第118話

「結界が無事に張れました。後は少しの魔力を使って維持していくだけです」


私の言葉にわぁぁと歓声が上がった。オリヒスさんの指示の下、一人ずつ並んでいく住人達。残念ながら魔力がないと言われた人達は見守るしか出来ないが、彼らは彼らで椅子を用意したり、担架を準備している。


最初の一人が牙に触り、私と交代する。指輪が無いと最初は難しいのでは? と思っていたけれど、人間である彼らは本来指輪が無くても魔法が使える。


今回は牙に触ると魔力を吸い取られる形で問題なく結界を維持できる事が分かった。


「おぉぉ。このじわじわと少しずつ吸われているのが魔力なんですね!!! 魔力を感じる! 凄いぞっ」

「体調に変化が出てきたらすぐに次の人と交代して下さいね」

「分かりました!」


住人の数からすれば結界はこれで問題ないだろう。ここからは私達と騎士で魔獣を倒しながら空間の場所を探していかなければならない。


「ナーニョ様、少し休もう。魔力もかなり消費しているよね?」

「でも、私が動かないと」

「大丈夫。心配ない。待っているから。その間、魔獣の倒し方の情報共有や準備を整える時間だ」

「分かりました」


私は護衛騎士と共に一旦邸に戻り、食事を摂る事にした。どうやらその間にエサイアス様の下に王宮から対魔獣用の武器や装備が送られていたようだ。


こちらの方もかなり研究が進み、以前とは比べ物にならないほど使いやすく、効果が大きくなっている物が殆んどだった。


『おねえちゃん、半日後には魔力が戻りそう?』

『多分戻るわ。半日後だったら明日の早朝よね?』

『うん。その辺りなら私も魔力が回復するから魔法円を描いていてあると助かる』

『魔法円? 誰か来るの?』

『うん。お父様の指示で第十二騎士団だけだと人数が足りないから他の騎士達も送ることになったの』

『本当!? すぐにエサイアス様に伝えてくるわ』

『うん! 私も参加したいって言ったけど、止められて行けそうにないの。おねえちゃんの側に居たいのに』

『大丈夫よ! ローニャは最後の希望なのよ? 絶対に私はやり遂げて見せるわ。そこでお父様と一緒にいてちょうだい』

『……分かった。おねえちゃん、ちゃんと戻って来てね』

『えぇ、必ず』


私達はそこで会話を止めた。少しでも魔力を満タンに出来るよう食事を多く摂る。食後にエサイアス様の下へ行き、先ほどの事を伝えた。


エサイアス様は隊長達を呼び、会議を始める。私は駐屯所に併設されてある訓練場の真ん中に魔法円を描いていく。


あれだけ発動が難しいと何度も描いていた魔法円。今はもう懐かしいくらい。


パロ神父様、私、頑張ります。


描き終えた魔法陣に魔力を通すとボワンと光に包まれた。大丈夫。しっかりと発動が出来た。あとは明日を待つだけ。

多分だけど獣人の世界の軍隊でかなりの人数が移動していた。同じように何回かに分けて人が送られてくるのだろう。


残念な事に土に描いた魔法陣は毎回足跡で消えてしまうのでその都度描いていくしかない。


私は護衛騎士に起こしてもらうようにお願いをしてベッドに入った。緊張と不安で中々眠れなかったが、いつの間にか眠っていたようで朝、護衛騎士が起こしてくれて慌てて起きた。


朝食を無理やりお腹に押し込み、急いで訓練場へ向かった。エサイアス様や隊長達は既に揃っていた。


「遅くなりましたっ」

「ナーニョ様、おはよう。大丈夫ですよ?まだ騎士達は送られてきていないよ」


しばらくするとローニャから伝言魔法が飛んできた。


『おねえちゃん、そろそろ準備はいい?』

『こちらはいつでもいいわ』

『了解』


するとすぐに魔法円は光り、一瞬にして三十人程の人達が送られてきた。彼らは事前に聞かされているようですぐに場所を移動する。


私は魔法円を再度書き直して魔法が発動するか確認した後、ローニャに伝言魔法を送る。そうして第二、第三、第四、第五陣まで騎士達が送られてきた。


『おねえちゃん。今回はここまででごめんね』

『充分だわ。ありがとうローニャ』


ローニャの魔力が切れたのだろう。返事は返ってこなかった。送られてきた人達は巡視に参加していなかった第十二騎士団の人達や第五団が派遣されてきた。

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