかなり助かったのよ?』
『半分は綴じたんでしょう? 指輪はどんな感じだった?』
『そうね、まだ改良が必要かもしれないわ。指輪を使うと七色の光が穴に向かっていったんだけど、魔力を強制的に吸われているような感じで危なかったわ。
枯渇する前に指輪を無理やりとって終わらせたの。魔力の八割位を使って半分閉じた感じかな』
『そっかぁ。ちょっと強すぎたんだね。まだまだ改良しないといけないね』
『そうね。私の魔力が枯渇するまで使っても半分しか塞がらないのは怖いわ。
もう少し魔力が抑えられれば嬉しいかな。でも一番は自分で出力の調整が出来るようになりたいわ』
今日も街へ戻るまでの間に不安だった。せめて自分で出力の調整は出来るようになりたい。
『わかった! 今回閉じるのには間に合わないけど、次には間に合うように作らないとね! そうだ、明日は午前中に第五団の残りの人達と第九団の一部が転移してくる予定だよ。
みんな閉じる瞬間の奇跡を味わいたいのだとか。
今回の討伐はかなり力を入れているみたいで穴が閉じた後、みんなで周辺の魔獣を討伐しきるまで頑張るらしいよ』
『そっか。でも、ここで魔獣が退治出来るなら数年は安定するものね』
『そうだね。その間に次代の魔法使いの育成や産業が安定するからかなり違ってくるよね。私達みたいな孤児は減るしね』
『そうね』
もう私達のような子供が増えないことを祈りたい。そのためには全力を尽くすしかない。
『ローニャ、無理しないんだよ?』
『おねえちゃんもね?死なないでね』
『大丈夫よ? お姉ちゃんは強いんだから。知っているでしょう?』
『……そうだね。でも無理しないでね』
ローニャとの会話を終えた後、ベッドに寝転がりながらグリスコヒュールの指輪の使い方を考えた。
さすが最高位に位置する魔法。魔法を勉強して日頃から魔法を使っている私でもやっと使えている程度。
お婆様はどうやって使っていたんだろう?
あの時、私とあまり変わらない魔力と言っていたわ。
やはり指輪の形状なのか。
今後は全ての魔法がもっと使いやすくなっていくと思いたい。
翌日は極力魔力を使わないように騎士団を迎え入れる以外は部屋で過ごすことになった。
この間も街の人達は交代で結界を守っているようだ。
オリヒスさんが状況を教えているようで不安だった街の人達も安心しながら結界を守り続けているらしい。
やはり状況を知っているのと知らないのとでは気持ち的に違うわよね。
騎士達は何班かに分かれて魔獣の討伐をしていた。やはり半分空間を綴じたおかげで魔獣の数は劇的に増えていることはないらしい。
ただ、おびただしい数を討伐しているのだからこれを処理するのは大変だと思う。騎士達のおかげで明日の異次元の空間へは少しばかり楽になったらしい。
そうして迎えた当日の朝。
私は緊張した面持ちで準備をし、駐屯所に向かった。少し早く着いたせいか騎士達は各自運動をしたり、剣を研いだりと今日の魔獣討伐に向けた準備していたわ。
「一同整列、これより世界の歴史を覆す我々の戦いが始まる。誰も怪我がないように気を引き締めていけ!!」
「「「オー!!」」」
第五団から順に街の入り口へと向かっていく。
異次元の空間が綴じることが出来るかもしれない、その話を聞きつけた街の人達は騎士達を応援すべく、大勢集まり声援を送った。
私も前回同様に後方を護衛騎士に守られながら付いていく。
街を出るとすでに魔獣の遺体がそこかしこに積まれていたわ。
前回に比べ、突撃してくる魔獣が少なくなっていて私の回復魔法も殆ど使わない状態で異次元の空間の付近までやってきた。
いよいよ私の出番が来た。
ここにきて一気に緊張が高まっていく。
前回のように無事魔法を発動出来るだろうか?
魔力は足りるのか?
失敗してみんなの迷惑にならないか?
「今から空間を綴じます。呪文の間、どうしても無防備になってしまいます。どうか、皆様のお力をお貸しください」
第五騎士団が私の周りを囲うように陣を組み、両側を第九騎士団、第十二騎士団が対応する。
空間に魔法が届くギリギリの距離まできた。震える手を叱咤するようにギュッと力を入れた後、指輪を付けた。
大きく息を吸い、集中する。
「グリスコヒュール!!」
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